第29話:脱出準備
『そこの女、その手に持つ記憶媒体をよこしやがれ!!』
アゴザの声がするそのセキュリティーロボットは片手をミシャオナに向け迫りくる。
「ひっ!?」
『くっ、アゴザあなた何をするつもりなの!?』
『裏切り者がしゃべるな!! この通信が切れる前にせめてレーメル、お前だけは消し去らないと気がすまねぇ! 俺たちの高尚なる計画を台無しにしやがって! 人類など滅び去ってしまえばよかったんだ!!』
片手を上げたセキュリティーロボットはしかしその動きがやや不自然だった。
長年放置されたセキュリティーロボットは整備などされておらず、各関節にも埃が溜まる状態だ。
可動部に油でも切れたのか動きも悪い。
しかしそんな状態でも人間が捕まれば逃げる術はない。
ましてや火星で生まれ育ったミシャオナにはこの地球と同じ疑似重力下での行動はかなり制限がされてしまう。
「やだ、来ないで!!」
『うるせえ、ガキ! その記憶媒体をよこしやがれ!!』
決してレーメルの本体は渡さないとばかりにミシャオナはそのアタッシュケースを抱きしめ壁際に座り込む。
そこへアゴザのセキュリティーロボットが奇妙な音をたてながら近づいてくる。
アゴザの操るセキュリティーロボットの手がミシャオナの目の前に迫る。
「だめっ!」
ぎゅっとアタッシュケースを抱きしめそして目をつぶるミシャオナ。
もう後は無い。
「まったく、いくらガキだからって女にそんなアプローチじゃモテないぜ?」
『何っ!?』
この場にそぐわないやや呑気な声がしてそれに驚くアゴザのセキュリティーロボット。
しかしセキュリティーロボットが振り返ると同時にこのセキュリティーロボットのカメラに弾丸が打ち込まれる。
途端にこのセキュリティーロボットは頭の部分から煙を上げてショートする。
『ちくしょ……うっ! く……そ、通信がっ!!』
セキュリティーロボットは最後にそう言ってその場にガシャンと言う音を立てて倒れて動かなくなった。
ミシャオナはその光景に驚きながらもその向こうにいる人物を見る。
「アールゲイツさん!!」
「よ、元気にしてたか? そっちのレーメルも大丈夫か?」
『アールゲイツなの? なんでここへ??』
「なんでとはご挨拶だな、お前さんのコピーに頼まれたんだよ。研究所のお前さんも地球へ運んでくれるカプセルを準備している。さあ、こんなところに何時までもいないで行くぞ!」
アールゲイツに手を引かれ、そしてレーメルの本体である記憶媒体のアタッシュケースを持ち上げられミシャオナたちはアールゲイツの乗ってきたボトムへとまで戻るのだった。
* * * * *
この廃棄コロニーのシステムは既に停止して地球へと向かって落ち始めていた。
今から最短ひと月で地球へと落ちるだろう。
これだけの質量が地球へと向けられ、しかもその巨体が移動に耐えられようが耐えられまいが関係なく動いている。
場合によっては地球へ激突する前にその加速でこの廃棄コロニー自体が耐えられなくなり崩壊する危険性もある。
『ボトムの私、ラボの私、そして本体の私か……コピーとは言え分散しておいて助かったわ、うまく行けば大部分が修復できそうね』
既にボトムのレーメルと本体のレーメルは同調をしてその機能をだいぶ回復させていた。
しかし元々のレーメル本体の機能には及ばない。
「レーメル、その研究所にいるレーメルとも同調すれば元気になるの?」
『そうね、不足していたデーターが補充されればだいぶ自己修復できるわ。完全とまではいかなくてもこれでかなりの回復が出来るわ』
「まったく、ゴーストってのは便利なんだか不便なんだか」
アールゲイツのボトムにお姫様抱っこされる形のミシャオナは手の中にあるスマホのような端末からレーメルとそんな話をする。
それを聞きながらコックピットで苦笑をするアールゲイツ。
世界は今大変な事になていた。
しかしまだ希望を捨てていない彼女たちはレーメルのいた研究所へと急ぐのであった。
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