第4話サーカスの熊

今週末も小島さんの名前で予約が入っている。

いつも一番小さい車のマーチを借りに来る人だ、とっても太っていて、お腹に双子の赤ちゃんが、いるのではないかと思う位のお腹の40歳位の大柄な人である、初めて見た時は、その大きさに威圧されてしまい、怖い人と、思ってしまったが、意外と礼儀正しい人であった。

大きなお腹で、小さな車に座るとお腹がハンドルに当たってしまうので、背もたれを後ろに倒し、反っくり返る、マニュアルギアではお腹が邪魔して腕が動かないので、オートマ車での出発だ、

「所長、小島さん最近よくきますねえ、何の仕事してるんですかねー」

「知らにーなー、金払いの良いお客って、職業だろ」


いつも徒歩で来店する小島さんが、ある日の週末、原付きスクーターで来た。

まるでサーカスの熊が曲芸自転車に乗っているかの様で、僕は いらっしゃいませ やこんにちは ではなく、

「あ、」

と、しか言うことが出来なかった、サーカスの熊はスクーターにまたがったまま

「バイク、置かしてくれる?」

と、人間の言葉で言っている

「ハ、ハイ!ど、どうぞ」

ハーフキャップを被った熊が話しかけてきた、あせってしまった、それからは毎週末の決まりのように熊のスクーターがやって来た。週末の夜出発して翌日には返却、帰れない時には無断で延長して帰って来る、礼儀正しい小島さんが、何故だろうと思ったが、皆気にもしなかった。

マーチはスモールクラスで人気なのだが、次の予約が入っても代わりの車がいっぱいあるので大丈夫、日曜日の夜は帰って来た車で車庫が満杯で、奥スペースに困るので、延長してもらうのは、歓迎なのだ。

月曜日は返却された車で車庫が満杯、身動きが取れないので、時期が早くても定期点検に整備工場へ持っていき台数を減らす。


「あー、やっと駐車場の中でUターン出来る位になったー」

人間洗車ましーん三井が嘆くと、タイミングを見計らったかのように小島さんを乗せたマーチが帰ってきた、

「お帰りなさい」

三井は、やっとスペースので来た、駐車場の真ん中に遠慮も無く止まったマーチわ早く移動させたくて、ドアを開けてあげ、早く降りろと言わんばかりの早口で

「忘れ物はないですか、事務所の方へどうぞ」

と、洗車ましーんの割に人間的なことを言っている

小島さんはシートベルトわ億劫そうにやっと外し、足を車の外へ出すと、ハンドルからお腹を除けて体を滑らせ社外な出た、体操選手のフィニッシュのポーズの様に直立してお腹わ前に突き出している。


「延長料金7500円です」

ハンバーガー級の厚みのある黒い長財布を開き、お札の詰め込まれた中から、支払ってくれた、

「遅くなって悪かったね」

気持ちの良い払い方である、大抵の延長客は

「道路が混んでいて………」等の理由を述べてから、恐る恐る金額を尋ねてくるからだ。

週末に小島さんが久しく来ていない、

「所長、小島さん最近来ないですねー」

「人間、金の切れ目が、縁の切れ目だからにゃー」

タヌキ所長の良く使う言葉である、今迄数多くの金銭トラブルを見てきたらしく、ことあるごとに使うフレーズになっている、僕はまた始まっちまったよーと、思いながらも、感心して聴くふりをする。

その後、常習の空き巣泥棒で小島さんが、捕まった事を知った、黒装束のサーカスの熊は、とうとう檻の中に入り、一方レンタカー屋のタヌキは自分の格言に益々自身を持ち

「な、俺の言ったとーりだろ、金の切れ目が縁の切れ目なんだにゃー、ニャハハー」

嬉しそうに笑っていた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る