第二章:宇宙
第12話:貨物船
ミシャオナはレーメルと共に貨物船の貨物室でコンテナを改造していた。
外ではいまだにゴーストによる空港の管理システムの占拠が行われており、いくら軍を投入してもシステム自体の奪還にはまだ時間を要していた。
なので独立したシステム運用をしているこの貨物船にまで確認の手が回っておらずその隙にミシャオナが地球にまで密航できるための偽装コンテナを作成する事となった。
『メグライト原石はまだこの貨物庫にあるわね、システムの一部を乗っ取ったからここへそれを運ぶわ。だからそれまでに居住空間の作成を急いで』
「うへぇ~私こう言うの苦手なのに……」
ミシャオナはレーメルから指示されたユニットをコンテナの中に固定してゆく。
それは生命維持の為の様々なユニット。
宇宙船にはこう言ったユニットが合理化され、そして国際規格に合わせた仕様になっているので組み合わせるだけで使えるようになる物が多い。
でなければ宇宙空間であまりに複雑な作業をするのは命取りになるからだ。
可能な限り軽量で頑丈。
そして接続などの規格を統一してメンテナンス性を上げ、何か有ってもユニットごとに交換すればすぐに復帰できるシステム。
それが現代の宇宙空間では必須となっている。
『指示した通りにすれば問題無いわ。ユニット自体はチェック入れた時に正常だから問題無いし、気密をしっかりとさえすれば後はユニットの固定と接続だけだから』
「うん、それは分かっているんだけどね……」
コンテナの中にミシャオナが入るスペースに気密のシーリングをしてそれに各種ユニットを取り付けて行く。
そしてユニットごとを接続させ外部センサーも取り付けて行く。
偽装用スペースにはもうじき原石のメグライトが運ばれてくるだろう。
中に入ってそれを偽装スペースに詰めれば開けられてもメグライトの原石しか見えない。
それが出来あがれば今度は貨物船や事務所などから必要な食料や水、それと酸素を持ち寄ってコンテナに詰め込んで準備が出来あがる。
『ん、メグライトの原石が来たわね。こっちに持って来させてっと……』
レーメルは運ばれてきたメグライトのコンテナから作業用の小型ロボットを操作して原石を運び込む。
『手足となる作業用ロボットのハッキングが出来て助かるわね。後は私が遠隔操作すればいいのだもの』
「あー、ユニットの接続とかも作業用ロボットが出来れば好いのにぃ~」
作業用ロボットは単純な事しか出来ない。
物を運ぶや清掃をするなどの単純作業しか出来ないのだ。
ぶつぶつ文句を言うミシャオナを横目に笑いながらレーメルは言う。
『自分の寝床なんだから自分でしっかりとした方が良いでしょう?』
「うっ、それはそうなんだけど…… あ、あとおむつとか生理用品とかも!」
言いながらミシャオナは事務所の緊急用のそれらを探し出して来る。
火星総督府の計画では地球の経済圏との取引で使うメグライトの原石はこのカルバの空港を奪還してすぐに行われる予定だった。
今はまだゴーストにその管理システムを乗っ取られているがそれが奪還されるのも時間の問題となっていた。
なので急いで偽装コンテナにミシャオナを入れて倉庫に紛れ込ませ、メグライトの原石を輸送船に積み込む時に紛れさせなければならない。
「よしっと、航行予定の間に必要になりそうなものは全部詰め込んだよ。後はバッテリーとレーメルの本体のこのアタッシュケース記憶媒体を取り付ければ終わりだよ」
『ちょうどいいタイミングね、そろそろ管理システムも奪還されるわ。ミシャオナ、コンテナに入って。偽装のメグライトを詰めて終わったらコンテナごと倉庫に運送するわ。多分奪還後すぐに積み込みが始まるからそれに紛れるわよ』
レーメルはそう言いながらミシャオナがコンテナに入り込んだのを確認して作業用ロボットを使ってメグライトの原石を詰め込み始めるのだった。
* * * * *
「手間を取らせおってからに……」
ジーグ大佐は空港の管理システムがあるこの部屋で忌々しそうにそのモニターを見ていた。
そこには空港のシステムがほぼ奪還完了される状況が映し出され、主犯であるゴーストの通信遮断にも成功していた。
「まさかあんな古い回線が生きていたとは思いませんでしたよ。でももう大丈夫です。対策のワクチンプログラムも正常に稼働中です。外部からの通信操作が無ければここのシステムはもうどうにかされる事はありません」
キーボードを操作していた軍の電子戦専門のスタッフがそう言って顔を上げる。
それを見たジーグ大佐は大きなため息を吐く。
「まったく、姿形の無い者程厄介なものは無い。敵が見えないと言うのはいつもイライラさせられる。まだ終わらんのか?」
そう言いながら胸のポケットから煙草を出す。
この時代でもタバコは存在して主に高級な嗜好品として出回っている。
但し、それは全て電子タバコではあるが。
「大佐、全てのシステム奪還完了しました。多少システムに組み込まれていない部分がまだ空港に有りますが、そちらは本流にアクセスできませんから破壊すれば終わりです。もしゴーストが本当に存在してそこに逃げ込んだのなら奴等を機械ごと壊す事によって永延に消し去ることが出来ます」
ジーグ大佐はそれを聞いてニヤリと笑う。
「目に見える奴をこの手で始末できると言うことか。良し、最後の部分は俺が直接手をくだしてやる。何処だ?」
電子タバコの煙を吐き出してジーグ大佐はそう言う。
すると電子戦専門のその兵士は一枚の画像をプリントアウトしてジーグ大佐に手渡す。
紙切れのようなそれはそれでもタブレットの画面のように動画を映し、見取り図のでその位置を表示する。
ジーグ大佐はそれを見たニヤリとする。
「搬入用の倉庫区か。作業用ロボットのコントロールセンター。良し、行くぞ! 残りの者は荷物の積み込みが出来る貨物船の準備だ。急げよ!」
そう言ってジーグ大佐はこの部屋を後にするのだった。
* * * * *
『どうやら空港の管理士システムが奪還されたようね? となるといよいよメグライトを積み込んで貨物船が動くか。ミシャオナ、大丈夫?』
「う、うん、大丈夫。ショック吸収シートもあったからそれに座っていれば多分」
偽装のコンテナの中に入ってミシャオナは薄暗いその中でスマホの様なその端末に映し出されるレーメルに答える。
しかしその顔には緊張の色が見とれた。
『大丈夫よ、どうやら外部からの通信は遮断しているけど内部の通信についてはザルね。貨物船と管理システムの間のコードはまだ使えるからそこからこのコンテナを紛れ込ませるわ。ミシャオナ、外部カメラは大丈夫?』
「う、うん、ちゃんと画像も映ってるよ」
ミシャオナは慌ててスマホの様な端末に外部の映像を小さくだが表示してみる。
そこには作業用ロボットがこのコンテナを移動させている様子とか、倉庫のような場所に沢山の同じようなコンテナが置いてあるのが見とれる。
『よし、ハッキング完了。何このウィルス駆除システム? こんなモノで私たちゴーストをどうにかできると思っているの??』
あきれた表情のレーメルはそんな事を言っている。
それを見たミシャオナは笑って言う。
「レーメルってそう言う方面凄いよね? なんかコツとか有るの??」
『コツと言うか、私たちゴーストにとってプログラムとかは目のまえにある積み木のような物なの。それを崩してまた組み上げてって感覚なのよ。だからゴーストは下手なハッカーより数段早くそして正確にハッキングが行える。自然とこう言った事は強くなるのよ』
そう言ってミシャオナのコンテナを搬送しやすい場所に置いて作業用ロボットを引っ込ませる。
『さあ準備は出来たわ。ここにあるコンテナは全て貨物船に運び込まれるよう指示が出ているわ。もうじき軍の作業用ロボットがここへ来てこのコンテナを運び出すけど、声は上げないようにしてね。対人センサーのジャミングはしていても音声までは消しきれないからね』
レーメルにそう言われミシャオナは声を上げずに首を縦に振るのだった。
そして待つ事しばし、ミシャオナが入っているコンテナに揺れが感じられ運び出される感じがする。
スマホの様な端末から外部の映像を見ると群の作業用ロボットと思われる緑色のロボットたちが見える。
そしてシェルターの外へ運び出され滑走路に止っている大型の貨物船にどんどんと近づいて行く。
ミシャオナはそれを見てあれで地球へ向かうのだなと思うのだった。
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