第2話 約束

「なるほど、話は分かりました。鬼神様は聞いていましたか?」

「聞いてたよ。でも、話だけだと分からないから、今は何とも言えない。それより君、赤羽根凛とか言っていたよね。凛は今までどんな生活を送っていたの?」

「え…………っと?」


 今回ここに来た経緯を話した凛。何か思うところがあるようで、眉間に皺を寄せながら話していた。


 話の内容は――――…………


 凛の友達である、佐々木雫が毎晩変な屋敷に連れ込まれ、何者かから逃げ回る夢を見るという物。


 雫は見た目だけで言えばモデルと言っても過言では無い。顔は整っており、スタイルも良い。だが、男癖が悪く、取っかえ引っ変えしていた。

 凛はそんな雫に何度か注意していたが、改善されないため、巻き込まれないように自衛して過ごしていた。


 そんな雫からの突然の相談。凛は友達だからと、ひとまず話を聞きここまで来た。


 雫が言うには、追いかけてくるのが人なのか、それとも人ではない何かなのか分からず、わかるのは二つのみ。


 追い付かれたら、もう現実の世界には戻れない事と、女のような声が聞こえる事のみ。


 そんな夢を見始めてから、雫は夜眠るのが怖くなり寝れていない。

 疲れから来ている悪夢か、憑いているのか分からない為、気楽にお祓いに行く事も出来ず、噂を頼りにここまで来たと二人に説明をした。


 だが、そんな話を聞いた勇人は興味なさげに話を逸らし、彼女の今までの生活について問いかけ始めた。端から聞いたら変態のような言動に、凛は隣で頭を抱える時雨に助けを求める。


「ひとまず、今は彼女の生き様や生活は関係ありませんよ。貴方の好みである彼女が助けを求めているのです、本気で解決策を考えてあげてください」

「えぇ、やる気でない。だって、この子自身が困っているのなら別だけど、友達でしょ? 私には関係ないもん」


 そっぽを向き、不貞腐れたように腕を組む。


「あの、どうすれば助けてくれますか?」

「君が何かしてくれるの?」

「わ、私に出来る事なら…………。あ、でも、あの……。えっと、こ、恋人同士でやるような事は、無理です…………」


 顔を真っ赤にし、小さな声でゴニョゴニョと凛は伝える。だが、今の言葉を理解出来ない勇人は首を傾げた。


「恋人同士がやるような事? 何それ、キスとかって事?」

「そっ、れもありますが…………」


「あの、えと…………」と、何か言いたげにし、でも何も言えず口を閉ざす。そんな彼女に助け舟を出すように、時雨が口を開いた。


「あれですよ、鬼神様。性行為の事です。貴女の今までの言動や行動を見て、その心配をするのは無理ないでしょう」

「あぁ、子孫を残す為の行為の事か。それなら安心していいよ。確かに私は男だが、狼という物にはならない。私がお願いしたいのは一つ、君を食べたっ――……」

「絶対に嫌だ!!!!!!」


 悲鳴に近い凛の声に、キョトンと、目を丸くして彼女を見る勇人。またしても時雨が助け船を出した。


「食べるってそういう事ではなく、君の血液を少し分けてほしいという事ですよ」

「え、え? いや、それはそれで何でですか…………」

「鬼神様は吸血鬼の血を引いているのです。なので、デザート代わりに血を飲み、楽しんでいるんですよ」

「デザート代わりに、血? え…………」

「安心してください、少しだけでいいのです。あと、これは私からのお願いです」

「え、お願い?」

「はい。これから貴方は、鬼神様の目になっていただけませんか?」


 話が非現実的すぎて、凛は理解出来ずぽかんと口を開くのみ。


「わかりにくいですよね。ですが、友人を助けたいのなら、このくらいはやっていただかなければバランスが悪いと思いますよ? 欲しい物は何でもただで手に入る訳ではありません。何かしら払わなければならない、お買い物と同じです。今回はお金ではなく、少量の血だけなのです。目も、一緒に行動をしてくださるだけでいいのですよ。安いものでしょ?」


 人差し指を立て、笑顔で伝える時雨。凛は何もわからず、顔を俯かせてしまう。そんな彼女を時雨は見ており、何も口にしなくなった。

 ここで口を開いたのは意外にもそっぽを向いていた勇人。ゆっくりと口を開き、組んでいた腕を解いた。


「私は霊が見えないし、夜にしか行動出来ない。けれど、約束さえ守ってくれれば、必ず君の友人を助けるよ。約束出来る事から、私の手を握ってくれないかい?」


 右手を差し出す勇人。優しく微笑まれた口元に安心感があり、凛は少し悩んだ結果、差し出された手を握った。


「……あの子を、助けてください」

「うん。わかったよ。それじゃ早速――――」

「きゃっ!?」


 勇人が凛の差し出された手を握った瞬間、何故かいきなり手を引かれ、抗う事が出来ないまま彼の腕の中に入ってしまう。顔を赤くしながらも、離れようともがく彼女だが、男性の力に勝てる訳もなく、腕の中でじたばたと動くのみ。


「な、なんですか!!」

「いただきます」

「えっ」


 耳元から聞こえた吐息と、妖しい言葉。その時、凛の首筋にチクッという、まるで注射でも打たれたかのような痛みが走った。


 生暖かい感触、なめられているような、何かが吸われているような感覚。

 先程の話を思い出し、すぐさま血を吸われている事に気づいた凛。

 恐怖と恥ずかしさで、凛は体を勇人に預け気を失った。

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