第32話:核爆弾


 この時代でも核爆弾は存在をしていた。

 しかしその使用用途は戦争を主体とするものではなく、主にコロニーなどの大型建造物の移動に使われていた。


 核爆弾は少量の核物質を均等に圧爆する事により核分裂を早め一瞬で高熱を発する。

 故に真空の状態でも核反応が起こるのでこう言った宇宙空間では重宝される。


 放射線の問題に関しても宇宙服やコロニーはその放射線、俗称放射能をほとんど遮断できるので問題は無かった。

 それに元々宇宙空間には有害な宇宙線がたくさん飛んでいる。

 太陽からくる太陽風など直接浴びてしまえばそれだけで大問題となってしまう。



「しかし、核パルス用の核爆弾がこんなに小さなものだったとはねぇ」


 ボトム乗ってその両手に抱えた核爆弾を慎重に運ぶアールゲイツ。

 既にコロニーの外壁、ドーナッツの外側にいるが遠心力で弾き飛ばされることは無い。


 物質にはもともと重力と言うものがあるので、大きな質量に小さな質量は引きよsせられる現象がある。

 ぴんと張った布にボウリングの球を置き、その横にビー玉を置くと布に沈んだボウリングの球の方へビー玉が引きよせられるように転がる現象が物質の引力と表現した方が分かりやすいかもしれない。



『核燃料は保管問題はあるけど効率がいいからね。古いコロニーには核融合炉の発電所もまだ残っていたわよ?』


「げっ! そんなもんまであったのかよ、昔は!? まあ、爆弾と違って融合炉なら放射線漏れはないか……」



 一般的に誤解があるが核分裂と核融合はまったく別のもである。


 原子力爆弾のように核分裂をするものは核物質の分裂を促進して起こる現象である。

 その時に発生するのが高熱と放射能で、これの濃度が高いと人体などに多大な影響を及ぼす。


 しかし核融合はその真逆で高温高圧下で原子同士を融合する際に発生する膨大な熱を利用したものになる。

 当然核崩壊する事は無いので放射能は発生しない。


 よく水爆で放射能が問題視されるがそれは核融合させるために水爆のにコアを核爆弾で圧爆をさせるからである。

 結果膨大な放射能がばらまかれてしまう訳だ。



「と、この位置でいいのか?」 


 アールゲイツはそう言いながらコロニーの基礎フレームに当たる部分にその核爆弾を設置する。

 この基礎フレームはこの大きさ程度の核爆弾ではびくともしない程頑丈に出来ている。



『もう少し右ね。破裂する応力のベクトルが計算上もう少し右の方が最大値になるわ』


「へいへい、それじゃこっちにっと…… うっし、これでいいな?」



 アールゲイツはレーメルに言われた通りの場所に核爆弾をずらす。

 それを確認してレーメルは起爆を設定する為に色々と機材を取り付けるように指示をする。


 そして程無くアールゲイツはそれらの作業を終える。



「よし、これで完了だ! コロニー内のミシャオナはどうだ?」


『こっちもあと少しで終わるよ~』


『そうね、私の研究所がある区画が最後に残る場所になるようにしてあるからね、これがちゃんと起爆しないと私たちが行く地球が大変な事になるからね』


『うへぇっ! それは困る、ねぇレーメルこれで間違いないよね!?』



 通信で聞こえてくる二人のキャッキャウフフにため息をついてアールゲイツはボトムの操作をして戻るのだった。



 * * * * *



『核爆弾の設置も終わった、コロニーの連結部の解除と爆破準備も終わった。もう何万回何十万回とシュミレートしたけど、この研究所がある区画が崩壊後最後に地球へ落ちるわ』



 研究所に戻ったミシャオナとアールゲイツは食事をしながらレーメルの説明を聞く。

 

 このコロニーが移動を開始してすでに半月が経っていた。


 地球側でもその事態を察知して大騒ぎになっているが、それに対応する為の宇宙軍も迎撃用のミサイルもメグライトの暴走により使い物にならなくなっていた。


 生き残ったネット上では人類滅亡の日まであと何日とか言われ始め、有力者や金持ちはこぞってコロニーや月へと逃げ出す準備をしていた。

 各経済圏はその主権を一斉に自分が有する宇宙空間にあるコロニーや月へと移管を始め、地球はさながら逃げ出す人々に見捨てられた沈没する船のような扱いであった。



『地球は今大騒ぎ、逃げ出す人々で宇宙空港は大騒ぎね。軌道エレベーターもメグライトの暴走により止まったままだからネットでは人類滅亡論で神にすがる者まで出てきたわね……』


「神様かぁ、お願いしたらみんな幸せになれるのかな?」


「けっ! よせよせ。そんないるかいないかもわからん精神のよりどころ。そんなモンがいたら俺は離婚なんかしちゃいねぇよ!!」


『そう言えばアールゲイツは離婚してたんだっけ?』


「昔の話だ」


 そう言ってアールゲイツは面白くなさそうに謎肉を食べる。


『ま、それは人それぞれね。それよりこの後についてだけど、この研究所には地下施設のシェルターがあるわ。そこは頑丈に出来ているし、コロニー脱出用のカプセルもある。これより約二十時間後にコロニーの空気を抜くわ。そうすると空気の分質量は軽くなる。そしてコロニーの回転も排出される空気に応じて減速してゆく、また無重力に近くなるわ』



 空気にも質量がある。

 それを宇宙空間に放出すればコロニーは軽くなり質量の低下による遠心力も少なくなり回転速度が落ち始める。

 そしてタイミングを狙って外部から核爆発を起こし、連結部を緩ませてコロニーの崩壊を狙う。



『真空になれば爆破による被害は最小限になるから計算通りの崩壊が始まるわ。その時にここの区画以外はぶつかり合い、ひしゃげてそのまま拡散される。この区画以外は地球の重力に引っ張られる事無く別の場所へ飛んで行くわ。周期が合えば約三百年後には太陽に行くでしょうね』


「太陽か……金がかかるから宇宙のゴミは太陽に向けて放り投げるって計画はとん挫したんだったな」


『おかげで暗礁区が出来て私たちゴーストの住処になったけどね。 だから二人には研究所の地下にあるシェルターに避難してもらうわ。そして脱出用のカプセルに乗ってもらって地球へ行くわ。今地球の状況を確認して一番被害の少ない場所に行くつもりだけどね』


 レーメルがそこまで説明するとアールゲイツはふと訊ねる。



「なぁ、そのUS経済圏のアメリカ大陸、旧USAは今どうなっている? カリフォルニアの辺なんだが……」


『カリフォルニア? えーと、同じくメグライトの暴走で大騒ぎだけど宇宙空港へは遠い場所だから意外と住民はあきらめモードのようね……暴動がおこるでもなく』



 レーメルは現状のカリフォルニアの様子を映し出す。

 街のあちらこちらで半壊した建物や燃え尽きたエレキカーが転がってはいたが、暴動がおこる様子もなく皆諦めたかのように路上などで酒を飲んで寝転がっているのもいる。

 正常では無いものの、静かにはなっている様だ。



「どこにも逃げられなければ破滅を待つだけか……」


「ここがどうしたってんですか?」



 アールゲイツはそうつぶやくとミシャオナが覗き込んでくる。

 一瞬ためらったかのような仕草をしたアールゲイツが苦笑をしながら言う。


「別れた女房がいるんだよ。風の噂で元気にはしているらしいが再婚もしないでカルフォルニアでバーをやっているらしい……」


 そう言うアールゲイツの顔はとてもやさしそうに見えた。

 ミシャオナは首をかしげながら聞く。



「何で分かれたんですか?」


「まあ、くだらない喧嘩が発端だったんだが俺が家を空けるのが多すぎたんだよなぁ……」



 そう言ってからアールゲイツはハッとしてミシャオナに言う。



「ガ、ガキには関係ねぇ大人の話だ!」


「ガ、ガキじゃないです! ちゃんと義務教育も卒業してますもん!!」



 そう言ってにらみ合い二人して笑う。



「何とかしなきゃな」


「そうですよ、私だって今後は地球で暮らすんですからレーメルと!」



 そう言いながら拳をぶつける二人だったのだ。



 * * * * *


 

 研究所の地下にあるシェルターはもともと宇宙空間でも研究が出来るようにコロニーの外壁に繋がっていた。

 なので緊急時の脱出カプセルも備えられていてミシャオナたちにとってうってつけの場所だった。



「もうコロニーの中には空気が無いんだよね? なんかもったいないなぁ……」


『地球に行けば空気なんてただでいくらでもあるわよ?』


「考えてみりゃそれってスゲーことだよな。火星じゃ酸素の値段が上がるばかりだもんな」



 三人してシェルターで外の様子を見ている。

 コロニー内はもうほとんど空気が抜けてコロニー自体の回転も遅くなり始め疑似重力も低くなってゆく。

 流石に無重力になるにはもっと時間が必要だがレーメルの計算ではコロニーの回転も崩壊するのに必要な要素となっている。



『そろそろ時間ね。衝撃が来るわ』



 レーメルがそう言った瞬間コロニー全体に揺れが感じられた。

 それは徐々に大きな揺れと変わって行き相次いでこまやかな揺れも感じられ始めた。



『外壁の核爆弾が破裂、結合部も爆破成功! もっと大きな揺れが来るわ!!』



 事前に宇宙服に着替え、このシェルターで体を固定して衝撃に対しての準備をしていたミシャオナとアールゲイツに大きな揺れが襲い来る。



「うおぅっ!」


「きゃーあっ!!」


『よっし、うまく行った!!』




 三人それぞれに声を上げながらこの廃棄コロニーは崩壊を始めるのだった。


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