第四章:青い星

第31話:コロニー解体


 コロニーはその性質上、非常に頑丈に作られている。


 そもそも人が宇宙空間で暮らすこと自体かなり難しい。

 いくら密閉した燃料タンクでも時間が経てば中身が少なくなってくるほどその真空と言う環境は人が生存するには厳しい場所だ。

 真空で無重力空間では物体に負荷がかからないのでその慣性の法則が効かず、速度が減衰する事無く長い時間飛び回っている物体もある。

 時にそれはマッハを超える細かいゴミであったり、超大型な隕石であったりもする。


 故にコロニーは頑丈に作られ、飛来する隕石など危険な物体に対しては破壊作業をしたり、どうしても対処しきれない場合は核パルスなどを使ってコロニー自体の移動を行う。


  そんなコロニーを解体してバランスを崩し、地球圏の引力から離脱させようとしているのだ。



『軍用ボトムが数体あって助かったわ。このメグライトを使ったシステムは独立していたから熱暴走に巻き込まれていなかったわね』


 レーメルは自分のコピーを作ってミシャオナ用のボトムも準備をしていた。

 ゴーストのネットワークが使えなくなり、そしてそのほかの通信網も止められて研究所にいるレーメルが独自で通信網を再構築した。

 地球や月などにもか細い回線だが残っている通信機を連結させネットワークを構築する。

 そしてレーメルが作った高速ドライブ方式であるシステムを組み込み、細い通信網でも大量のデーターの移動が出来るようにしていた。



「旧世代の光通信や光ファイバーがまだ生きていたのは助かったが、今どき有線とはな」


 アールゲイツは作業をしながら時折近くの端末にボトムから伸びるケーブルを付け直す為に降りて手動でそれをする。

 この廃棄コロニーには旧世代の光ケーブルがあちらこちらに残っており、通信をするには細い無線の回線よりこちらの方がまだましだった。



『私のサポートを受けないと解体作業もうまく行かないわよ? コロニーの連結はとても強い力で接合されている。でも一瞬でも外側から力が加わればそれは別問題になる。その一瞬で連結部を外し、爆破すれば崩壊は始まるわ』



 作業をしながらレーメルはその連結部にかかっている荷重を見ている。


 ドーナッツ型のコロニーはそれを作成するにあたって基礎部をバラバラに組み立てる。

 そして最後にドーナッツの輪のように連結をしたら回転を始めさせると遠心力によってその連結が強固になる。


 現代に存在する石造りの眼鏡橋と同じような原理で、その強度は中世に作られたものであっても戦車が乗っても壊れないと言う。


 

「うーん、ボトムで作業するから重力に苦しめられるのは軽減したけど、こんなのでコロニーがバラバラになるの?」


 ミシャオナも同じくボトムで連結部を外す為の作業を進める。


『地道な作業だけど、これが確実な方法よ。本当に一瞬の勝負だけど連結部が外れさえすれば後は崩壊が始まるわ。ミシャオナたちはその時にカプセルで脱出すれば無事地球へ行けるわ』


「地球かぁ、レーメルのお陰でお金には余裕があるから私、『海』ってのが見たいな~。あ、あと空も青いんだよね? なんかぞっとするけど見てみたいね~」


 にこにこしながらミシャオナは作業を続ける。

 そんな彼女にレーメルは笑いながら言う。


『地球に行けば海も空も何時でも見放題よ? ただ、地上はメグライトの暴走によって大打撃だから出来れば影響が少ない地域に行きたいわね』


 もし今地球に辿り着けてもメグライトの熱暴走により大混乱を起こしているだろう。

 下手をすると電子マネーも使えないかもしれない。

 となればいくらお金を持っていてもその価値は下がる。

 いや、貨幣の価値の暴落よりも生きて行く為の食料や医薬品の確保の方が最優先されるかもしれない。


 それでも今は地球へ行かなければならない。



『絶対にミシャオナを地球へ送り届ける。そして私たちは新たな生活を手に入れるんだ』




 レーメルはミシャオナたちには聞こえないようにもう一度そう決意するのだった。 



 * * * * *



 解体の為の作業を始めて更に三日が経っていた。

 流石にこの頃になると地球と同じ疑似重力にも慣れ始め、そしてボトムでの作業も順調にこなせるようになってきた。



『ミシャオナ、そろそろ食事の時間よ。いったん戻って来て』


「ああ、もうそんな時間なんだ。そう言えばお腹すいて来たね、火星にいた時よりもはっきりとわかるよ」



 もともと人は地球で生まれ育った存在だ。

 コロニーはその地球の環境と極力同じにしている。


 なので火星生まれの火星育ちであるミシャオナの身体にも本来の地球にいた頃の人間と同じ現象が戻り始めていた。

 

 ミシャオナは作業を止めてボトムを操り、研究所に戻る。

 そこには既に戻っていたアールゲイツもいた。


 二人はこの研究所の食堂へと行く。

 そして保存食であるパックを引っ張り出して開き、レンジで温める。

 


「なあレーメル、今更ながらだがこれってほんとうに大丈夫なんだろうな?」


『何が?』



「いや、保存食と一緒にお前さんが出すこの合成たんぱく質ってやつだよ!」



 そこにはレンジの横から出て来たオーブンで焼かれた真四角の謎肉が有った。

 

『大丈夫よ、味は牛肉に近づけているから。それにこれは人体再生にも使われる物だから合成時にはとても新鮮な状態よ?』


「人体にもかよ……」


 アールゲイツは切ったそれをフォークに刺して嫌そうに眺める。


「でも美味しいよ? 火星の合成たんぱく質よりずっと美味しいもんね!」


 アールゲイツに比べミシャオナは何の躊躇もなくそれを口に運ぶ。

 それも美味しそうに食べながら。

 そんなミシャオナを見てアールゲイツは苦笑を浮かべながらも自分もそれを食べ始めるのだった。



 * * * * *



「よし、これで最後のボルトも解除済み! レーメル終わったよ!」


『お疲れ様、ミシャオナ。アールゲイツもね』


「ああ、終わった。それでこの後どうするんだよ?」


 

 この区画ブロックの結合部分に使われている連結用の部位を解除し終わりミシャオナは額の汗をぬぐう。

 それは全部で何日もかもかかる作業だった。

 この廃棄コロニーを残り数日中に結合部を破壊して自己崩壊を始めさせなければ地球にこのコロニーが落ちてしまう。


 レーメルは進捗状況をタイムゲージに当てはめて確認をする。



『あとは外部からの力加える為に核パルス用の爆弾を所定の位置に持って行かなければね、アールゲイツにお願いするわ』


「それって作業中に爆発しねえだろうな?」


『ちゃんと取り扱えば大丈夫よ。それより核パルス用の核爆弾は残り二つだけ。コロニーの崩壊用に一つ使って残りは地球に落下する一割をさらに細かく破壊する為に使うわ。失敗は許されないわよ?』


「プレッシャーかけやがって……分かったよ、やるよ、やればいいんだろ!!」


 研究所に戻りながらそんなやり取りをする三人。

 いいよこのコロニーが地球に落ちるのを阻止する為にこのコロニーを崩壊させなければならない。




 ミシャオナはボトムのモニターからもう一度誰もいなくなったこのコロニーの内部を見るのだった。

 

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