第20話:問題発生


『くくくくくっ、ちゃんと録画しておいたわよ』



 レーメルの意地悪そうな笑い声が聞こえる。

 しかしアールゲイツはだんまりを決め込む。



「レーメル、意地悪しちゃ可哀そうだよ。アールゲイツさんだって本当に怖かったんだろから~」


 船の修復が終わってひと段落して全員でコックピットに戻っていた。


 アールゲイツはぶすっとした顔だが何も言わない。

 そしてその頬がやや赤くなっている。


 助け出されたアールゲイツはミシャオナの腕の中でお姫様抱っこされながら情けなく泣き出していた。

 屈強なおじさんがもろくも泣き出すその姿にミシャオナはどうしていいのか分からずおどおどするも、レーメルはそれを面白がって動画まで撮影していた。


 そして先ほどまでさんざんレーメルにいじられていたのだ。



「そ、その、助けてくれたことには感謝する。あのままなら俺は宇宙のチリと化していた……」


 そう言ってぺこりと頭を下げる。

 そんな彼をひとしきり笑っていたレーメルだったが、真顔に戻り言う。



『宇宙で放り出されればそうもなるのは仕方ないわ。感謝するならミシャオナにしてよね。それより問題があるわ……』



 そう言ってレーメルはこの船の航路を画面に表示する。

 ミシャオナとアールゲイツはそれを見て首をかしげる。


「レーメル、これって最初の航路なんじゃないの?」


「どこが問題なんだ?」


 二人してそう言って画面を覗いているが、レーメルはその航路の下に推進剤の残存量を一緒に掲示する。

 するとその航路のちょうど暗礁区に差し掛かるくらいで推進剤が無くなる数値が表示された。



『見てのとおりよ。思いの外推進剤が漏れ出たわ。減速を考えると暗礁区が限界値ね。それを超えると止まれなくなって地球に激突するわ』



 一般的に宇宙船は加速を始めるのと停止する為の逆噴射をする為にはほぼ同じ量の推進剤を使う。

 宇宙空間には摩擦による減速は基本存在しないので、止まる為にも推進剤は必要だ。

 でなければ永遠と同じ速度で宇宙空間をさ迷うか何かにそのスピードで激突する羽目になる。



『航路も最短はそれになるわ。結局私たちは暗礁区の近くに行くしかなくなったってわけよ』


 それを聞いてアールゲイツは顔を上げる。


「推進剤がここまでって事だが、他に行ける場所は無いのかよ?」


『月もコロニーもだめね。周回的にこの船が地球に近づく時は月もコロニー群もちょうど地球の反対よ』


 それを聞いてアールゲイツは唸る。

 しばし考えてからため息をついてい言う。


「仕方ない、緊急時の通信をするしかないか…… 火星の軍上層部にこの事を伝えてから……」


 そこまで言って言葉が止まる。

 そしてレーメルを見て言う。


「US経済圏の連中の動きはどうなっているんだ?」


『この船があと三日もすると減速に入り、更にその二日後には暗礁区近くにお出迎えのUS経済圏の宇宙軍と鉢合わせね。勿論その前にゴーストの実働部隊がこの船を襲いに来るでしょうけどね』


 それを聞いてアールゲイツは思い切りため息をつきながら顔に手を当てる。


「一番悪いタイミングか……」


「えっと、どう言うことレーメル?」


 一人状況をよく理解していないミシャオナは頭にクエスチョンマークを浮かべながらレーメルに聞く。

 そんなミシャオナにレーメルは画面表示しながら説明をする。



『本来この船は暗礁区近くで減速をして通常速度の航行に移る予定だったの。今まではそこでゴーストたちにメグライトを横流ししていたみたいだけど今回は違う。現在私たちは推進剤が足りなくてここ暗礁区近くで止まるしかない。もともとはもう少し地球に近い場所でUS経済圏の連中にこの船のメグライトを引き渡す手はずになっていたけど、その前に暗礁区で止まると言うことは既にゴーストの存在場所を知っているUS経済圏の連中も必ず暗礁区へやって来る。そうなればこの船の安全は保障されなくなるわ』



 そこまで言ってアールゲイツを見る。

 するとアールゲイツも無言で首を縦に振る。



『ゴーストはもともとこの船を強奪するつもりだったから船員の生死は問わないわ。そしてUS経済圏も裏取引であるメグライトさえ手に入れば良いし、どちらにせよゴーストを殲滅しに来ている連中。安全にこの船を保護するかどうかも怪しいわね』



 そこまで言ってレーメルは画面に暗礁区の廃棄コロニーと思われる画像を映し出す。



『これは私もいた廃棄コロニーよ。この中には記憶媒体以外にもメグライトを加工する為の工場やその作業者である義体のアンドロイドたちがたくさんいるわ。そして火星で起こったように様々な無人で動くセキュリティーロボットなどもたくさんいるでしょう。ボトムに関しても無人で動くように改造をされているでしょうから下手な軍用の物よりかなりトリッキーな動きが出来る。正直下手な軍隊より厄介よ……』



 軍隊は人が管理して人の手によって運営される。

 それはこの時代でも同じだった。

 しかしゴーストは人ではない。

 同じボトムにしろ人間が搭乗して動かせるスピードや動き以上に無理が出来る。

 結果、ベテランパイロット以上の動きをする機体もいるだろう。


 そうなれば如何に訓練された軍隊でもそうそう簡単には制圧が出来ないだろう。



「US経済圏の軍とゴーストの予想戦力差は?」


『US経済圏の軍がゴーストの三倍はいると予想されるわ。もう私のコードでゴーストの通信網は使えなくなってきているけど、最後に私が抜き出したデーターではそうなっていたわ』



「三倍もいるなら大丈夫じゃないの?」



 戦力差を確認してアールゲイツとレーメルは唸っていたが、ミシャオナは首をかしげそう聞く。


「普通ならな。しかし軍用ボトムあたりが限界値越えの動きをするとなれば話は別だ。母艦なんか狙われてそれをやられたらひとたまりもないぞ?」


『でしょうね、リミッターを解除して最悪カミカゼでもされたらUS経済圏の軍は

歯が立たないかもしれないわ』


 数の差が戦力の決定打にならない事をこの二人は言う。 

 流石にそこまで説明されると素人のミシャオナでも理解は出来る。

 

 しかしそんなミシャオナにレーメルはとんでもない事を言い出す。



『だから私たちが安全に地球に行くには逆にゴーストたちの廃棄コロニーに行く必要があるのよ』




「ええぇっ!?」


「はぁっ?」 

    



 二人の驚きの声が上がるのだった。


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