第28話:アゴザ
『てめえら全員血祭りにあげてやる!!』
そう叫んでアゴザは無人ボトムをアールゲイツが乗るボトムにけしかける。
「ぐわっ! なんだいきなり!?」
『この声、アゴザ!? やめなさいアゴザ! あなたたちの計画は失敗したのよ!?』
『レーメル! てめえ、裏切りやがって!! 人類なんざ世界のごみなんだよ、騙し嘘をつき、偏見を持ってくだらない優越感に浸りの能力も無いやつがのうのうと努力してきた人間を踏みつける。そんなモンに存在価値なんかねぇ!』
アゴザが操るボトムはアールゲイツのボトムを押さえそのコックピットに銃口を向ける。
しかしアールゲイツも黙ってそれを許す事は無い、すぐさま移動用のバーニアをふかしその場を擦り抜ける。
アールゲイツのボトムは間一髪アゴザの放つその凶弾から逃れ、体勢を立て直す。
「冗談じゃねぇ! こんな所で死んでたまるか!!」
『アールゲイツ、左前に銃を放って!!』
すぐにレーメルがアールゲイツに指示を出す。
アールゲイツは何か言おうとしたがすぐにレーメルのそれに従う。
照準が定まらないのに言われた左前に銃口を向け引き金を引く。
するとそこへ弾丸が発射されアゴザのボトムの左足を撃ち抜く。
『なんだと!?』
「お、おい、どう言うことだ、レーメルっ!?」
レーメルはアゴザのボトムの動きのアルゴリズムを解析して次の動きを準備する予測地に先手の弾を撃たせたのだ。
ほとんど牽制にしかならないと思ってはいたがそれは見事にアゴザのボトムの左足を撃ち抜いた。
『くそ、レーメルか!? こっちのアルゴリズムを読んでそこへ弾を撃ってきたのか! しかしまだ動くならば!!』
アゴザはそれでもバーニアをふかしすぐさま体勢を立て直してアールゲイツのボトムへ銃口を向ける。
『右旋回、ジャンプして!』
しかし銃口から火を噴く前にレーメルは次の指示を出す。
アールゲイツはレーメルの言う通りにボトムを動かし大きくジャンプする。
アールゲイツのいた場所にアゴザの放った弾が着弾する頃にはアールゲイツのボトムは大きくジャンプしてその場にはいなかった。
アゴザは慌てて上を見るもその頃にはアールゲイツのボトムは既にその姿を消していた。
『ちくしょぉっ!!!!』
片足が動かなくなったボトムではこれ以上アールゲイツのボトムを追跡する事は難しい。
アゴザはやり場のない怒りを弾が無くなるまで乱射するしか無かったのだった。
* * * * *
『レーメル、君のお陰で我々の計画は失敗に終わったよ。しかしまだ終わりではない、全ての人類を滅ぼす事は出来なくとも我々のその高尚なる意思を示さなければならない。せっかく手に入れたメグライトだがこれはあきらめよう。そして我らゴーストの存在を今一度世界に知らしめよう』
ゼアスはここ仮想空間で体の半分を引きさかれたレーメルにそう言う。
レーメルはゴーストのシステムを乗っ取る代償に自分をそのシステムと同化していた。
しかしそのシステムを残りのセブンズのアクセスコードにより奪い返され、身動きが出来ない状態だった。
しかしボトムにいたコピーのレーメルの指示でミシャオナが本体であるアタッシュケースの自分を無理矢理引き抜いた事で半分ほどの自分はこのシステムから抜け出す事が出来た。
しかし残り半分の自分は今こうして引き裂かれた状態でゼアスの前にいる。
『残念ね…… これだけダメージを負った私のデーターでは自己修復はもうできないわ…… 私をデリートしなさい』
『ふふ、そう言うなよレーメル。君に見せてあげよう人類がもがき苦しみ、そしてその自ら作り上げたシステムで崩壊する様を。そしてこの廃棄コロニーが地球へと落ちる様を!!』
『なっ!?』
そう言いながらゼアスは全世界に向けてゴーストのネットワークと通信回線を開き高速ドライブ方式でメグライトが暴走するデーターを流し始める。
それは無差別に流されそのデーターを受信したメグライトを使った機器は熱暴走を始める。
そのメグライトの熱暴走はいたるところで始まる。
瞬く間に全世界にそのメグライトの熱暴走が広がり、世界のあちらこちらで破滅的な事が起こり始めた。
原子力発電所はコントロールシステムが熱暴走で破壊され制御が効かず、船や車、飛行機も制御が効かなくなり大事故を起こす。
小さなところでは家庭の電化製品からも火を噴き、火災が起こる。
世界はその自分自身で作り上げた文明の利器により大惨事を引き起こし始めたいた。
『そんな…… 私の作った高速ドライブシステムが……』
『君には感謝するよ。メグライトは今や全世界あらゆる場所で使われている。それら文明の利器が暴走すればどうなるか? そう、人類滅亡とはいかなくても大打撃を与えられる。そして、軍も何も動けなくなった今我らゴーストの高尚なる意思を示す!! さあ、このコロニーを地球へ落としてくれる!!』
ゼアスがそう言うと同時にこの廃棄コロニーに取り付けられた核パルスに火がともる。
それはコロニー全体に嫌なきしみ音を響かせ足元を揺らす。
このコロニーの移動が始まったのだ。
『ふははははははっ! コロニーの耐久性など考えず真っ直ぐに地球へと向かい始めたぞ!! 終わりだよ全てね。そして人類は自分の愚かさに気付くがいい、その傲慢な性にな!!』
ゼアスは笑いながらそう言いレーメルを見る。
『君はそこで最後の瞬間まで見ているがいい。我々ゴーストはもうくだらない人類とのかかわりを絶とう。火星の向こうにあるコロニーは外宇宙へと向かう為のものだったのだよ。ゴーストの我々なら宇宙の先へ、人類が行った事のない先へ行ける。この狭い地球圏から解き放たれそして新たな世界へと旅立つのだよ!!』
『ゼアス、あなた……狂ってるわ……』
『ふふふ、新たなる人類である私たちへの誉め言葉として受け取っておくよ。このコロニーのシステムは閉鎖させた。君の友人であるミシャオナとか言う少女と最後の時を迎えるまでせいぜい仲良くするのだな。さよならレーメル、愛していたよ……』
ゼアスはそう言ってレーメルの前から姿を消す。
それは外部からの通信が途絶えたことを示す。
『くっ、このままではこのコロニーが地球へ落下してしまう…… ミシャオナが、死んでしまう!!』
半身に引き裂かれたレーメルはそう言いながら最後の力を振り絞るのであった。
* * * * *
「まったく、どんな手品を使ったんだよ?」
『アゴザはセブンズと言う初期のゴーストの一人だったの。でもその直情的な性格はその行動パターンが単純だから予測がしやすいの。彼のアルゴリズムを解析してその確率の高い順で対処した結果よ』
アールゲイツが操るボトムは屋根伝いに一番大きな建物に侵入する。
そしてこのコロニーの管理システムがある部屋に向かっていた。
「と、流石にここから先はこの図体じゃ入れないな。レーメル、ボトムをここに置いて行く。お前さんの本体とミシャオナは俺が必ず連れ戻して来る」
『頼むわ。本体の私はかなり消耗しているはずだから何処まで使えるか分からないわ…… だから最悪ミシャオナだけでも連れだしてラボの私の所へ連れて行って。そうすれば地球へ向かうカプセルに乗せられるわ』
「俺の分のカプセルもあるんだろうな?」
『勿論、だからお願いミシャオナを』
ボトムのモニターに映るレーメルを見てアールゲイツは肩をすくませため息を吐く。
そして親指を立ててからボトムから降りる。
ボトムのレーメルはそんな彼の後姿見送る。
「と、流石に地球と同じ疑似重力は体が重いな。まあ軍で散々訓練されたおかげで何とかなってはいるが……」
火星と地球の間を何度も行き来するアールゲイツは地球の重力もよく知っている。
そしてその重力に対しての訓練もしているのでミシャオナ程重力によるダメージは無い。
「とは言え、長丁場は流石に体力が持たない、急ごう」
アールゲイツはそう言いながら管理システム室へ向かうのだった。
* * *
「レーメル、大丈夫なの?」
『半身…… 持っていかれたわ…… でも流石に最新型の記憶媒体、最低限のバックアップは取れているのね、何とか自己修復が出来るわね』
レーメルの本体を無理矢理引きはがしたミシャオナは手元のスマホのような端末からレーメルの様子をうかがう。
かなり消耗したのか、レーメルはもの凄く疲れたような様子だった。
ミシャオナは心配しながらもこれ以上手立てがないのでここから離れようとレーメルのアタッシェケースを引きづりながらこの部屋を出ようとする。
『ちっ、またあの時のガキかよ…… いや、ちょっと待てお前その手に持つ記憶媒体はなんだ?』
レーメルの記憶媒体のアタッシュケースを引きずっていたミシャオナにその声はかけられた。
まるで安いスピーカーから出た様なその声にミシャオナは聞きおぼえがあった。
恐る恐るそちらを見ると火星の空港で見たあのセキュリティーロボットが立っていた。
『はっはぁーっ! そうか、そいつがレーメルの本体か!!』
アゴザのその声のセキュリティーロボットは片手をミシャオナに向けて迫り来るのだった。
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