第8話:動乱
アルメン総督は苦虫をかみつぶしたような表情だった。
「最新の情報が入りました。やはり各空港で同時テロが起こっております。それとセキュリティーロボットを生産している工場も何者かによる占拠がされてしまい、職員たちとの連絡が一切つきません」
秘書のその報告に更に苦虫をかみつぶした様な顔をするアルメン総督。
しかし事は一刻の猶予も無くなっていた。
「総督、このままでは埒が明きません。軍の突入許可を」
そう提言するのは秘書と一緒に来ていたジーグ大佐だった。
アルメン提督はそちらをちらりと見て言う。
「今回は大勢の民間人もいる場所だぞ? 前回の様な失敗はもう繰りかえす事は出来んのだぞ!?」
ドンッ!
そう言いながら机を拳で叩く。
その剣幕に流石にジーグ大佐も黙ってしまう。
現状はセキュリティーロボットを生産している工場が何者かによって完全占拠され、そのセキュリティーロボットによって工場自体が閉鎖されている。
下手に近づこうものなら発砲をしてくるので簡単には近づけない。
更に警察が使っているセキュリティーロボットも工場に近づくとハッキングを喰らってしまって相手側の駒となってしまうのでさらに手が付けられない。
そして火星にある四つの空港も同時にテロが起こっているとの報告だ。
目撃情報では工場と同じくセキュリティーロボットが大量に動き出し空港の主要部分を占拠し始めていると言う。
「これも奴等の仕業なのか?」
「犯行声明はまだ出ていませんが、実行犯となる人物が監視カメラに一人も映っておりません。実際に動いているのは乗っ取られたセキュリティーロボットだけです」
秘書のその報告を聞いてアルメン提督はもう一度机を叩く。
「くそっ! ゴーストなどただの噂だったはず、バグ風情になぜこうも好き勝手にされ
る!! 奴らの本体がある場所の特定はまだできんのか!?」
「提督、それですが軍の調査では全て通信による中継点しか見つからず、そこを押さえても次々と他の中継点から……」
「提督、今入った情報です」
ジーグ大佐がしどろもどろと事の経過の報告をしていると秘書がバインダーに何やら動画を表示して手渡してきた。
それを受け取りアルメン提督は思わず椅子から立ち上がる。
『諸君、久しぶりだ。私はオリビヤのゼアス。現在空港とセキュリティーロボットの工場は我々オリビヤが占拠した。君たち火星の住民は大人しく我々の指示に従ってほしい』
「くそーっ! この通信は何処から出ている!? 早く奴等を何とかせんかぁっ!!」
表示された画面を見ながらアルメン提督は三度目の拳を机にたたきつける。
流石に三度目とあって重力の低い火星でも机の上の物が転げ落ちる。
「犯行声明が出てしまいました。提督、以前お話したようにするのがよろしいかと。ご決断を」
「決断? 地球に増援要請をしろと言うのか!? そんな事をしたら火星の自治権は無くなってしまうぞ!!」
アルメン総督はそう言いながら犯行声明を流しているバインダーを片手でつかみ手をぱんぱんと叩く。
「総督、ですので軍の突入の許可を!」
「大佐、いくら末端を押さえても大元を絶たなければ意味がありませんよ? 発信源の特定が出来ないのであれば我々には打つ手立てが無い。鉱山の再開も出来ない状態では火星はどんどん干上がってしまいます。ここは地球側に増援を願うしかないでしょう」
ジーグ大佐はアルメン総督に軍の突入許可を取ろうとする。
しかし、秘書のその言葉にしかしアルメン総督は首を振る。
「それだけはならん。火星総督府が出来あがってメグライトを盾に今まで自治権を得ていた物を手放すと言う事は、何処かの経済圏の植民地に成り下がると言う事だぞ! そうなれば火星は……」
「しかし手立てが無い。総督、ご決断を」
秘書のその言葉に唸るアルメン総督。
しかしふとある事に気付く。
「今メグライトの残存量はどれほどだ?」
「確か採掘済の物は地球圏で使用する約五年分はあるはずですが」
それを聞いたアルメン総督はニヤリと笑う。
「ジーグ大佐、空港で一番人が少なくそして軌道上まで飛行が出来るのは何処だ?」
「軌道上ですか、そうなると三つ、その中で人が少ないのはカルバの空港かと」
それを聞いてからアルメン総督はゆっくりと腰を下ろす。
そして一旦目をつぶりそれから何かを決断したかのように目を見開き言う。
「すぐにUS経済圏と連絡を取れ。メグライトの五年分をくれてやる。取引だ、奴らゴーストの本体を探させろ。そしてカルバの空港をなにがなんでも奪還するんだ! 多少の犠牲は構わん。これは火星全体の運命を決める事なのだからな!!」
アルメン総督のその決断に秘書はため息を吐き、ジーグ大佐は見事な敬礼をするのだった。
* * * * *
―― カルバ空港 ――
火星には全部で四つの空港がある。
火星は地球の約三分の一の重力で大気は二酸化炭素を中心に有る。
なので航空機も飛行は可能だし重力圏を離脱できる機体も存在する。
そんな中大気圏を離脱できる機体がある空港は三つ。
その中で一番人員が少ないのがここカルバ空港だった。
「レーメル、なんか全ての通信機器が動かないけどなんでこの端末だけは動くの?」
『それは私が奴らと同じ通信網を使ってミシャオナの端末だけジャミングをかけて独自の信号の受発信を出来るようにしたのよ。だからこの回線はいくらゴーストでもそうそう見つけ出す事は出来ないわ』
レーメルの説明を聞きながらミシャオナはコンソールパネルを触るのをやめる。
そして事務所を出ようとした時だった。
部屋のモニターが勝手について目元をマスクで隠すあのゼアスの姿が映った。
『諸君、久しぶりだ。私はオリビヤのゼアス。現在空港とセキュリティーロボットの工場は我々オリビヤが占拠した。君たち火星の住民は大人しく我々の指示に従ってほしい』
「げっ! あのテロリストじゃない!?」
『ちっ、もう全部の空港まで押さえられたか。ミシャオナ、ここはダメだわ、逃げ出しましょう!』
レーメルにそう言われてミシャオナは事務所から抜け出す。
空港内を確認したレーメルの話では空港の主要部分はセキュリティーロボットに占拠され、職員は各場所へ集められている様だ。
『早く逃げ出さないとあいつら自分たちと同じくゴーストに成れって言い出すわよ。そうしたらおしまいよ』
「ゴーストに成れったって、確かマーシャルフルダイブだっけ? その機器が無ければゴーストにはなれないんじゃなかったっけ?」
『今は各人が体内挿入型端末やIDチップを埋め込んでいるでしょう? そこから個人のデーターなどを吸い上げてその後生体の活動を止める、つまり殺されるってことよ!』
現在の人類は産まれるとすぐに体にIDチップを埋め込まれる。
そして人によってはさらに便利さを追求して端末を体に埋め込み直接ネットやコンピューターにアクセスできるようになっていた。
なので現在は必ずしもマーシャルフルダイブシステムが必要とはならない。
それを聞いたミシャオナは頬に一筋の汗を流す。
「つまり、私としてのデーターを吸い上げられたら生身の身体は要済みって事……」
『そう言うことよ、急いでミシャオナ!』
レーメルにそう言われミシャオナは慌てて指示されたルートを進むのだった。
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