第10話:逃亡


 それは突然だった。

 ミシャオナが乗り込むボトムの目の前でシャッターが破壊されそこから緑色を主体とした軍用のボトムが入って来ていた。



『なんで火星の軍隊が……』


「どう言うこと? レーメル!」



 そのいきなりの強襲に驚く二人だったが火星軍のボトムの動きは速かった。

 すぐさまミシャオナが乗っているボトムは火星軍のボトムに取り押さえられてしまった。



『聞こえるか? これに乗っているのは貨物船の者か?』


 共通の通信周波数から聞こえるその声にミシャオナは思わずレーメルを見る。

 するとレーメルは無言で静かに首を縦に振る。


「え、えっと空港の荷受けをしているスタッフです」


『ゴーストではないか…… よし、事情を聴きたい。こちらの指示に従ってくれ』


 そう言って銃口は突き付けられたままだがミシャオナの乗り込むボトムは指示された場所へと移動をするように言われ、ミシャオナたちは大人しくそれに従いついて行くのだった。



 * * * * *



「ID番号二二九七〇九〇九二一三三、ミシャオナ=ハイマー十六歳確かに確認できた。分かる限りでいいから状況を教えてくれ」


 ミシャオナは防護服を着ていなかった為、気密の効く場所まで移動してからボトムから降りる。

 そして軍の人間に身柄を拘束されて近くの部屋で尋問を受けていた。


「あの、それで他の人たちは?」


「現在軍がこのカルバの空港を奪還する為に動いている。他の人は軍が必ず助け出すから心配するな。それよりここを占拠しているのは本当にゴーストなのだな?」


 足早にいろいろな事を聞かれてそれに応えながら核心的な問題を聞かれる。


「えっと、多分間違いないと思います…… 隔離壁も通信も今は完全にシステムが乗っ取られたらしく手動で動くところにしか移動できなくて……」


 ミシャオナのその言葉に質問をしていた軍人は後ろを見る。

 すると他の軍人が首を縦に振っているのでまたミシャオナにその軍人は振り返って聞く。


「どうやら間違いないようだな、そうするとまずは空港の制御システムをどうにかしなければいけないな。君は我々が安全な場所まで連れて行こう、こちらへ来たまえ」


 そう言って後ろに控えていた軍人にやや強引に引き連れられて行く。



「痛っ、あの、ちゃんと言うことを聞きますから引っ張らないでください」


「いいからこっちに来るんだ!」


 その軍人はミシャオナを強引に引っ張って行きミシャオナが乗っていたボトムの近くまで引っ張って行く。


「あの!」


 そう彼女が言った時だった。

 その軍人はいきなり銃口をミシャオナに向ける。



「えっ!?」



『ミシャオナ!!』


 しかしレーメルの声が胸にしまっておいたスマホのような端末からしたと同時に無人のはずのボトムがレーザーを発射してその軍人を一瞬で焼き殺す。



「え、えええっ!?」


『ミシャオナ、すぐにボトムに乗って!! こいつら空港のスタッフ共々セキュリティーロボットを始末し始めた!! 早くさっきのボトムに乗って!!』



 レーメルに言われミシャオナは慌ててボトムに乗る。

 そして扉を閉めるとすぐにそこへ銃撃が行われた。



「一体どう言うことなの!?」


『分からないけど、軍の連中空港のスタッフ共々セキュリティーロボットを始末している。関係者全員口封じでもしようとしているの!?』


 レーメルはそう言いながらボトムを起動させミシャオナに指示する。



『とにかく今はここから逃げて!』


「逃げるたって何処へ!?」


『輸送船の貨物庫にまで誘導するわ、とにかく今この機体ごと隠れられるのはそこくらいだから早く!!』


 ミシャオナはレーメルのサポートの元ボトムを急ぎ動かし、近くに待機していた軍のボトムをひっくり返したり機材を倒したりして命からがらこの場を離れるのだった。




 * * * * *



「防護服と緊急食、それと緊急用の酸素と……」



 ミシャオナはレーメルに誘導され何とか軍の連中をまいて輸送船の貨物庫にまでたどり着いていた。


 幸か不幸か空港のシステムは今だゴーストに乗っ取られたままで、レーメルが最低限のハッキングによって防御壁や通路を遮るシャッターは開けることが出来た。

 おかげで軍の連中の追尾は躱せたが、状況が好転しているわけではない。



『とにかく今はここから逃げ出す事を考えなきゃね。まさか軍の連中が関係者をまとめて始末するとは……』


「なんでそんなことするのよ! 私たち何も悪い事してないじゃない!!」


 貨物庫で緊急用の防護服や食料、水に酸素を手に入れたミシャオナはスマホのような画面の向こうのレーメルにそう言う。

 しかしどう言った意向でこのような蛮行が行われているかなどいくらゴーストのレーメルにも分からない。



『とにかく輸送船のコックピットにまで何とか行って。そこから通信機を起動させて本体の私に連絡を取りましょう。本体のサポートがあればこの状況を打破できるかもしれない』

 

 ミシャオナはレーメルにそう言われてぐっとスマホのような端末を握りしめる。

 そして意を決したように首を縦に振って頷く。


「分かった、輸送船のコックピットね? やってみる」


 そう言ってミシャオナは周りに注意しながら輸送船へと向かうのだった。



 * * *



 カルバの空港には大気圏外まで航行できる輸送船が離発着していた。

 それらの輸送船はメグライトを地球へまで運搬する事を目的としたもので、大きい機体はゆうに数百メートルある物もいる。


 ミシャオナはそんな貨物船に忍び込んでいた。



『よかった、この船はシステムが生きている。この私でも簡単にハッキングできる程度だから指示した通りコックピットを目指して』


「うん、でも宇宙船って初めて入ったけどこんな風になっているんだ……」


 貨物船は宇宙船でもある。

 通路は可能な限り凹凸を減らし、通行の妨げになるモノは壁に埋め込まれている。

 

 重力のある場所では通路を示す足元の常夜灯のような物が光っているが、宇宙空間に行けば上下左右、何処も基準となるものが無くなる。

 なので船内移動は原則通路を蹴って進行方向へと飛んで行く形になる。

 故に通路はシンプルな形になるのだ。

   


『あっちね』


 レーメルに指示されてミシャオナは長い通路を歩いて行く。

 程無くエレベーターがあってそれに乗り込むと短い踊り場があってその先に扉があった。


 レーメルにロック解除してもらいその扉を開く。


 するとそこはそこそこの広さのコックピットになっていた。

 席が全部で七つほどある部屋は船長席の後ろあたりにあるその扉からその全貌が見て取れる。

 コンソールは点滅しているので電源は入っている様だ。



『やったわね、これなら通信機器も使えそうね。ミシャオナ、通信席に行って』


「通信席って、どれよ?」



 素人に貨物船のコックピットに通信席と言ってもすぐには分からない。

 レーメルは船長席の右前にある椅子とモニターが併用されている席を示す。


『右前のあの席。正面の壁が一面モニターになっている席よ』


 ミシャオナはそう言われその席に着く。


『この端末をそこの非接触ポートに置いて。この船の通信機を起動させるわ……』


 レーメルはそう言ってミシャオナはスマホの様な端末を非接触ポートに置くとすぐにハッキングを開始して通信を始める。


 そして正面のモニターにいきなりレーメルが現れた。



『ミシャオナ、無事!? よかった、大丈夫なようね……よくやったわ私』



『本体の私、一体何が起こっているの?』


『それは同調すればわかるわ。とにかく今そのカルバ空港はテロリストにより職員が惨殺されて軍隊が突入してテロリストと銃撃戦が行われているってことになっているわ。メディアも何も制限がかけられていて情報制御をされているけどね』


 レーメルはそう言ってスマホの様な端末の中の自分と同調する。

 そしてスマホのような端末の中のレーメルは大いに驚く。



『何よこれ!! カルバ空港の職員はほとんどがテロリストにより殺害された!? 火星総督府は軍の突入後ゴーストを制圧して特別輸送船をカルバの空港から発着させる? 行き先はUS経済圏?? メグライト五年分の提供をする…… 代わりにゴースト制圧に手を貸せ?? 何なのよこれっ!』



「レーメル、どう言うこと?」


『そっちの私にも信じがたいでしょけど、火星総督府は地球経済圏の連中と手を組んでゴースト退治に本腰を入れたようね。流石にUS経済圏、ゴーストの本体がいると思われる暗礁地帯をもう探り当てたか…… でもゼアスは本気よ。彼は本気で全人類をゴーストにすることを考えている。そして今いる人類を滅亡させることも……』


 通信画面のレーメルはそう言う。

 そしてスマホの様な端末のレーメルも。


『もしそれが本当なら連中の空港を襲った本当の理由って……』


『そうね、可能な限りメグライトを入手しようとしているのね。そっちの私、私の本体をそちらに転送できそうな容量の器はある?』


『探してみるわ。ミシャオナ手伝って』


 レーメルはそう言ってすぐに貨物船の荷物を検索する。


『あった! 大容量の外付け記憶媒体。これならば十分に私の本体を入れられる。ミシャオナ、貨物庫のB-二十九番ボックスの中にある外付け記憶媒体を取って来て! アタッシュケース型だからバッテリーも十分、私の本体をそこへ転送するわ』


「レーメルの本体を? 分かった、貨物庫のB-の二十九番ね!」




 ミシャオナは頷きスマホの様な端末を手に取りすぐにコックピットを後にするのだった。


    

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