第5話ロボとーちゃん

いつもと変わらないレンタカー営業所、いつものように電話が鳴る、営業時間が20時迄なので、とっても長い午後だ、いつもとは違う早いスピードで裏口のドアが開いて、洗車ましーん三井が室内に足を入れたと同時に喋りだした

「ネ、ネコ、ネコ、ネコがいた、」

「ビックリですよー、いきなり襲ってきてー」

「とにかく倉庫に来てください」

普段は無口な洗車ロボットが興奮している

「えっ、倉庫が何?よく分からないよ、ネコって、いつもいる野良猫のことか?」

説明する時間が勿体ないかのように、手招きで、早くおいで、おいで、のアクションをしながら

「急いで、早く来てくださいよ!ビックリですよー」

三井に急かされて事務所を出て倉庫へと歩きながら早口の説明を聞く

「倉庫にロープを取りに行ったら扉が空いてたんですよ、いつもの閉め忘れだと思って気にせず、中に入ったら、急に奥の暗闇からネコが、僕の顔の横を飛んでったんですよ」


倉庫といっても正方形の土地の駐車場の奥隅に、トラックのアルミ箱だけを置いてあるだけで、鍵など掛けないから開けっ放しのコンテナ箱にネコが、入ってしまったらしい。 


開きっぱなしの扉の前でロボット三井は明らかにビビっている、普段よりも声のトーンが高い

「中、見てくださいよ、ビックリですよ!


コンテナは中にはいると、外から見ている以上に長く感じる、扉からの太陽光だけでは、目が慣れるまでちょっと見えにくい、急に飛んできたネコに三井がビックリするのも無理はない、しかしこんてなの奥に居たネコの方がもっとビックリしただろう、

(さっきら、ビックリ、ビックリって、今日はビックリデーかよ、心の声が叫ぶ)

「何がビックリなんだよー、もうネコいないんだろう!」

コンテナの真ん中位まで来ると聞こえてきた

「ミャー、ミャー、ミャー」

小さく弱い声で奥から聞こえてくる

「三井!事務所からライト持って来い!」

焦って早口になる僕に対し、三井は冷静な口調で

「ありますよ、ハイッ」

ぼわーと電池の弱った非常等はオレンジ色の今にも消えそうな光を、手足をバタつかせているコネコを映し出した。

「おかしいな、最初親猫に襲われた時は、もっと何匹も泣いてたんだけどなー、一匹しかいないやー」

三井はまだ、親猫に襲われたと思っている、ライトの明かりでコンテナ内の様子が分かるようになった三井は、一匹残ったコネコを慣れない手付きで鷲掴みにすると、自分の胸に押し付けて、両手で落ちないように抱きかかえている。

抱き方を知らないロボットが初めて赤ちゃんネコに触った瞬間だ、

「親猫が三井を襲った後に他のコネコを運んで、まだ近くに居るか、見てんじゃねーかー」

第一発見者である三井少年は、コンテナから外へ出ようとすると、急に大きな声を出し、

「オラ! オシ! ネコ!」

自動車の間を通り抜けながら、タイヤを蹴飛ばして

「ボン! ボン!」

「ウリャ! ネコ! オリャ! 」

ロボット三井はビビって、大きい音と声で威嚇している、弱いロボットだ。


事務所の中では

「ミャー、ミャー、ニャー、ニャー」

か細い声でコネコが泣いている、生まれてさほど時間は経ってないようで、目も空いてなく体全体が濡れている。

「どーしたらいいのかなぁ?ミルク飲むかな?」

コネコの状態を見た所長は

「おみー、これは生まれたばかりだから、元に戻して親にかえせ!」

この言葉が17歳のロボット保護者三井のスイッチをオンにしてしまった

「親猫は周りに居ないし、コンテナの中に入れたら死んじゃいますよ!」

早口でプチエキサイトしてる17歳のロボとーちゃんは反論する

「にゃー、お前、どうせ俺たちじゃ育てられないぞ」

三井はタヌキ所長を睨むだけだ、言葉が出ない

「好きにしてみー」

タヌキのお許しというか、〈かわいい子には旅をさせろ〉的なOKである。


大学の授業が終わってやって来た石田君が〈コネコどうにかし隊〉に加わって、あれや、これや話して、牛乳を飲ませることになった。

1リットルの牛乳パックを買ってきた石田君は、17歳の少年に突っ込まれている

「石田のおじさん! こんなでかいパック要らないよ、小さいので良いのにー」

20歳を過ぎたばかりだが、老けて見える石田君は、自分が "おじさん" と呼ばれるのには抵抗はなく、むしろ喜んでいる感があり、それを分かっている三井は

「石田のおじさん、コネコがこんなに飲むわけないじゃん!やっぱり石田のおじさんだよぉ」

「だって、小さいのよりか、大きい方が……………………」

最後は聞き取れなくなり終わってしまう、ボソボソと何か言っているが、いつものことである

「ペットショップへ電話して聞いてみよう!」

石田君が、名誉挽回と、早速電話して何やらアドバイスをもらっている。

話によると目が開いていないのは、本来親猫が舐めて目ヤニを取ってやり、それからがミルクらしい、〈コネコどうにかし隊〉の二人は流し台の布巾を電気ポットのお湯で湿らせ、コネコの目ヤニを取ってあげている、僕は電話を受けたり、来客対応したり、仕事をしながらで、どうやら、〈コネコどうにかし隊〉のメンバーとしては認められていないみたいだ。

「目が開いて来たぞ!よーしもう片方だ!」

「次はミルクだ」

どうもミルクを飲まないらしい、石田のおじさんは再びペットショップへ電話して、申し訳無さそうに聞いている

「普通の牛乳じゃ、駄目だってさ、ネコ用の成分の濃いミルクじやないとだめだってぇー」

若い二人にとって仕事場を離れ、自腹でペット用のミルクを買いに行く事は難しく、考えてしまっている。


いつもの長い午後はネコ騒動で、あっという間に閉店の時間になっていた

「おみー、ネコ どーすんだ?」

所長が 〈コネコどうにかし隊〉の隊長の三井に聞く、

返答に困るのを分かっている所長は、すぐさま

「俺が持って帰って行く、それでいいか?」

事務所の鍵を閉めた後、コネコは10年物のレンタカー上がりのトランクに放り込まれて、千葉の柏迄、連行されてしまった。

翌日コネコの様子が気になる三井が、タヌキ所長に尋ねると

「トランク開けたら、ビューって飛び出して、いなくなっちまったよー、やっぱり親の血、引いてんだなー、ニャハハー」

悪びれた様子もなくあり得ない事をサラッと言うタヌキ所長、計画的タヌキの親心的犯行であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕のレンタカー物語 @motimot1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る