第23話:US経済圏の宇宙軍
地球と月の間にある暗礁区。
ここは地球にも月にも重力に引っ張られる事のない場所。
なので処理に困った宇宙のごみを捨てるゴミ捨て場。
人類はその処理しきれない物をここへ捨てていた。
しかしそれは思わぬ存在の温床となる。
それはゴーストと呼ばれる存在。
今、人類はそのゴーストによる脅威にさらされていた。
『人類諸君、ごきげんよう。私はゼアス、ゴーストだ。 人類はこの二百年間地球圏にへばりつく哀れな存在であった。どんなに努力しても人類が居住できる環境はこの宇宙では限られている。火星にまで人類が到達できてもその先に行くにはまだまだ難しい。しかし人類は更なる進化を遂げてその先にある次なるステージに立たなければならない。その為には人類は我々と同じゴーストとなり永遠の存在にならなければならないのだ。 我々の組織、オリビヤは君たち人類をゴーストに昇華させる準備がある。これより三ヶ月後、地球と月の主要都市に廃棄コロニーを落とす。君たちは我々ゴーストになるかそのまま滅びるかを選択してもらおう』
ある日突然全てのメディアが放送ジャックされた。
そしてゴーストである組織オリビヤのゼアスはそう宣言をする。
当然全世界はパニックになった。
何せメディアジャックによる一般人への通告以外にも政府関連、更には軍のセキュリティーを越えてその放送が行われたからである。
これには流石に各経済圏も慌てた。
その存在自体が怪しまれていたゴーストたちの宣戦布告ともとれる宣言は瞬く間に全世界に知れ渡り、それは地球だけではなく月やコロニー、火星にも伝達ていた。
それが数日前。
つまりミシャオナたち乗る貨物船が高速航行から通常速度の航行へ減速を始めた頃だった。
減速中は基本通信関連がほとんど効かなくなる。
なのでミシャオナたちはその事実をまだ知らない。
そのような状況下、たまたま火星からの裏取引でゴーストの殲滅とメグライトの原石を積んだ貨物船と合流をしようとしていたUS経済圏の宇宙軍がこの暗礁区近くまで来ていた。
レーメルはゴーストたちに拿捕される前にUS経済圏の軍に対して緊急救助要請通報を入れている。
なので現在この貨物船が廃棄コロニーに連行されているのもUS経済圏の軍は確認をしていた。
当然の事ながらUS経済圏の軍は大慌てで廃棄コロニーの貨物船を奪還する為に急いでいた。
「まさか火星の要請が現実になり、我々が受け取るはずのメグライトを横取りされるとはな…… しかし、ゴーストなどテロリストたちのデマでは無かったのだな?」
旗艦の指令席で目の前に見えて来た暗礁区の数々の廃棄コロニーやデブリのごみを見ながらこの宇宙軍の総司令官はそう言う。
「指令! コロニーに熱源反応!! これは、核パルスによる廃棄コロニーの移動です!!」
「何っ!? それは本当か!!!? 本気でこの廃棄コロニーを主要都市に落とすつもりか!?」
総司令は思わず指令席から立ち上がり正面モニターに映し出された廃棄コロニーにともされる白い光を見る。
推進剤での移動と違い、核パルスによる移動は核爆弾の破裂する力を利用して物体を移動させる方法である。
あまりにも巨体で質量のある物体を移動させるにはこの時代では一般的な方法であった。
しかし通常はこれほどの巨大な物体を動かす事は稀である。
それが動き出したとなるとそうそう簡単には止められない。
「予想落下地点の算出とこの事を我が経済圏に通達、今目の前にある廃棄コロニーの資料を探せ! 核パルスの移動が始まったのであればまだそれが使えるかもしれん。早急に奴等を押さえてそのシステムコントロールを手に入れるんだ!! 戦闘準備、全ボトム発進!!」
口早に指示を飛ばしながら手を振り額の汗をぬぐう。
「本気で人類を滅亡させる気か?」
一通り指示をしながら席に座り直す。
そして予測落下地点を手元のディスプレーに表示して唸る。
「アメリカ大陸ワシントン、アジア大陸中国北京、欧州イタリアミラノ……これに落下する確率七十パーセント。大気圏中に廃棄コロニーが崩壊すればここを中心に更にその破片が周囲に落下し被害が拡大するだと……」
目の前で核パルスの明かりを未だ輝かす七つの巨大な廃棄コロニー。
その中でただ一つ動かないコロニーが有った。
「あそこにゴースト共がいると言うのか!」
そのコロニーはミシャオナたちが捕まって連行されたコロニーだった。
* * * * *
「か、体が重い……」
『ミシャオナはちゃんと骨や筋力の補強薬飲んでいるのでしょ? だったらじきになれるわ』
火星と違いコロニーは自転による遠心力で地球と同じ疑似重力がある。
地球の重力と同じになるように設定されている為に火星生まれの火星育ちのミシャオナにはかなりきつい。
火星の重力は地球の約四十パーセント。
そんな環境下で育ったミシャオナには自分の体重が倍以上になる事になる。
「これ、何もしないでダイエットになりそうね……」
『まあ、動く力が約倍は必要になるからね。でも補強薬を摂取していれば大丈夫よ、だんだん慣れるわ』
今までほぼ無重力の中にいたから余計にこの疑似重力はこたえるも、体を構築している骨も筋肉も補強薬のお陰でかろうじてミシャオナを動かす事が出来る。
そして揺らぎを感じていたコンテナもとうとう動きを止めて周りも静かになって来る。
レーメルはすぐにこのコンテナに取り付けられた外部確認用のカメラで周りの様子を見る。
『どうやら運び出されて港の倉庫区に運び込まれたらしいわね。ここには空気も疑似重力もあるわ。周りのシステムにハッキングをかけるわ。ここのシステムを乗っ取ったらミシャオナ、すぐに居住区へ逃げるわよ?』
「はぁはぁ、動くだけで疲れちゃうよぉ~」
ミシャオナはレーメルからそれを聞いてヘルメットを外す。
そして可能な限り軽装になる。
でなければ体に身につけたものすべてが倍近い重さになるからだ。
「農園の仕事で結構と力ある方だったけど、もっと鍛えておくべきだったなぁ……」
ズシリと重いヘルメットを置いて水分補給をする。
口に含んだ水分はすぐに胃まで落ちて行くのに驚くミシャオナ。
「重力ってこんなにきついモノなんだ……」
体重が四十キロ少しの彼女にはそんな事でも驚きの連続だった。
『よし、ハッキング完了。幸い近くに移動用のエレキカーがあるわ。ミシャオナ、もうコンテナから出ても大丈夫よ。そして急いでエレキカーまで行って!』
バコンと言う音がしてミシャオナが乗り込んでいたコンテナの蓋が開く。
ミシャオナは重い体を起こして外へ出てみる。
その姿はインナーだけの姿になっていた。
「流石にインナーは脱げないもんね…… とにかくレーメルの本体と一緒にエレキカーまで行かなきゃ…… うっ、レーメルの本体って重い。レーメルが太った?」
『そんな訳無いでしょ! 質量は同じよ。バカ言ってないで早くエレキカーまで行って、次のコンテナを連中が運んでくる前に!!』
ミシャオナはレーメルの本体を引きづるように持ちながらエレキカーに向かうのだった。
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