第9話:軍隊
ミシャオナたちは犯罪組織オリビヤの操るセキュリティーロボットに占拠されたカルバ空港にいた。
「レーメル、それでどうやって逃げ出すの?」
『地下鉄はダメね、そうなるとバイパスに出て逃げるしかないけど防護服はある?』
ミシャオナはスマホの様な端末の画面向こうのレーメルに聞く。
そしてレーメルの質問に答える。
「うん、ここに来るまでにエレキスクーターで来たからスタッフゲートに防護服は置いてある。でも、そこに行くには……」
レーメルが表示した画面には丁度その付近で捕まっているスタッフがいる場所を通らなければならない。
「それに他の人も助けられないかな?」
『それは難しいわね。私が乗っ取れるセキュリティーロボットだってもう難しいわ。あっちもさっきの私の手口はもうわかっているだろうし』
レーメルはゴーストたちが使っている回線に紛れ込んでここへ通信を行っている。
同じ回線を使っているから気をつけなければミシャオナのジャミングをかけている端末も見つかってしまう。
なので先ほどの様な緊急のハッキングによる乗っ取りはもう使えない。
『とにかくミシャオナ、あなただけでもなんとか逃がすわ』
レーメルはそう言ってすぐに他のルートを検索する。
だが検索を始めてすぐに空港のセキュリティーにそれを妨害されてしまう。
『はっはぁーっ! まだこの空港でちょっかい出していやがったか!! てめぇ何者だ? 俺たちゴーストを出し抜くなんざ相当のハッカーか何かだろう? しかし残念だったな、もう空港のシステムは俺らが押さえた! 大人しくさっきの女と一緒に出て来やがれ! えーと、ミシャオナ=ハイマーとか言う女か? なんだ最近空港で働き始めた新人か? まあいい、大人しく出て来やがれ!!』
いきなり館内放送であのセキュリティーロボットを操っていた男の声がする。
それを聞いたレーメルは舌打ちをした。
『ちっ、空港のシステムがハッキングされてあいつらの手中に落ちた。私の操作を空港のシステムが拒んでいる?』
「レ、レーメルどうしよう? このままじゃ私たちも捕まっちゃうよ……」
スマホのような端末を両手で抱えあわあわと画面の中のレーメルに言うミシャオナ。
しかしレーメルは落ち着いた様子でミシャオナに言う。
『空港のシステムは防壁を閉じられても緊急用の勝手口は手動で動かせる。問題はあいつらのセキュリティーロボットよ。それさえ回避して防護服を手に入れられれば空港から逃げ出せるわ』
「いや、あのセキュリティーロボットを回避ったって、対人センサーを持っているのをどうやって回避しろと?」
警察も使用するほどのセキュリティーロボット。
当然犯罪者などの追尾機能も備えている。
サンプルがあれば警察犬のように臭いで追尾する事も出来るほどだ。
『とにかくこうなったら別ルートを使うわよ。さっきの荷受け室の方へ戻って。そこから貨物の発着場へ。あそこなら外壁の外へつながっているはず。近くには緊急用の防護服もあるはずだからそこへ行きましょう。それとミシャオナ、近くのタブレットか何かを手に入れて。出来るだけ容量のでかいやつ。私をそれにコピーするわ』
「そんな事出来るの?」
『本体はこことは別の場所であいつ等の通信回線に紛れてここへアクセスしてるけど、これ以上回線を使うと私の事がばれて本体が捕まってしまう。最低限の私をコピーしてあなたをフォローするわ!』
ミシャオナはレーメルにそう言われ近くのタブレット端末を探す。
そして先ほどの事務室に戻り、タブレットタイプの端末を見つけ出す。
『よしっ、これなら使える。無線も同調端子もある。ミシャオナ、この端末を近づけて!』
レーメルにそう言われミシャオナはタブレットにスマホの様な端末を近づけるとすぐにタブレットが起動して画面が変わる。
そしてしばし画面いっぱいに高速に文字列が表示されたかと思うと、再起動が始まり全く見た事の無いオペレーションシステムが立ち上がりいきなりレーメルが現れた。
『うん、何とか最低限の私がコピー出来た。システムも書き換えて最適化できたしバッテリーも十分ね!』
『よし、じゃあ私は他の回線を探し当て外からサポートするわ、任せたわよ私!』
『ええ、ミシャオナは私が何が何でも守るわ!』
タブレットっとスマホの様な端子から二人のレーメルがそう言ってスマホのような端末のレーメルが消える。
「レーメルが二人!?」
『あっちの本体の私は今他の回線を探しているわ。これでこのタブレットの私だけになってしまうけど、あんな若造には負けないわ! ゴースト歴十五年の年季の違いってのを見せてやるわ!!』
「あの、レーメルってそうすると合計で三十二歳?」
『それは言わないの! 永遠の十七歳よ!』
思わず突っ込みを入れてしまったミシャオナにしっかりと答えるレーメルだった。
* * *
「ううぅ、やっぱりあんなにセキュリティーロボットがいる……」
『うーん、流石にここを抜けないと貨物の発着場へは行けないか。どうする? ん??』
タブレットのレーメル言われて近くの端末から一部システムの乗っ取り監視カメラで荷受け室と貨物の発着場を映し出していた。
しかし貨物の発着場へ行く前の広場に職員の一部が捕まっており、そこには数体のセキュリティーロボットがいた。
数名の職員はセキュリティーロボットの拘束具で縛られ身動きが取れない様になっている。
そんな様子を画面で見ていたミシャオナとレーメルだったがレーメルが何かに気付いた。
『あれはボトムね? 宇宙空間での作業が出来る機動スーツ』
「ボトム? それってあの大型ロボット?? なんで空港にそんなものが有るの??」
ボトムとは宇宙空間で作業などを行う為の乗り込むタイプのロボットを指す。
宇宙空間での宇宙服での作業は非常に危険を伴う。
真空中を無重力で浮遊している物体は、慣性の法則をそのままに物によっては超高速で回転している物もある。
そんな物体が宇宙服に接触すればすぐに破けて穴が開いてしまう。
また、音の無い空間でいきなり現れた小型な隕石などはマッハを超えるスピードで襲ってくる場合がある。
なので通常は約四メートルから五メートルくらいの外装が頑丈な人型機動スーツに乗り込み船外活動を行う事が多い。
『この空港は直接大気圏外にいける機体があるのよ。ミシャオナ、あれを奪うわよ! あれには船外活動で飛来物迎撃用の装備もあるはず。それならセキュリティーロボットなんて目じゃないわ。それにあれはシステムの影響を受けない、完全自立型だから人間で無ければ動かせない、奴らもあれは操れないわ!』
「えー、私ボトムなんて運転できないよ!?」
『大丈夫、その為に私がサポートするんだから、行くわよミシャオナ!』
レーメルにそう言われミシャオナは渋々指示された通路からダクトの排気口を外して通風孔へと入って行く。
そしてレーメルのサポートの元通風孔の各センサーをかいくぐりとうとうスタッフたちが捕まっていた広場の上まで来る。
「レーメル、あそこ。スタッフの人たちが捕らえられている」
『ここには全部で五体のセキュリティーロボットか…… 操作はあいつ一人みたいだから指示コマンドによる自動運転みたいね…… だったら!』
ミシャオナの持つタブレットからレーメルは空港のシステムの一部にアクセスしてそれをハッキングして乗っ取る。
そして消火設備を稼働させ消火液を部屋にばらまかせる。
ぶしゅーっ!
いきなり消火液の泡が吹き出し流石にセキュリティーロボットも慌てて周りを警戒する。
その隙にレーメルはミシャオナに指示をする。
『ミシャオナ、今すぐあのボトムに向かって飛び降りて!』
「ぅえぇっ!? この高さから!?」
『大丈夫、あなた骨と筋力の増強剤はちゃんと摂取しているでしょ? だったらこの高さから飛び降りても大丈夫!』
火星の重力は地球の約三分の一。
つまり引力も地球の約三分の一である。
流石に月のようにふよふよとはならないも、十五メートルの高さから飛び降りても死ぬ事は無い。
但し着地と同時にかなり足がしびれる覚悟は必要だが。
『初速が遅ければ質量が軽いほどその衝撃は低いわ。あなたの体重なら大丈夫』
「なんでレーメルが私の体重知ってるのよぉ! もう、こうなったらっ!!」
文句を言いながらもミシャオナは排気口の網を取り外し一気にボトムに向かって飛び降りる。
下ではセキュリティーロボットが周囲に赤外線センサーの赤い光を当てて警戒をしているが頭上を少女が通過しているとは思ってもいないのだろう。
思わず叫びたくなるのを口を手で押さえてぐっとこらえ飛び降りたミシャオナは目的通りボトムの上に降り立つ。
だんっ!
「くぅ~っ!!」
着地と同時に可能な限りその質量の運動ベクトルを分散させるためにしゃがんで手を着き受け身を取るミシャオナだったが足がしびれるのは避ける事が出来なかった。
『よっし! ミシャオナすぐに乗り込んで!』
レーメルはすぐに外部から信号を送り鍵を開け扉を開かせる。
この位の信号はレーメルにしてみればすぐに解析できるのでエレキカーの鍵を開けるのと同じくらい簡単だ。
ぎぎっ!
ミシャオナの着地音に反応したセキュリティーロボットが一斉にその赤い光をこちらに向ける。
ミシャオナは慌てて開かれた扉の中に入り込むとすぐに銃声音と共に扉に弾が当たる音がする。
バンバンっ!
ガンガガンっ!!
「うひゃぁっ!!」
『扉を閉めるわ! アクセス、システム書き換え!! よっし、起動!!』
乗り込むと同時にタブレットのレーメルはボトムのシステムにアクセスしてそれを一瞬で書き換え、ボトムを起動させる。
途端に正面のモニターが明るくなり外の状況を表示する。
『セット! ミシャオナ、カーソルをあいつらに合わせスイッチを押して!!』
「え、ええぇっ!? こ、こうっ!?」
シートに座ったのもつかの間、ミシャオナは操縦桿を画面正面に表示されたロックポイントにカーソルを合わせボタンを押す。
するとすぐにボトムはそれに反応して飛来物迎撃用のレーザーを発射する。
ビュっ!
ビュビュビュっ!!
じゅっ!
じゅじゅじゅっ!!
カーソルを操縦桿で合わせてロックされたポイントが赤くなるたびにボタンを押したミシャオナが見たものは一瞬で胸部に穴が開いて倒れるセキュリティーロボットたちだった。
『よし、殲滅完了!!』
「す、すごい。あの一瞬で五体全部やっつけちゃった……」
『流石にボトムね。宇宙空間での機動スーツと言うだけの事はあるわ。セキュリティーロボットの弾なんてかすり傷にすらならない』
既にボトムのシステムを完全に乗っ取ったレーメルはタブレットだけではなく自分を通信用の画面に写しだしていた。
『容量は少ないけど、タブレットの私と連動して使えば何とかなるか。でも最終判断や指示はやっぱり人間でないとできないか。ミシャオナがいなかったやっぱり使えなかった。さあ、これで空港を脱出できるわよ!』
「ちょっと待って、スタッフの人も……」
ミシャオナがそう言いかけた時だった。
ボンっ!!
いきなり爆発音が貨物の発着場の方から音がした。
そして空気が抜け出してゆく。
「なっ、何が起こったの!?」
『貨物発着場の外壁が爆破されたわ! 空気が抜ける、ミシャオナ!!』
「スタッフのみんなが!!」
慌てて隔離壁の近くにまで行って閉めようとするもまた爆発音がして一気に室内の空気が外へ抜け出してゆく。
そしてスタッフたちは目玉を飛び出させ体を膨らませその場で倒れる。
「そんな!」
『なっ、あれは火星軍のボトム……』
ミシャオナはレーメルのその言葉に画面に映し出された火星軍のボトムの姿を見るのだった。
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