第6話:空港
「はぁ~、結局こんな仕事しかないかぁ」
ミシャオナはそうぼやきながら求人広告が張られた職業斡旋所の壁紙を眺めている。
あれからしばらくして戒厳令が解かれた。
ミシャオナは父親を亡くし、そして仕事場を失った。
全てを失いしばらく泣いて暮らしたがそれでも現実はそんな彼女に生きろと厳しい現実を突きつける。
「今どき残っている仕事と言ったらこんな所かぁ。でも働かないと酸素買えないし、ここならお給金は確かに良いもんね……」
募集要項を確認してミシャオナはカウンターへと向かう。
そして自分の経歴書が入ったメモリーを差し出しながら言う。
「ID番号二二九七〇九〇九二一三三、ミシャオナ=ハイマー十六歳、あそこの求人広告を見て来ました」
ミシャオナはメモリーをソケットに挿し込んで窓口のAIにそう言う。
現代では軽度の事務仕事は全てAIが窓口で対処している。
人が出来る仕事は機械やAIで判断の出来ない物に限る。
またはその責任判断が機械任せでは済まない物に限られる。
その中の一つに空港での仕事と言うモノがある。
勿論AIのサポートを受ける事にはなるが、その最終判断などは人が行う。
そしてそれには責任と言うモノが付きまとう。
万が一その判断がAIによる合理的過ぎる判断の場合はその結果が人命にかかったとしても止める手段が無くなってしまう。
その為そう言った部位では最終判断を人にゆだね、その結果責任を問う事が出来るようにされている。
『ID番号二二九七〇九〇九二一三三、ミシャオナ=ハイマー確認しました。希望される仕事は空港での荷受け作業ですね?』
「うん、それでお願い。現状失業中なのですぐにカリキュラムの受講は出来ます」
ミシャオナはAIにそう言ってメモリー内の失業証明を掲示する。
AIは瞬時にそれを確認してミシャオナの経歴と照合、犯罪歴や余罪なども確認して適合者であるかを判断する。
『ID番号二二九七〇九〇九二一三三、ミシャオナ=ハイマー、あなたを本業務の適合者と判断します。業務内容及び契約内容を掲示します。問題が無ければサインを。カリキュラムの学習期間は一週間とします。出勤はカリキュラム終了の翌日に港人事課へ出頭してください。不明な点はありますか?』
「いえ、ないわ。業務内容と契約書をちょうだい」
ミシャオナは画面に提示された内容を読んで行く。
そして最後にサインをタッチペンで入力して契約完了。
手持ちのメモリーにカリキュラムが送られてきて後は自宅でそれを見て業務に関わる勉強をすれば良いわけである。
『おめでとうございます。新しき職場で幸運を』
「ありがとう、それじゃ」
言いながらメモリーを引き抜き、この職業斡旋所を後にする。
『ミシャオナ、あなた空港の仕事をするつもり?』
「あ、レーメル。今大丈夫なの?」
ちょうど職業斡旋所を出た時にスマホのような端末からレーメルの声がした。
慌てて画面をのぞき込むと心配そうなレーメルの顔が映っていた。
『戒厳令も解除されたばかりだと言うのに……』
「うん、でも働かないと何時までも失業手当だけじゃジリ貧だしね。酸素買えなくなっちゃったら危ないもん」
『だからと言って空港の仕事だなんて……』
ミシャオナが選んだ仕事は空港の荷受けの仕事である。
荷受けと言ってもそれはそこそこ危険が伴う。
基本はAIによる判断となるが、最後にはそれを確認して受け取るのは人間がする仕事となる。
中には密輸の為に生きた希少動物が入っていたりするが、それの確認は人がする。
獰猛な某物の場合開けた瞬間襲われる事もある。
また危険な薬物や爆破物である場合もあるので、そ言った物も最終的には人間が実際に開けていて確認をする必要もある。
その結果、命を落とす場合もある。
なのであまり人気がある仕事とは言えない。
しかしその分給与は他の仕事より良い。
『荷受けなんてあなたに出来るの? 最近更に物騒になってるって聞くけど……』
「軍の貨物は軍用の空港だし、私の働く民間はそこまで危険じゃないよ。それにあの爆破事件で出来る仕事も限られちゃっているし、太陽光が入る農場関係は今かなり厳重になってしまっていて、いくら経験者でも新規の人は雇ってもらえないもんね」
現在の火星総督府は犯罪組織オリビヤとのイタチの追いかけっこをしている状態であった。
軍や総督府は躍起になって犯罪組織オリビヤを捕らえようとしているがことごとく失敗をしていると聞く。
そしてその犯罪組織も本当にゴーストだとささやかれていた。
「流石に何時までも戒厳令が出ていたら生活できなくなっちゃうもんね。やっと解除されてほっとしてるわよ。今は総督府に期待して私は明日のご飯と酸素を買うだけのお金を稼がなきゃだもんね」
『そう言いながらこの前無駄遣いしてたじゃないの、合成甘味料じゃない本物の果物なんか買って』
「うっ、あ、あれは景気づけよ! 何時までもうじうじしていられないじゃない、私は生きていかなきゃなんだもん……」
そう言うミシャオナはふっと息を吐く。
それを見ていたレーメルは同じく息を吐いて言う。
『そうね、まずはミシャオナが生きていけなきゃ話にならないもんね。じゃあこれあげる』
レーメルはそう言うとミシャオナのスマホのような端末にピローンと着信音がする。
なにかと思いミシャオナはそれを見るとレーメルからのギフトが届いていた。
「え? なになに??」
『開けて見なさいよ』
レーメルに言われそれを開けるとミシャオナの表情がぱぁっと明るくなる。
「これ、ケーキの引換券!? いいのこんな高価なギフト貰っちゃって!!!?」
『景気づけなんでしょ? だからケーキ』
「うわぁ、べたなギャグを!! でもありがとう……」
『仕事も新しく見つかったのだもの、私からのお祝いよ。ミシャオナ、頑張ってね……』
「うん、ありがと……」
ミシャオナはそう言ってスマホのような端末をぎゅっと両手に持ち胸に抱きしめる。
今はレーメルのその心遣いに感謝するのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「何でこうなったの……」
カリキュラムを受け、ミシャオナは翌日には空港の人事課に出頭していた。
軽い面接を受け問題が無いとされてサポートAIの端末のタブレットを渡されて早速指定された荷受けの仕事場へと向かった。
そして数日間サポートAIに助けられながら荷受けの仕事をこなしていた。
だが本日届いた特大の荷物を受け取り、その確認作業をしていた時だった。
サポートAIがいきなりおかしくなって、しきりに目の前の大きな荷物を理由なく通せと言っている。
AIの自動チェックで問題無いから通せと言われても流石に目視確認しない訳にはいかない。
なのでミシャオナはそのコンテナの解除コードを打ち込んで開封をして中身を見ようとしたら、開いた隙間からいきなり銃口が突きつけられていた。
「ななななななななな!!!?」
『ふう、だからあれ程開けずに通せと警告してやったのにな。大人しくしろ死にたくなければな!』
本来文字表示しかしないはずのサポートAIのタブレットから流ちょうな声がした。
そしてミシャオナはコンテナの中から出てきた人型セキュリティーロボットにその銃口を額にあてがわれながら人質になってしまった。
『他のサポートAIもハッキングは終わった。後はお前ら職員が大人しくしてくれれば良いだけだ。次のコンテナも開封する。我らオリビヤの実働部隊がいよいよ動き出す時が来たのだ!!』
そして唖然としているミシャオナは冒頭のつぶやきを発する。
『そうはさせないわよ!! ミシャオナっ!!!』
更に聞こえて来たその声は紛れもなくレーメルのものだったのだ。
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