エピローグ
第36話:ずっと
「ありがとう、それじゃ行くわね」
女性として抜群な身体をカウボーイスタイルに包んだ金髪碧眼の西欧系の美女はそう言いながらハーレーダビットソンのようなバイクにまたがる。
後ろにはキャンプにでも行くのかと言う位なたくさんの荷物が積まれている。
その中には すす汚れたアタッシュケースも含まれていた。
雑貨屋で必要なものを電子マネーでの支払いで済ませ、スマホのような端末で地図の目的地を確認してからそれを胸のポケットにしまい込む。
と、その大きな胸の為にスマホのような端末がポケットからはみ出ているのに苦笑しながらしまう場所を腰のポーチに変える。
そしてサングラスをしてから電気で動くバイクを走らせ始める。
ハイウェイを走る車は少ない。
あれから三年が経った。
ミシャオナは十九歳となり、ここ地球になじんでいた。
レーメルが残していった電子マネーはこの混乱期でもなんとか使えた。
おかげで地球での生活は問題が無かった。
メグライトの記憶媒体であるアタッシュケースの中にレーメルはいなくなっていた。
あの時レーメルはカプセルのコントロールユニットに自分の本体を移しその持てる力のすべてを使ってカプセルの姿勢制御をしていた。
外部の記憶媒体からの通信では到底間に合わないような速度で演算を繰り返し、そしてコントロールする為には自分自身がそのカプセルのシステムに入り込む必要があった。
そして見事ミシャオナを地球へ送り届けた。
しかしそのカプセルは最後に大気圏の摩擦熱に耐えきれず爆発してしまい、その破片がこのアメリカ大陸に飛散した。
ミシャオナはカプセルを制御していたコントロールユニットを探している。
地球でコロニーの脱出カプセルの構造について知ったミシャオナはレーメルが残っているかもしれないコントロールユニットを見つけ出そうとしていた。
脱出カプセルとは言え、一度に何十人も載せられ、更に万が一の時の為に搭乗者ごとに分離が出来るその構造は如何にして生存率を高めるかと言うものになっていた。
当然そんなカプセルをコントロールしていたユニットも相当なものが使われていた。
当時出始めだったメグライトも使用されたコントロールユニット、ミシャオナはこの三年間ずっとそのコントロールユニットを探している。
そして先日あの時の流れ星がここから三日ほど東に落ちたと言う話を聞いてそこへ行ってみる事にした。
今までにカプセルの破片は見つけたがまだコントロールユニットやそれ以外の大型の部分は見つかっていない。
いくら爆発したとはいえ、それ等が残っていればレーメルのデーターも残っている可能性があった。
見えて来た荒野の岩山を見る。
そこが今回の目的地であった。
ミシャオナは何も無いハイウェイからわき道にそれてバイクを止める。
そして探知機を引っ張り出し周辺の捜索を始める。
「ふう、三年も経ってしまうと風で砂に埋もれてしまう場合もあるわね……」
そんな事をぼやきながら周辺を探索してゆく。
そのまま岩山の方まで行く。
そして岩山の向こう側に大きなくぼみがある事に気付く。
「もしかして!」
そう言いながら駆け出していた。
そしてそのくぼみの端に立つとそれはクレーターのようになっていた。
「間違いない!」
ミシャオナは探知機の反応も確認して走り出す。
そして半ば砂に埋もれたその物体に辿り着く。
「レーメル!」
ミシャオナはレーメルの名を叫びながらその物体を調べ始める。
それは間違いなくあのカプセルの一部分だった。
しかもかなり大きい。
もしかしてコントロールユニットがある場所ではないか?
ミシャオナの期待は高まり、そして気付く。
焼けただれたメグライトの基盤がその朽ちかけていた物体の隙間から見えた。
慌ててその部分を引っぺがしメグライトの基盤らしきものに手を触れる。
するとメグライトの部品がぼろぼろと崩れ始めた。
「そんな…… レーメル……」
当時の脱出カプセルはコントロールユニットにしかメグライトを使っていない。
それは地球へ来て何度もアーカイブで確認した。
この三年間ミシャオナはレーメルを探し出す事にだけその精力を費やしてきた。
しかしやっと見つけたコントロールユニットはミシャオナの手の中でぼろぼろに崩れていった。
「レーメルっ!!」
そのぼろぼろになった灰のようなメグライトを握りしめミシャオナは膝を地面について泣きくずれた。
最後の希望であったメグライトに残るレーメルのデーター。
それが有ればレーメルが復活できたかもしれない。
しかしその希望は今目の前で絶たれてしまった。
「レーメル……やっと見つけたはずなのに……」
悔しそうにそのメグライトの灰を握りしめるミシャオナ。
と、顔を持ち上げるとこのカプセルの残骸にはコンテナのような物が含まれていた様でそれがやたらと気になって来た。
ミシャオナは涙をぬぐってそのコンテナらしき部分を触ると表示に明かりがつき、まだ生きている様だった。
「もしかして!」
すぐにそれを引っ張り出す為に周りの瓦礫を取り除く。
四苦八苦しながら瓦礫の中からそれを引っ張り出す。
それは人が一人入れるような筒状のものだった。
ミシャオナは恐る恐るそれを開ける為にスマホのような端末を引っ張り出しその端末をこれに接続する。
すると途端に画面が変わりレーメルの姿が現れる。
驚きと嬉しさにミシャオナは叫ぶようにレーメルに話しかける。
「レーメル! レーメルなのね、私が分かる? ミシャオナよ、あなたの親友で相棒のミシャオナよ!!」
画面に向かってそう訴えるとそのレーメルがやたらと機械的な声でこう言う。
『ミシャオナの認識が出来ました。全ての保存機能停止、開封を始めます』
そう画面の中のレーメルが言った途端、この筒状の物体の上側が開き始める。
それと同時に緑色の粘度の高いスライムのような液体があふれ出す。
「な、なによこれ!? あ、あああっ!!!!」
『脈拍心拍数正常、パーソナルデーターのリンク率九十八、九十九……覚醒します』
それは緑のスライムのような液体をかき分け動き出す。
白い肌のすらっとした手はその淵を掴み、銀髪の美少女が起き上がる。
口元のマスクが剥がれ落ち、そこには全裸のレーメルがいた。
「げほげほ、ふう、どうにか受肉で来たわね? えーと、もしかしてミシャオナ?」
「レーメルっ!!」
起き上がったレーメルにミシャオナは抱き着く。
「うわっ、ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ! ミシャオナ、何年経ったかは分からないけど、今の貴方の方が私より大きな体なんだから」
「レーメル! ああ、本当にレーメルだ、レーメル!!」
ミシャオナは一旦離れてレーメルをまじまじと見てからまた抱き着く。
「どう言うこと!? レーメルが人間になってる、レーメル!!」
「お、落ち着いて。まだパーソナルデーターとこの肉体との感覚にずれがあるんだから。この体は人工たんぱく質で作り上げたモノよ。あなたと出会う十五年前から作っていたけど、十七歳近くになるまでパーソナルデータは移す事が出来なかったの。一度は廃棄しようと思ったけどもったいなくて内緒でカプセルに積んでおいたのよ。でもおかげで私のデーターは全てこの体に書き込めた。ううぅん、また人として生活が出来るわ」
レーメルはそう言ってにっこりと笑う。
それを見たミシャオナはもうすぐ二十歳になると言うのに少女のように泣きながらまたまたレーメルに抱き着く。
「うわーんっ! よかったよーっ! レーメルにまた会えてそしてレーメルが人間になってぇっ!!」
「こ、こらミシャオナ! あなたずいぶんと大人になったわよね? 何その私より大きな胸は!? こ、こら押し付けるな!」
「もう離さないから、レーメルぅっ!」
そう言ってミシャオナはレーメルと唇を重ねる。
「んむっーっ!?///////」
いきなりキスされてレーメルは目を白黒させる。
しかしそんな事はお構いなしにレーメルから離れたミシャオナは言う。
「もう離さない、私とレーメルはこれからもずっと一緒だよ! ずっと二人で!!」
レーメルはそんなミシャオナを見ながら頬を染めてぱちくりとしながら笑う。
「ええ、私とミシャオナはずっと一緒よ、ずっとね!!」
青空の下、彼女たちのにぎやかな声が響き渡るのだった。
青い星赤い星~光を繋ぐ者~
―― 完 ――
********************************
【あとがき】
ここまで読んでくれる人いるかな?
どうも、さいとう みさき にございます。
今回SFと言う事で、いろいろと調べものしながら四苦八苦してました。
いや、マジでSFって知識が必要ですわ。
多分もっと深堀するとかなりな量の物語になりそうですね。
読み物として12万文字くらいで押さえなければならなかった続きの無い読み切りの物語として書くには結構大変でした。
どこかで見たような設定や、あるあるのお話でしたが、SFと言うジャンルでは鉄板かな?
今回コメディーなし、ギャグなしと言うことでかなりきつかったです。
それといろいろ調べながらうんちくもちりばめて見ましたが間違っていたらごめんなさい。
一応空想科学と言うことで許してね。
ここまで読んで下さった方、応援やハート、お星様を頂けました方、この場を持ちまして深く感謝申し上げます。
ありがとうございました!!
青い星赤い星~光を繋ぐ者~ さいとう みさき @saitoumisaki
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