第22話:廃棄コロニー


 人類が宇宙に出てそこで生活をする為に作られた宇宙ステーション。

 その規模は時代と共にどんどん大きく成りコロニーと呼ばれるドーナッツ型の大きな建造物になっていた。

 

 しかし人造物であるコロニーは初期のものが寿命を迎え廃棄されるのだが、そのあまりにも大きな物体を解体処理するのは並みならぬ費用と時間がかかった。


 あまりに大きな質量。

 故に分解して地球の大気圏で燃やす事も出来なくなっている。


 人類はそんなゴミと化したコロニーを重力に引かれる事無く、安定した暗礁区となるこの区域に捨てた。

 結果その暗礁区はこの百年近く宇宙のごみ捨て場としてその規模を大きくしていた。




『驚いたな、廃棄コロニーなんざ完全に死んでいたと思ったのにな……』


 アールゲイツはボトムのモニターから船外の様子を見ていた。

 驚くほど色々なゴミが浮遊する中、中央付近に何個か巨大なコロニーが浮かんでいる。

 形状は最初期のドーナッツ型。

 現在の宇宙コロニーは筒形の物が主流となっていた。


 しかしその廃棄されたコロニーは修復もされた様で所々明りがついている。

 まだ機能が生きている証拠だ。



「凄いね、こんな所でまだ生きているだなんて。電気とかどうしてるのかな?」


 そんなアールゲイツの船内通信を聞きながら、ミシャオナもコンテナの中でその様子をスマホのような端末から見ている。


『ここは暗礁区でも太陽光は届くからね、太陽光パネルとかも生きているわ』


 レーメルはそう言いながら完全に乗っ取られたサブAIにアールゲイツが船長席にまだいると言う偽の情報を流している。

 ゴーストたちのボトムに連行される形のこの貨物船は一番近い廃棄コロニーに連れていかれる。



『運がいいわね、私がいたコロニーね。これなら私のラボがまだ使えるわね』


「ラボ? レーメルがいた場所なの??」



 レーメルのその言葉にミシャオナは反応するもレーメルはつまらなさそうに言う。


『私のデーターが存在していたのは昔の研究所のアーカイブだったの。ゴーストたちは廃棄コロニーの自分好みの場所に自分の本体となるデーターを保管してゴーストが作り上げたネットワークを介して仮想空間で会うのよ。でもゼアスたちが乗っとった工場でメグライトを使った記憶媒体が出来あがってみんなそこに本体を移転させたの。メグライトで作られた記憶媒体はそれは素晴らしい物だった。ゴーストである私たちはその中で何でもできる、仮想空間で神にも等しい力を手に入れたの。メモリーの残存量を気にすることなく、データーの酷使による機器のパワーダウンも気にせずにね……』


 レーメルのその説明にミシャオナはいくつか理解できない所があったが、大体の意味は理解できた。



 実際この廃棄コロニーはその内部にある建物や施設、公共の設備などがそのまま廃棄されているためにレーメルたちのようなゴーストにはうってつけの場所だった。

 それら施設には未だ生き残ったコンピューターやネット回線、記憶媒体などがあるからだ。  


 なので彼らゴーストたちは初期段階ではそれらの記憶媒体に自分の本体となるデーターを置いていた。

 しかし作業用のロボットや義体を操れるようになり、コロニーに残った工場で横流しのメグライトを使い、データーを各経済圏から盗み出し新たな記憶媒体を作り上げる事に成功した。

 そしてゼアスたちはいよいよ人類全部を更なる高みへと導くと言う野望を持ち始める。


 もちろんすべてのゴーストがゼアスたちに賛同したわけではないが、本体をメグライトの記憶媒体に移す事には同意をしていた。


 そしてここ廃棄コロニーで力を付けたゼアスたちはオリビヤと言う組織を立ち上げ火星の更に向こうにゴーストの為のコロニーを作り上げた。


 ここには水も空気も必要ない。

 生命活動に必要なものが不要だからだ。

 ただ半永久的に使えるメグライトの記憶媒体が有ればゴーストである自分たちは更にこの宇宙に羽ばたけると。

  

 そして人類を全てゴーストにしてこのコロニーにその本体データをを保管するつもりであった。



『そんな夢のような事は私たち実体のないゴーストだけでは出来なわ…… 魂のよりどころを無くした者に未来は無いのよ……』



 レーメルはそうつぶやくのだった。



 * * * * *



 貨物船はゴーストが操るボトムに連行される形で廃棄コロニーの港に着いた。

 既に船のサブAIは乗っ取られているので到着と同時にメグライトの搬出を許可する。



『おい、ゼアスこんな事したら火星もUS経済圏も黙っちゃいないぞ!?』


『安心したまえ、すでに手は打ってある。もうじきここへUS経済圏の宇宙軍が攻め込んでくるだろうが、我々には勝てんよ』



 アールゲイツは通信回線上でゼアスに噛みつくが、ゼアスはいたって落ち着いた様子だった。

 いくらUS経済圏の宇宙軍が来たからと言っても慌てる必要はないと。



『これからどうするつもりだよ……』


『君にはもう一度チャンスをやろう、我々ゴーストの仲間になるつもりはないかね?』


『冗談だろ? 俺はそんなモノにはなるつもりはないぞ??』




『ではお別れだ』



 

 ゼアスがそう言った瞬間船に揺れがあった。

 レーメルがすぐに確認をすると貨物船のコックピットとなる場所がゼアスたちオリビヤの操るボトムによって叩き潰される映像が入って来た。



「酷い……」


『ああ、まったくだ。いきなりそう来るとは思いもしなかったぜ……』


『仲間にならないなら用済みか…… ゼアスたちは何をそんなに焦っているの?』



 レーメルが構築していた船内通信でその一連を見ていた三人はそう言って安堵の息を吐く。

 するとミシャオナが潜んでいたコンテナに揺れが感じられた。



『アールゲイツ、US経済圏の宇宙軍が来るまでは出ないでね。そっちの私、今後リンクは出来なくなるわ、後はお願いね!』


『分かっているわ、本体の私。ミシャオナの事、お願いね』


 アールゲイツの所にいるコピーのレーメルとはそこまで言って通信が切れた。



『いよいよコロニーの中に連れていかれるけど、ここには重力も空気もある。メグライトの工場は無重力や真空では加工が出来ないから。ミシャオナ、工場まで行ったら逃げ出すわよ。そして私のいたラボまで行くの。そこでネットワークに介入して地球行きのカプセルを奪いましょう』


「うん、分かった。アールゲイツさん、大丈夫かな?」


『私のコピーがいるのよ? 大丈夫、後は旨くやるわよ』



 レーメルにそう言われミシャオナは徐々に体が重くなってゆくのを感じる。

 コロニーの自転による遠心力の疑似重力。


 それを感じながらミシャオナは初めて地球と同じ大きさの重力を体感する事になるのだった。 


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