第26話:ゼアスとレーメル
そこは誰もいない建物ではあったが中はやたらと小ぎれいであった。
ミシャオナは肩で息をしながらもレーメルの本体であるアタッシュケースを引きずりながらその建物の中心部へ向かう。
『ミシャオナ、大丈夫?』
「はぁはぁ、きついけど大丈夫だよ。それよりレーメルこっちで良いの?」
建物の中に入りその奥へと進むミシャオナ。
エレベーターなどは生きているようで特に問題も無くレーメルによる扉の解除もあり更に奥へと行く。
そして辿り着いたそこでセキュリティロックを外し両開きの大きい扉を開けると壁一面の操作パネルやその状況を表示するモニター類が有る部屋へとたどり着く。
そこは全体を見渡す為に中央にはひときわ高い机があって、それを中心にだんだんの机が並べられ、さながら大学の講堂が逆になったような形であった。
「ふえぇ~なんかすごい部屋だね?」
『ここにゴーストたちがいるのよ。初期のメグライトによる記憶媒体、そしてメグライトを使ったシステム。メグライトが有ったからこそこれだけの時間が経過して、そして廃棄されても稼働が続けられる。だからここには私たちゴーストが集まって来たのよ』
レーメルはミシャオナにそう説明しながら中央の机に行くように言う。
そして机のわきにあるコネクターにレーメルの本体であるアタッシュケースを繋げるようにしてもらう。
『よし、これでゴーストたちのシステムにダイレクトにアクセスできるわ。これで人類滅亡は防げるわよ』
レーメルはそう言いながら早速ゴーストたちのシステムにアクセスする。
彼女の意思にはすぐさま目の前に丸い白い空間を映し出す。
それはゴーストたちの仮想空間。
レーメルはその上層部にある鏡で輪のように囲まれた場所へ飛んで行きその鏡のような物に触れる。
『コード:レーメル。セブンズとして本システムを預かる!!』
彼女がそう宣言した瞬間、そのシステムはレーメルの管理下に入った。
ゴーストたちが作り上げたシステムとは、初期にゴーストになった者たちにより作られたものだった。
それはゴーストたちの根幹である個人のデーター管理とゴーストのネットワークを構成するモノ。
ゴーストたちはこれによりネットワークを通じ世界各地にアクセスしているのだ。
『見つけた! これが廃棄コロニーの核パルス操作システム!! すぐに軌道修正して、再加速するわよ!! よし、このコードを送れば廃棄コロニーたちは地球や月への落下が出来なくなるわ』
ゴーストたちのネットワークから廃棄コロニーの核パルス操作システムにアクセスしたレーメルはすぐに軌道修正の計算をして再加速用のコードを準備する。
後はこのコードを廃棄コロニーに送信して指示すれば核パルスが再度稼働してその軌道が変えられる。
質量兵器としての役割が阻害できるのだ。
「よかった、これで人類は助かるんだよね?」
『そうよ、もう一度核パルスに点火が出来ればもう修正は出来ない。地球や月への軌道は回避できるわ』
大質量の物体を動かすには核爆発などの大きな力を利用するが、それはち密な計算と物理の法則から成り立つ。
なので大きな力で動かされた質量はその加速度により軌道修正もそれなりの大きな力が必要となる。
しかし宇宙空間と言う負荷の無い場所では初速はずっと維持できる。
それに加え再加速をする事により惑星の引力を振り切る速度が得られれば廃棄コロニーは地球や月の引力に引っ張られる事無く別の場所へと飛び去る事となる。
それらの計算したものをレーメルはネットワークを通じそのコードを送信しようとした。
しかしまさにその時だった。
『まさか君がここに来るとはな……』
この部屋の画面全体がいきなり変わってゼアスの姿が映し出される。
それにミシャオナも手の中にあるスマホのような端末のレーメルも大いに驚く。
『ゼアス!? なんで!? あなたたちのパーソナルは完全にシステムで閉鎖されたはずなのに!!』
『私たちがずっとここに留まっている思うのかね? 今ここに残っているのはコピーの私だよ?』
『なっ!?』
ゼアスにそう言われレーメルはすぐにそのシステムを見直す。
するとゴーストたちの容量がやたらと少なくなっている。
それに気付いたレーメルが外部からの通信を確認する。
そう、このゼアスは外部からの通信でアクセスしてきたものであった。
『そんな、私がラボにいた頃には確かにあなたたちの本体はここに居たはずなのに……』
『私たちが何時までもこんな所にいると思うかね? 君がここから本体を移した頃、我々も大容量の送信システムにより火星の向こうのコロニーへと我々の本体を移していたのだよ。そして最低限の仕事がこなせるようセブンズである私たちのコピーを残していたのだよ』
それを聞きレーメルは奥歯を噛む。
『セブンズのコピー……』
『元セブンズの君なら分かるだろう? 初期にゴーストとなり、ゴーストの為のシステムを作り上げた君なら』
『くっ……』
レーメルは思わず唇を噛む。
もし彼女が生身の人間ならそれにより唇から血を流していたかもしれない。
それ程レーメルはこの事態に己のうかつさを呪っていた。
『ゴーストに人の進化の未来を見た私たちは己のすべてをこの仮想空間にゆだねる事にした。そして同じく志を持つ者たちの楽園を作る為に仮想空間を管理するシステムを作り上げそのデータの往来を補充する為にゴーストのネットワークを作り上げ、超高速ドライブ方法を考案した。君の手によってね』
ゴーストのシステムを操るレーメルの目の前にゼアスは現れ懐かしそうにそう語る。
そしてレーメルに手を伸ばし言う。
『レーメル、戻って来い私の元に。人類はやがて滅びる。ゴーストになるしかなくなるのだ。全ての人類は家柄や身分の差のなどに苦しむ事は無くなるのだよ?』
『人としての尊厳を無くして? 確かに私はあなたと一緒に居たかった。父や母の反対を振り切ってあなたと一緒になりたかった。でも結局ゴーストになると言うことは私たちはそこで終わっていたのよ、私たちは人間じゃない、本物の私もあなたもあの時に死んでいるのよ!!』
レーメルのそれは叫び声になっていた。
この仮想空間にしばし沈黙が流れる。
しかしゼアスはその目元を隠す仮面を外しながら優しい声で言いう。
『手に入らない幸せに僕たちは絶望した。だからレーメル、君を誘ってこの仮想空間へ二人して来たいと思った。ここなら僕らは誰にも邪魔されずに永遠に一緒に居られるから』
『でもそれはまやかし。この私もあなたも人であった意思と知識をコピーした単なるデーター。人として触れられず、高尚な志だけで人は魂の昇華は得られない、人は肉の身体からはなられれないモノなのよ!!』
そう言ってレーメル涙を流す。
『人はね、その温もりを欲するの。いくらその志が高くてもそれでは魂が渇いて行くわ。血の通わない、触れられないそんなまやかしの身体に何があるって言うの? そんな事に私の親友を巻き込まないで! ミシャオナはこんな私でも親友と言ってくれた、人として扱ってくれたのよ!!』
『レーメル……それでも僕は……いや、私は人類を全てゴーストにする。もう止める事は出来ない。ここのシステムは今この時点で私の管理下に入った。もはや運命は変えられないのだ!』
ゼアスはそう言って仮面をかけ直す。
そして手を振ると仮想空間の色が赤く変わりレーメルからシステムを奪い返す。
『なっ!? 外部からのアクセスでこうも簡単にシステムが奪還されるなんて!?』
『言っただろう、ここに残ったコピーはセブンズだと。君一人の認証ではなく残り六人の認証が有ればシステムの優先権はこちらに戻せる。外部からの認証と内部認証の同時認証が行えれば凍結したシステムであっても再起動できるんだよ』
そう言うゼアスにレーメルは悔しそうに唇を噛む。
『このコードは消させてもらうよ、人類は我々ゴーストになるか滅亡するかを選ぶのだ!』
ゼアスはそう言って両の手を広げる。
そして高々とそう宣言する。
「だめっ! そんな事したってみんな嬉しくないよ!!」
そんなゼアスにミシャオナはそう叫ぶ。
『君がレーメルを惑わせたのかな? だったら君もゴーストになればいい。我々の仲間になればレーメルともずっと一緒に居られるぞ?』
モニターのゼアスが一斉にミシャオナを見る。
それに思わずたじろぐミシャオナだったがその場に踏ん張りゼアスを睨みつけて言う。
「それでも私とレーメルは一緒に地球へ行くんだもん!」
それを聞いてレーメルはハッとする。
この仮想空間でただ涙を流してうつむいていた彼女は顔を上げる。
『そうよ、私はミシャオナと約束した。一緒に地球へ行くんだって!』
仮想空間でそうレーメルが言った時だった。
『そう言うこと、だから諦めちゃだめよ!!』
「ちっくしょう、こうなりゃヤケだ!! レーメルこれでいいんだな!?」
突然聞こえて来た声はもう一人のレーメルとアールゲイツその人だった。
彼らはこの建物の所にまで来て外部からもう一人のレーメルによりアクセスをして、超高速ドライブ方式を使い細い通信回線から割り込み、そして廃棄コロニーのコードを打ち出した。
『何っ!? このシステムを抜けただと!?』
『忘れたのゼアス? 私だってセブンズで外部と内部から同時アクセスできればシステムの一端くらいわずかでも奪還できるわ! そしてこの高速ドライブシステムは細いわずかな回線でも大容量のデーターを送信できる技術、コードはいただいたわ!!』
アールゲイツと一緒にいたコピーのレーメルはそう言って廃棄コロニーの核パルスのコードを送り出すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます