第35話:地球


 そこは重力の底だった。

 

 人は知恵の実を口にし、生物の頂点へと立った。

 その業は生物としての謳歌だけにとどまらず文明を築き、発展を遂げた。

 やがてその力は天翔けるほどになり、そして天空の果てまで飛び立って行った。



 ミシャオナはこの重力のどん底へ足をつけ立ち上がった。

 それは砂の感触。

 火星のそれとはまた違った感触。

 火星生まれの火星育ちである彼女にはこの重力はまるで呪いのように感じられた。


 顔を上げれば降り注ぐ太陽の光。

 火星に比べその光は強く感じる。


 肌にまとわりつく空気は火星の乾いたものとは違い湿り気さえ感じられた。

 それもそのはず彼女の目の前には白波をたたえる真っ青な海が広がっていた。


 何となく空を見上げる。


 先ほどまで自分がいた空は明るく真っ青だった。



「レーメル……」



 ミシャオナはそう言って記憶媒体のアタッシュケースとスマホのような端末を握りしめこの砂浜を歩き出すのだった。

 

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