第33話:宇宙のゴミ
廃棄コロニーは移動を始めた。
地球に落ちる事を回避する為にはバラバラに解体をして地球の重力に引っ張られない様にする必要があった。
レーメルたちは核爆弾で廃棄コロニーを解体する為にバランスを崩させ、その自転も利用して自己崩壊を始めさせる。
『今のところシュミレート通りね、大丈夫この区画は奇麗に崩壊から離脱していくわ』
「本当に大丈夫なんだろうな? いくらシェルターとは言えコロニーの崩壊なんだぞ!?」
「きゃーっ! レ、レーメルぅっ!!」
大きな揺れと衝撃が襲って来るもレーメルはいたって冷静にそう言う。
モニターしている限り今の所シュミレート通りであり、このシェルターに加わる力も想定内なので問題は無い。
ただ流石にこれだけ大きなものが崩壊するわけだからその種撃は想像を絶するものになっていた。
ゴーストであるレーメルはまだしも生身のミシャオナやアールゲイツにはかなり厳しい。
「レ、レーメルこれ本当に大丈夫なのっ!?」
『落ち着いてミシャオナ、もうじきこの揺れも収まるわこの区画以外が離れ始めて行くわ』
レーメルはそう言いながらモニターで外部の様子を映し出す。
それは宇宙空間にこの区画以外の切り離されたコロニーの残骸がひしゃげぶつかり合って離れていく様子だった。
それまでは廃棄コロニーであったものの人が住める疑似大地であったコロニーがまるで終末を迎えたかのように崩壊して崩れ、潰され、人々が住んでいた街並みを破壊してゆく。
そしてこまごまなゴミを漂わせながらこの区画から徐々に離れ始めて行く。
『うまく行ったわね。これでコロニーの残骸は軌道を離れ地球の重力に引っ張られる事は無くなったわ。残ったこの区画だけが外壁の核爆弾のお陰でブレーキがかかり地球へ落ちてゆくわ』
画面にそのシュミレートの様子を映し出しレーメルはそう言う。
その頃には揺れもだいぶ収まり、ミシャオナもアールゲイツも大きな安堵のため息をつく。
「まったく、俺の人生で一番のショーだぜ。コロニー崩壊なんざアーカイブの記録でも見たことがねぇ」
『確かに人類史上初めてかしら? 貴重な体験でしょ?』
「コロニーって崩壊するの初めてなんだ~」
人類史上最大の建造物と言われるコロニーは今まで崩壊などの大きな事故を起こしたことは無い。
何十万人、何百万人と言う人々が生活する為の物でそう言った問題が起こる事はそれこそ絶対にあってはならない。
故にコロニーの建設に当たっては様々なシュミレートや安全対策が施されていた。
だから寿命を迎えたコロニーは解体される事無く廃棄されていた。
『予定通りに行っているのはいいけど元々このコロニーは地球に落とす事だけ考えて加速が与えられたものだから、最短で地球に落ちるように設定されていた。だから地球の何処に落ちるか分からないわ。現在の分離した質量と移動ベクトルを再計算してミシャオナたちを可能な限り安全な場所へカプセルで送り届けなければだものね』
「うまく行けるかな?」
ゼアスたちの計画が失敗してせめてこのコロニーだけでも地球に落とそうとしたおかげで二カ月近くもその速度は早まっていた。
正確に主要都市に落とそうとすることが無ければそれも可能だが、下手をすると地球に落ちない場合さえあったかもしれない。
それ程までに急に設定されたそれは崩壊後でもこの区画も何処に落ちるかのシュミレートが難しかった。
レーメルは現在の質量とベクトルを入力して地球へと落下するである予想ルートを算出する。
それは一瞬ではあったが実に数十万通りを超える算出となった。
『この区画の形状が大気圏に入ったと仮定すると空気の摩擦と抵抗で更にどこに落ちるか分かりにくくなるわ。それにいくら軽量化したとはいえこの区画が地表に落ちればやはり多大な被害が及ぶ。だからこの空域で最後の核爆弾を破裂させてこの区画を粉々にする。計算上ではほとんどの残骸が大気圏内で燃え尽きるはずよ』
レーメルはそのシュミレーションをミシャオナたちに見せる。
核爆弾でこの区画を破壊すると粉々になった残骸が地球へと落ちる。
しかし細かくなった分大気圏内の空気の摩擦でそれのほとんどが燃え尽きて地表への被害はほとんどでないと言うシュミレートとなっていた。
「レーメル、俺たちはどうなる?」
アールゲイツはそのシュミレーションを見てレーメルに聞く。
レーメルはこの地下シェルターから外壁に向かっての通路を表示する。
『核爆弾を使う前にミシャオナたちには緊急脱出用のカプセルに乗ってもらうわ。これは大気圏内にも降りられるものだから地球に向けて射出するわ。後はその目的地なんだけど……』
レーメルはそう言いながらアメリカのカリフォルニアを表示する。
『何とかここへは行けそうね。あの辺は今回の被害も比較的軽症だし、生活するにも何とかなりそうよ?』
「わざとかよ?」
『さあね。でも条件はいい所よ?』
画面の向こうのレーメルにアールゲイツは面白くなさそうに言うがそれ程いやそうではなかった。
「アールゲイツさん、元奥さんの事心配なんだもんね~」
「うるせぇ、ガキは黙ってろ!」
ミシャオナにもからかわれ少し頬を染めながら悪態をついてそっぽを向くアールゲイツ。
それを見て誰と無く笑いだすのであった。
* * * * *
『算出が出来たわ。あと三日後にこの区画は地球へ落ちるわ。だからその直前にここを爆破するわ。周回軌道は合ってるから爆破前にカルフォルニアにカプセルを射出するわ』
レーメルは食事をとっている二人にそう言ってそのシュミレーションが終わった画像を見せる。
ドーナッツを輪切りにしたようなこの区画はこのまま落ちればアメリカ大陸あたりに直撃してしまう。
もしそうなれば大惨事だろう。
なのでその前に核爆弾でここを破壊すれば小さなゴミとなり大気圏内でそのほとんどが燃え尽き、地表に落ちるのもわずかな量になる。
地表に落ちる物体も大気圏で燃え尽きなかった小さな残骸で、空気の濃さが増す地表付近ではその落下速度が著しく弱まり火山の噴火で落ちて来る礫程度になりそうだった。
「とうとう地球かぁ、あと少しだねレーメル」
『そうね、やっとこれで私もゆっくり出来そうね。このところ計算づくめで大変だったのよ?』
ゴーストであるレーメルは膨大な計算をしても負荷がかかる事は無い。
実際にはレーメルの補助AIがそう言ったバックデーターの処理をしているからだ。
しかしミシャオナは素直にレーメルをねぎらう。
「うん、お疲れ様~。レーメルのお陰で地球に行けるもんね!」
『そうね、地球かぁ、太陽光パネルもあるから地球でもちゃんと充電手伝ってね、ミシャオナ』
「もちろんだよ!」
二人はそう言って楽しそうに今後について話をする。
それを見ていてアールゲイツは目の前に浮いている食事であるゼリー状のレーションを掴み口に運ぶ。
「浮かれるのはいいがまだ終わってないからな。大気圏突入は想像以上にイレギュラーが起こりやすい、気を抜くなよ?」
『分かってるって。この後も再シュミレーションは繰り返すわ。可能な限りコロニーの残骸が地表に落ちないようにしなきゃだもんね』
レーメルはアールゲイツにそう答えるのだった。
* * * * *
『それじゃ二人とも脱出カプセルに乗って。地球に向けて射出するわ』
レーメルに言われてミシャオナレーメルの本体を持ってアールゲイツと脱出カプセルに向かう。
眼下には青い地球が見えている。
「本当に青い星なんだ。火星とは違うね……」
「ああ、何度見てもこいつだけは美しいって思うよな。もうじきあそこへ行くんだぜ?」
アールゲイツも地球を見ながらそう言う。
そしてミシャオナから脱出ポッドに乗せる。
と、ここでレーメルが慌てて叫ぶ。
『アールゲイツ、まずいわ核爆弾の起爆用の通信機が反応しない! お願い、すぐに予備の通信機に取り換えて!!』
「なっ!? ここまで来てこれかよ!! 残り時間は!?」
『あと一時間弱!』
レーメルの緊急の通知にアールゲイツは舌打ちしながらすぐにシェルターに戻ろうとする。
「わ、私も!」
「ガキはすっこんでろ! ここは俺に任せてお前さんは脱出カプセルに入って体を固定しろ、俺もすぐに戻る!」
ミシャオナのその言葉を聞き終わらずにアールゲイツはそう叫びながら元の通路を戻って行くのだった。
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