205 お宅訪問……する前に

「ほら、あそこに見えるのが武器庫よう。槍とか弓矢なんかがたくさん置いてあるわあ。あっちが食料庫~。干し肉はしょっぱすぎるんだけどお、黒パンの固さは私の好みよん。で、ほら、あれが訓練所~、朝っぱらから訓練しててすっごいうるさいのよねえ」


 山岳を利用した要塞の中でも特に高台に位置する場所に、マリステルの家があるという。


 俺たちは坂を登りながら、そのつど要塞内の建物についてマリステルから説明を受けていた。気分的にはマリステルはバスガイドさん、俺と伊勢崎さんは観光客である。


「それでえ、そこに見えるのが兵士ちゃんの宿舎よ~。男女で部屋がキッチリ分かれてるって聞いたわあ。一緒にしたほうがいいと思うんだけど、マツナガはどう思う~?」


 そう言って指差したのは、今登っている坂の終着点にある二階建ての大きな建物。……ということは、その隣にある小さな小屋がトイレなのだろう。


 それならちょうどいい。俺はここで用を済ませておくことにした。


「マリステルさん。あの、ちょっとトイレに寄っていいですか?」


「え~。いいけどお、早く済ませてきてよねえ~」

「はひ、はひ……。い、行ってらっさいませえ旦那様ぁ……」


 不満げに唇を尖らせるマリステルと、坂ですっかり汗だくになった伊勢崎さん。彼女たちに見送られ、俺はトイレへと向かった。


 そうして木製のドアを開け、中に入ってサッとドアを閉める。


 薄暗く狭い室内に一人っきりになった俺は、便所として簡易的に造られたと思われる木の板の真ん中にぽっかりと空いた穴を見つめながら、おもむろにズボンに手をかける――ことはなく、


「――【次元転移テレポート】」


 その場から転移したのだった。


 ◇◇◇


 俺が【次元転移テレポート】で向かった先は、レヴィーリア様の居城内にあてがわれた俺の私室だ。


 もちろんお城のトイレじゃなきゃイヤだとか、そういうわけではない。


 急遽きゅうきょ要塞で一泊することになったわけだし、連絡をしておく必要があるのだ。それになんといっても相原を預けっぱなしだしね。泊まる前にアイツを先に日本に戻さないと。


 そうして俺が部屋に備え付けられたベルをチリンと鳴らすと、すぐさまホリーがやってきた。デキるメイドであることは知っているけれど、デキすぎてちょっと怖い。


「おかえりなさいませマツナガ様。……いえ、どうやらご帰宅というわけではなさそうですね。なにか問題でも起きたのでしょうか?」


 部屋に入るなりデキるメイドは瞬時に状況を察し、目を鋭く細めながら俺に帰還理由を尋ねる。


「ええ。実はいろいろあって、要塞で一泊することになりまして。それで相原を先に日本に戻すために一旦戻ってきました。すみませんが相原を――」


 呼んできてくれませんかと言う前に、ドタバタと外から足音が聞こえ、相原とコリンが同時に部屋に入ってきた。


「センパイおっかえりー! ……ってあれ? 聖奈ちゃんは?」


「ちょっと寄っただけだから俺しかいないよ。それでな、なんやかんやで要塞に一泊することになったんだが……ちょうどいいな。今からお前を日本に戻すから――」


「ええー!? ヤダヤダ、センパイたちが一泊するならウチだってお泊まりしたーい!」


「は? いやいや、要塞に連れてくとか無理だって」


「ナニ言ってるんすかセンパイ、さすがにそれくらいはわかってますって! お城で一泊したいなーって話っすよ! だから……ええと……ワタ、トマ……」


 そこで相原が一度ぼんやりと天井を見上げ、ぶつぶつとつぶやいたかと思うとホリーに顔を向け、


「ホリーサン、ワタシ、オシロ、トマル、トマリタイ、イイ?」


 となぜかカタコトで話し、それを聞いたホリーが目を丸くしながら答える。


「は、はい。もちろん構いませんよ」


「イイ? イイ! ヤッター! アリガトホリーサン!」


 と、相原がぴょんぴょんと飛び跳ねたところで、俺も違和感の正体に気づいた。


「あれ? お前ここの言葉……しゃべれるの?」


「うい! さすがにまだちょこっとだけですけどねー。コリンちゃんに町の中を案内してもらいながら、言葉を教えてもらったんすよ。……ねー、コリンちゃん!」


「ねー!」


 顔を見合わせて笑い合う相原とコリン。どうやら少し見ない間にかなり仲良くなったようだ。これがコミュ強というヤツか。


 ……いやしかし、コミュ強とはいえ半日足らずでカタコトであっても話せるようになるものなのかな? えっ、もしかして相原ってかなり優秀だったりする?


 などと相原の潜在能力に驚いていると、その相原が俺の前で両手を合わせておねだりのポーズ。


「ねっ、ねっ、センパイ。ホリーさんもいいって言ってるし、お城に泊まってもいいでしょ? ね?」


「そ、そうだな、それならお言葉に甘えさせてもらおうか……。あの、ホリーさん。今夜一晩、相原をお願いします」


「はい、お任せください」


 ホリーがこくりとうなずく。相原のコミュ強っぷりに思わず押されてしまった形だが、ホリーに任せておけばひとまず安心だろう。


「ありがとうございます。それでは、相手を待たせてるので俺はもう行きますね。……相原、なるべくご迷惑はかけないようにしろよ?」


「なるべくって、ソレ迷惑かける前提になってないっすか!? 大丈夫ですってセンパイ、それじゃまた明日~!」


 そうしてブンブンと手を振る相原に見送られながら、俺は再び要塞へとトンボ返りしたのだった。


――後書き――


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