第三章:ゆずれないモノ

第21話:拿捕


「ゴーストの廃棄コロニーに行くって、どう言うことレーメル?」


「おいおい、ここは大人しくUS経済圏の軍に助けを求めた方がいいんじゃないのか?」



 ミシャオナとアールゲイツはレーメルに同時にそう言う。

 しかしレーメルはいたって落ち着いた様子で画面の航路上に予測図を重ねてる。

 そして点滅するポイントを見せながら説明を始める。



『この船の通信機器じゃ詳しい情報までは入らないけど、今算出が終わったわ。この貨物船を減速させて通常航行になるポイントはここね。そしてこの辺に今US経済圏の軍がいるわ。そうするとどんなに頑張っても先にゴーストの実働部隊がこの船に接触するのが速いわ。もしUS経済圏の軍に助けを求めても間に合わない。となるとUS経済圏の軍はこの船のメグライト回収しか考えないでしょうね』



 そこまで言ってレーメルは次の予想図を重ねる。


『ゴーストはこの船をハッキングで乗っ取るでしょうね。その時に私が抵抗すればシステムのメグライトを熱暴走させてでも船を止めるでしょう。後は乗員の事なんか考えずにメグライトの回収をするだけ。アールゲイツもミシャオナも危なくなるわ』


 そして画面の端にもう一度廃棄コロニーの画像を出す。


『この廃棄コロニーにはまだ空気も水もあるわ。そしていろいろな設備がまだ稼働している。勿論その中には地球へ行けるカプセルもあるわ。つまり、わざとゴーストに拿捕されてそのままこの廃棄コロニーに行ってミシャオナと私は地球へ行くカプセルを手に入れる。そうすれば地球へ行けるわ!』


 にっこりと笑ってレーメルはそう言う。

 途端にミシャオナは明るい顔をして手を叩く。



「ちょっと待て、俺はどうなるんだよ?」


『アールゲイツは拿捕された後大人しくしていてUS経済圏の軍が廃棄コロニーに攻めてきた時点でこの船のボトムで脱出してUS経済圏の軍に保護してもらえばいいわ。もともとあなたはUS経済圏の軍と接触する為に地球へ向かっていたのでしょ?』


 そう言われアールゲイツは苦虫をかみつぶしたような表情になる。


「確かに俺の任務はUS経済圏に内密にこのメグライトの原石を引き渡す事だが、そんなにうまく行くか?」


『だから火星に緊急連絡を入れるのよ、船が故障して暗礁区までしか航行できないと。火星からUS経済圏に連絡を入れればあなたの保護くらいはしてくれるでしょう?』


 そう言うレーメルにアールゲイツはしかめっ面をして頷く。

 実際にはアールゲイツは軍属なので任務をこなす必要がある。

 それにミシャオナたちと地球に行くつもりはない。



「分かった、その代わりちゃんとサポートしてくれよ?」


『勿論、さあそれまでに準備をしなくちゃね!』



 レーメルにそう言われ三人は頷きあうのだった。



 * * * * *



 ミシャオナは密航時に使っていたコンテナの前にいた。

 そしてスマホの様な端末のレーメルに指示されながらその整備を進める。



「まさかまたこのコンテナを使う事になるとはね~」


『ミシャオナを安全に廃棄コロニーに運ぶにはこれが一番だからね。コロニーに入ってしまえばこちらのモノよ。ゴーストたちのネットワークも外部ではなく内部からなら私でもアクセスできるから。ネットワークに入り込めればこちらのモノよ』



 そう言いながらコンテナ内を整備する指示を飛ばす。

 そしてそれが大体終わった頃にアールゲイツがやって来た。



「へぇ、こんな感じで密航していたのか。しかしよくこんなのでこの船に乗り込んだものだよな」


『幸か不幸か、あなたたちが急いでメグライトを運び出してくれたからね。ミシャオナと私はまたこれに隠れてゴーストの廃棄コロニーまで行くわ。あなたには私がハッキング済みのボトムを準備しているからそこに私のコピーを残すわ。すべてうまく行ったら自己デリートするから後は任せたわよ?』


 そう言われてアールゲイツは頬をかく。


「ま、なんだ。いろいろ有ったが結構楽しかった。まだ終わりじゃないが元気でな」


 そう言って手を出しミシャオナに握手を求める。

 ミシャオナは一瞬ためらうも、スマホのような端末のレーメルを見てから頷きあって手を出す。



「そうですね、アールゲイツさんもお元気で!」



「ああ、レーメルにはもう少し付き合ってもらうが、本体のレーメルも上手くやれよ?」


『誰に言ってるのよ? それより減速に入るわ。約二十五時間後に暗礁区近くで通常航行速度になるわ。多分こちらの動きは知られているからすぐにゴーストが来るわよ』


 レーメルにそう言われミシャオナもアールゲイツも頷く。

 そして間もなくこの貨物船は減速を始めた。



 船自体に逆噴射をかけて航行速度を落とす。

 船体全部がかなりの速度になっていたので減速に入ると船体全部に慣性の法則が働く。

 要は電車が急に止まる時のように進行方向に引っ張られるわけだ。


 

「減速で後二十四時間後か。レーメル、ボトムの所に行くから仕様を教えてくれ」


「わ、私も最後に酸素ボンベとか入れなきゃ!」


 そう言って二人は作業を再開するのだった。



* * * * *



 ミシャオナはレーメルの本体であるアタッシュケースを持ってコンテナの中に入り込んでいた。

 船自体はサブAIとレーメルのコピーが操舵している。

 そして緊急通信で状況を報告し終わったアールゲイツはレーメルによる操作で船長席にいるようにセンサーに誤情報を流している。


 アールゲイツ自身は既にボトムに乗り込んでいた。



「まさかこんな事になるとはな。これで俺も旨い蜜にはありつけなくなるが、命有ってこそだからな…… レーメル仮眠に入る。時間になったら起こしてくれ」


『分かったわ。とにかくゴーストが襲ってきたらあなたはコックピットにいるように見せるわ。後は臨機応変にね』


 それを聞いてからアールゲイツは仮眠に入る。

 後約二十時間でこの船は暗礁区に到達する。 

 それまでにアールゲイツは体を休めるのだった。 

 

 


* * * * *



『ミシャオナ、起きて。もうじき減速が終わる、通常航行になるわ』



 コンテナの中でうつらうつらと仮眠をとっていたミシャオナはスマホのような端末から聞こえるレーメルの声に目を覚ました。

 既に減速が終わり始めだんだんと無重力が戻って来る。

 手元に握っていたスマホのような端末もまたミシャオナの目の前で浮遊を始める。



「とうとう暗礁区に着いたんだね?」


『ええ、そして予想通りもうゴーストたちが動き始めているわ。やっぱり無人機のボトムが出てきている。アールゲイツ、準備はいい?』


『ああ、こちらは準備が出来ている』



 船内通信はまだ使えるのでレーメルは各人に指示をする。



『アールゲイツ、通信が入ったわ! 回すわよ』



 どうやらゴーストからこの船に通信が入ってきたようだ。

 レーメルはミシャオナにも聞こえる様に通信をオープンにしたままにする。




『やあ、アールゲイツ君よく来たね』


『ああ、旦那か。長旅でそろそろ嫌になっていた頃だが、今回はずいぶんと接触が速いな?』


 聞こえてきたのはゼアスの声だった。

 そしてアールゲイツは素知らぬ感じでいつも通りに話をしている。


『何、君も知っての通り私たちは人類に対して次なるステージへ上がる事を提案しているのだよ。それには君の運ぶそのメグライトが必要となる。どうだね、君も私たち同様にゴーストになるつもりはないか?』


『俺がゴーストに? 勘弁してくれよ、何時もみたいに横流しはするが俺はゴーストにはならないぜ? あんたらと交換している酒や嗜好品をもっと楽しみたいんだ』


『アーカイブにはそういったデーターも潤沢に有るがね?』


『本物を味わう事しか興味はないぜ?』


 そこまで言ってしばし間が開く。

 しかしゼアスは何気ない感じで語り始める。


『今回、君が運ぶ大量のメグライトを我々は必要とする。どうだね、大人しく言うことを聞いてはくれないかね?』


 ゼアスがそう言った途端船内に警報音が鳴る。

 その警報はこの貨物船がターゲットとして照準をロックオンされていることを意味する。



『おいっ! どう言うつもりだ!?』


 

『なに、君には大人しくしてもらえば良いだけの事だよ。その船は我々がいただく』


 ゼアスがそう言と同時にこの船のシステムに強力なハッキングがかかる。

 勿論それを予測してレーメルは対応していたが、すんなりとサブAIが乗っ取られるようにする。



『おい、何しやがるんだ!? 船が勝手に!!』



『君には感謝するよ、これだけのメグライトが有れば人類を全てゴーストにすることも可能だ! やれ!』


 ゼアスがそう言うと同時に貨物船に衝撃が走る。

 急激に進路変更をしたようで右側に向かって遠心力がかかる。



『うまく行ったみたいね、アールゲイツの演技も良いわね』



 レーメルはそう言って完全にサブAIのコントロールをゼアスたちにゆだねる。

 そしてこの貨物船はゴーストたちに拿捕されるのであった。 

 

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