第30話:やるべき事
『戻って来れたわね、無事で何よりだわ』
研究所にいたレーメルはそう言ってミシャオナたちを迎える。
そしてすぐに本体のレーメルに確認を取る。
『過去のデーターはほぼ残っているからレーメルと言う個人のデーターは多少の記憶の違いはあれど、どうにかなるわね。問題はセブンズとしてのアクセスコードは失われ、もうゴーストのネットワークも使えないと言うことね』
研究所のレーメルはそう言ってため息をつく。
今この廃棄コロニーは地球へと向かっている。
管理システムにアクセスして核パルスを動かそうにもゴーストのシステムにアクセスできなければその制御も出来ない。
「それでレーメル、お前さんが回復したらこの後どうするんだ?」
『まずはこのコロニーをどうにかしないといけないわ。分かってる範疇でメグライトを使った人類はそれが暴走したためにあらゆる障害に見舞われている。通信は勿論、メグライトでコントロールされていたものすべてがダメになったのだから』
それを聞いてアールゲイツはもの凄く嫌そうな顔をする。
それは今の人類の悲惨な状況を理解したからだ。
文明の利器に慣れた人類はAIの補助なしでは何もできない。
そう、交通機関も公共機関もコントロールできないのであれば全く役になどたたなくなる。
人々は原始的な行動にしか頼れなくなってしまっているのだ。
『かろうじてゼアスたちの受信をしなかった部分が生き残っている様だけど、今の時代ネットワークを使わず、AIの支援なしに何処までの人間がまともな行動が出来るやら……』
レーメルは分かる範疇、分かる画像を引っ張り出しラボのモニターに映し出す。
それは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
地球と思しき場所では街のあちらこちらから煙が立ち上る。
電気もまともに流れていないようで暗い場所には街灯すら消え去り、かろうじて残った明りに人々が集まっている。
月と思われるそこも大騒ぎになっているようで、住民は皆避難シェルターに逃げ込んでいる様だ。
火星よりさらに低い重力下の月では街中には誰もいなくなっていた。
「これじゃぁ軍もだめだろうな……」
『通信を受けた部隊はダメでしょうね、でも閉鎖された場所は多少は生き残っているみたいね。ボトムのように受信をしていない機体は大丈夫なのもあるようね』
「でも、船とか飛行機とかみんな止まっちゃったのでしょう?」
三人はそれらの画像を見ながらそう言う。
実際に文明的な活動自体が止まってしまったのだ、現在の地球圏に自力で回復する力はすぐすぐには無い。
「となると、このコロニーも地球に落ちるのは確定か…… どうするレーメル?」
『とりあえず私の回復をするわ。話はそれからね。ミシャオナ、ラボに本体の私のケーブルをつなげて』
「うん、分かった!」
今はレーメルの回復を最優先させる。
レーメルの本体であるアタッシュケースからケーブルを引き伸ばしミシャオナはラボの端末に接続させる。
途端にラボに残っていたレーメルのコピーと本体が同調を始め本体の補強を始める。
欠損したデーターを補充し、やがてレーメル自体の修復が終わる。
『ふう、私自身の修復が終わったわ。通常では問題無いけどセブンズの時のアクセスコードや今までの蓄積してきた資料やデーターがかなり欠損している。今まで通りにはいかなくなってしまったわね……』
「で、でも、レーメルはもう大丈夫なんだよね!?」
こんな時でもレーメルの安否を最優先するミシャオナ。
そんなミシャオナにレーメルは笑いながら言う。
『そうよ、私はもう大丈夫。問題はこのコロニーをどうやって地球に落ちるのを防ぐかね』
「おいおい、まさかまだ何かやろうってんじゃないだろうな?」
『やるに決まっているでしょ? 私とミシャオナは地球へ行って新たな生活を手に入れるのだもの!!』
アールゲイツは手を目に当てて上を向く。
そいて観念したように言う。
「どちらにせよここから逃げ出すにはお前さんの協力が必要だからな。何をすればいい?」
アールゲイツのその質問にレーメルはモニターの画像を変える。
それはこのコロニーの基本構造についての画像だった。
『初期型のコロニーはドーナッツの輪のようになっているわ。疑似重力を得る為に輪自体が回転して遠心力による重力を得ている。だから内側から外側への力にはとても強く設計されているの』
レーメルは次の画像を表示する。
するとそれはピザを当分割するかのように奇麗にドーナッツを扇形に分けた図になる。
『ドーナッツ型のコロニーはこの部分が基礎結合部になっていて、中心から均等に張力がかかっているの。だけどそのどれかがバランスを崩せば崩壊を始めるわ』
言いながらそのシュミレーションを画像に重ねる。
一か所の接合が崩れバランスを崩したそれは回転しながらどんどんとバラバラになって行く。
それは最後にはそのほとんどが飛散してゆくがその頃にはだいぶその大きさを小さくしている。
『今から十日後までにこの結合部を破壊できればこのコロニーは自転しながら崩壊するわ。全体は地球に引っ張られるけど計算上ではその一割しか地球に落ちなくなる。そしてその算出された質量はそれをさらに細かくすれば大気圏内でほぼ燃え尽きる計算よ』
地球に引っ張られる残り一割を更に細かくするとその破片が地球の表面に辿り着く前にほどんどが大気圏の摩擦熱で燃え尽きる様だった。
そのシュミレートを見てアールゲイツはレーメルに聞く。
「コロニーの崩壊自体は理解できたが、残り一割のゴミをどうやってさらに細かくするんだ?」
『このコロニーの移動で使ったのは何?』
アールゲイツのその質問にレーメルは質問で返す。
「あっ! 核パルス!!」
しかしアールゲイツが答えるより早くミシャオナが答える。
それにレーメルはにっこりと笑って頷く。
「おいおい、移動用の核爆弾を使うってのかよ!?」
『それしか手がないわ。それにこうしている間にも刻一刻とこのコロニーは地球へと向かっている。急いで始めなければ本当に間に合わなくなってくるわよ?』
レーメルのその言葉にアールゲイツはもう一度溜息をついてから言う。
「取りあえず今度は俺たちの補給だな。流石にこの重力はきつい。とにかく今は飯食って眠りたいぜ」
「う、うん、確かに……」
流石に火星を拠点とするミシャオナとアールゲイツも体力の限界が来ていた。
二人のその申し出にレーメルはこのラボに貯蔵されていた賞味期限の怪しい食べ物の提供を始めるのだった。
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