第27話:止まらない時間


 ボトムに乗り込んでいたアールゲイツは貨物船から逃げ出し居住区へと来ていた。



「畜生、何処だよその研究所ってのは!?」


『このまま真っ直ぐよ、大通りをそのまま行って』



 レーメルに指示されアールゲイツはその研究所を目指す。



「そこに行けば何とかなるのかよレーメル?」


『少なくとも私の本体とミシャオナがいるわ。そして本体の私は多分そこでラボに置いて来た私のコピーと同調をして情報を確保しているはず。この後の行動に必ず必要な情報を得ているはずよ』


 アールゲイツはレーメルにそう答えられて渋い顔をしながら言われた通りの場所へとボトムを操作して向かう。

 無人の大通りに軍用ボトムがずかずかと歩いている光景は通常ではありえない光景だがそれを見物する人間はもうここにはいない。


 そんな無人の通りをアールゲイツが操るボトムが歩いて行く。

 そしてとうとうレーメルに指示された研究所へと着く。



『エレキカーが無い? ミシャオナは何処?』


「なんだよ、いないのかよ?」


 研究所の敷地の門は開かれ、研究棟の扉も開かれたままだった。

 なのでレーメルはすぐにラボにいるはずのコピーのレーメルと通信をする。



『何が有ったのかしら? ラボの私、聞こえる?』


『あら、アールゲイツと一緒の私? ここへ逃げ出してきたの??』



 ボトムの中にコピーされたレーメルはラボに残されたレーメルと同調を始める。

 そして確認するかのように言う。



『本体の私はミシャオナと一緒に廃棄コロニーの軌道を変える為にゴーストのシステムを乗っ取りに行ったのね?』


『ええ、それしか手が無いでしょう? セブンズの私なら内部からの直接アクセスでゴーストのシステムを乗っ取れるからね』


 ラボのレーメルはそう言って本体たちのレーメルがここを発ってからの時間を表示する。

 その時間を見てからボトムのレーメルは口に手を当て考える。



『本体の私ならゴーストのシステムを支配下に置けるだろうけど、先ほどから外部からの通信が入っているように感じるのだけど?』


『外部の? あら、本当だ。これって…… なにこれ!? この通信方法って私たちゴーストのそれと同じ? 何処から!?』


 ラボのレーメルはその機能をフル活用して信号の発信源を特定する。

 そして驚きの声を上げる。



『これって火星の更に向こう側じゃない!! 火星の向こうにあるゴーストのコロニー? まさかもう稼働を始めているの!?』



「ああん? どう言うことだよ??」


 ボトムのモニターで一応周りの索敵をしながらアールゲイツはレーメルに聞く。

 するとレーメルは何かに気付いた感じで言う。



『アールゲイツ、急いで政府の建物に向かって!! 火星の向こうのコロニーから通信なんて絶対に何か有るわ!!』



「政府の建物ったって、そこに何があるってんだよ?」


 レーメルに政府の建物の場所を提示されアールゲイツはそれを確認しながらレーメルに聞く。



『本来ゴーストたちはこのコロニーの政府の建造物、このコロニーの管理システム室にある初期型のメグライト記憶媒体にいるの。そこからゴーストのネットワークを使って動き回るのに外からこちらに通信が入るだなんて、これって絶対にゼアスたちよ!!』


「じゃあなにか、レーメルの本体たちはそれを知らずにそこへいるのか?」


『ええ、そうよ。もしそうだとすると廃棄コロニーの軌道を変えられないかもしれない。人類が滅亡してしまうわよ!!』


「おいおい、冗談じゃねぇ! レーメルの本体がいれば何とかなるんじゃなかったのかよ!?」


 アールゲイツはそう言いながら慌ててボトムを動かし始める。

 そして政府の建物へと向かうのだった。



 * * * * *



「レーメル! これでいいんだな!?」


 アールゲイツはそう叫びながらボトムから伸びるコードを政府の建物の通信機器に接続させている。

 ボトムのレーメルはすぐさまその回線を通ってゴーストのシステムにアクセスを試みる。


 しかしゴーストのシステムはやはり外部から来ていたゼアスたちの認証と、内部からの認証コードでレーメル本体が乗っ取ていたシステムの奪還をされていた。

 だがボトムのレーメルもアクセスコードがあるのですぐにシステムの一部に穴をあけ、そこから入り込み高速ドライブシステムで廃棄コロニーの核パルスコードを抜き出す。



『コード取得、送信!!』



 再び高速ドライブ方法を使ってそのコードを一気に廃棄コロニーに発信する。

 通常であればこれほどのデーターをか細い通信回線で送る事は出来ない。

 もし送れたとしてもかなりの時間を要する。

 

 だがこの高速ドライブ方法であるシステムはそれらのデーターを一瞬で送信できてしまう。



『レーメル!! くっ、廃棄コロニーが!!』


 ゼアスはすぐにそのコードの停止信号を送るが廃棄コロニーの核パルスシステムは既にレーメルのコードを受諾して動き出していた。




『何故だ!? 人類に未来などないのに、我々ゴーストと同じになるしか未来は無いはずなのに!!!!』



 そう叫ぶゼアスの目には廃棄コロニーの核パルスが再始動して白い光をともすのが映る。

 廃棄コロニーが再加速をして地球や月への落下する軌道から大きく離れ始める。

 二度の核パルスによる加速はもうその軌道を修正する事は出来ない。



『人類は滅びないわ。そして私も! ミシャオナ、本体の私のコードを引きちぎって! ラボの私がここからの脱出カプセルを準備しているわ、一緒に地球へ!!』


 ボトムにいたレーメルはミシャオナにそう言ってアールゲイツに通信機に繋がるそのコードを引きちぎらせる。



『本体の私、システムと同化した部分を引きちぎって!! ミシャオナ、アールゲイツのボトムがそこへ突っ込むわよ!!』


「くそ、人使いが荒いぞ!! ケーブルは抜いた、後はミシャオナとレーメルの本体を奪い去ればいいんだな!?」



 ボトムに乗り込みながらアールゲイツはそう言って起動させる。

 そして建物の中のミシャオナたちを回収に行こうとしたその時だった



『そう簡単にはいかせないぞ!! よくも俺たちの高尚なる目的を邪魔してくれたな!!』




 アゴザのその声と共に一機のボトムがアールゲイツのボトムに襲いかかるのだった。  


  

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