201 前衛芸術
『ご近所JK伊勢崎さんは異世界帰りの大聖女2』8月17日、本日発売です!
――◇◇◇――
俺はすべてのゴーレムを視界に入れながら、意識を集中させ――
「【
標的の動きを止める魔法、【
この魔法は現状、生物には効果がなく無生物にしか使えない。なので空中に物を留めて手品をしているようにみせるしか使い道がなかったのだけれど、仮にゴーレムが無生物なら――
「うおっと」
【
「さすがにゴーレム全部となると、範囲が広すぎたかなあ……」
年甲斐もなく無茶をしてしまったようだが、大量の魔力を消費した分の見返りは欲しい。俺は祈る思いで前を見据える。そこには――
草原の中央、今にも動き出しそうな姿勢を保ちながら、大勢の黒いマネキンがピタリと静止している光景が広がっていた。
なんだか不気味な前衛芸術のオブジェのような光景だけれど、とにかくゴーレムたちに【
「よし、動かないなら今度こそ逃げられることはないよな。――異空網」
俺は異空網を発動させると、あちこちに散らばるゴーレムすべてを囲い込み漁の網のようにぐるりと囲い込んだ。
そうしてゴーレムたちを覆い尽くす巨大な異空網ドームが出来上がった。巨大なドームといってもさすがに東京ドームほどの大きさはなく、子供の頃に行った科学館のプラネタリウムドームくらいだけど。
後はこのドームを徐々に狭めていき、ゴーレムを一箇所に寄せ集めていく。
寄せ集めた後は押しつぶすだけ。
異空網を押し付けられ、大量のゴーレムは万力で締め上げられているかのようにメキメキと音を立てながら粉砕されていき――
――やがて最期はただの土くれの山だけが残ったのだった。
「とはいえ、これで本当に倒せたのかな……?」
ファンタジーによってはコアをつぶしたり刻まれた文字を削らないと復活するゴーレムもいるからね。
なので念のため、しばらく様子を窺ったのだが土くれからゴーレムが復活することはなかった。どうやら本当にゴーレムは
「ふうー……」
俺はいつの間にか流れた汗を拭い、大きく息を吐く。
ある程度の知性とスピードのある魔物の相手は大変だ。俺なんて、【
許されるのなら今すぐ日本に戻って身体を休めたいところだが、そうはいかない。
マリステルが囮をしてくれているスカーレットバードがまだ残っている。
俺が気合を入れ直しゴーレムの残骸に背を向ける。すると伊勢崎さんがこちらに駆け寄ってきていた。
「おじさまっ! もしかして今のは……【
「
「ふふっ、あの魔法を手品だなんていうの、おじさまくらいだと思いますよ。さすがはおじさまです!」
「そうかなあ? 実際、他の使い道はないんだけどね――っと、それよりもマリステルさんはどうなってるかな?」
「囮になって走っていったきりで、この辺りにはいません。このままスカーレットバードはマリステルに任せて、私たちは先に薬草を採っちゃいますか?」
「伊勢崎さん……?」
「冗談です」
じっとりとした目を向けた俺に真顔で返す伊勢崎さん。本当に冗談だと信じたいところだよ。
すると伊勢崎さんは自分のスカートのポケットを探り、押しボタンの付いた小物を取り出した。
「これはお婆様にいただいた防犯ブザーです。鳴らせばきっと、マリステルも気づくと思いますよ」
そう言って伊勢崎さんが防犯ブザーのボタンをポチッと押した。
ビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビ!!
防犯ブザーからけたたましい音が鳴り響くと、草原の遥か遠くからマリステルがこちらに向かって走ってきているのが見えた。
「ひいっひいっ、そっちは片付いたのお!? こっちはもう限界よお! 【
息も切れ切れに叫ぶマリステルは、美しく長い髪はボサボサ、セクシーなドレスはドロドロ。苦戦の跡が見て取れる。
「急ごう、伊勢崎さん」
「はいっ」
俺たちはマリステルに向かって急いで駆け出して――
「うわっ!?」
膝に力が入らず、俺は頭から地面に倒れ込んだ。
「旦那様! 大丈夫ですか!?」
「いたたたた。とりあえずは大丈夫だけど、身体に力が入らないな……。なんだかすごくダルい……」
起き上がろうとしても起き上がれない。さっき【
しゃがみ込んだ伊勢崎さんが、俺の顔を心配そうに見つめた。
「これは……魔力酔いの一種かもしれません。慣れない魔法で一気に魔力を放出したことで、急な刺激を受けた魔力器官が一時的に麻痺しているのでしょう。すぐに治ると思いますが――」
「ちょっとマツナガ! なにコケてんのよおおおお! 早く助けて! 死ぬ死ぬ死ぬ私死んじゃうううううううううう!」
必死の形相でマリステルがこちらに向かって走ってきている。
だが距離がまだ遠く、ここからだと異空壁は届かない。なにより頭がぼんやりしていて魔法の精神集中がうまくいかないのだ。もちろん今すぐ助けたいのだが――
マリステルの背後では、今まさに襲いかからんとするスカーレットバードの姿があった。
「キュルルルルルルルルッ!」
狩りの成功を確信したのか、スカーレットバードがどこか上機嫌な甲高い鳴き声を上げると、鋭いクチバシをマリステル目掛けて急降下を始めた。
背後を振り返ったマリステルが叫ぶ。
「最期に貫かれるのがオトコのアレじゃなくて魔物のクチバシだなんて絶対にいやあああああああああああああああああ!! 私の最期は腹上死って決めてるのよおおおおおおおおおおおおおおお!!」
などと酷い下ネタを叫ぶマリステルを、無表情な顔で眺めているのが伊勢崎さんだ。
伊勢崎さんはがっくりと肩を落としながら深いため息を吐いた。
「はあ~~~~……。……あの、旦那様、魔力をいただいてもよろしいでしょうか? 旦那様には魔力酔いの症状が出ていますが、魔力が枯渇したわけではありません。お身体に
「う、うん。それは構わないけど……」
「それではいただきますね」
伊勢崎さんが倒れたままの俺の手をキュッと握ると、マリステルが叫んだ。
「ちょっとおおおおおお! こっちが死にそうになってるのに、あんたたちなにイチャついてるのよおおおおおおお!」
だが伊勢崎さんは何も答えず、ただじっとマリステルのいる方角を眺めている。
「――チャンスは一度きり。レッド◯リーマーに槍を当てるように降下のタイミングを……」
ぼそぼそとつぶやく伊勢崎さん。レッド◯リーマーといえば高難易度で有名な某レトロゲームに出てくる赤い悪魔のことだ。その名前が聞こえたのは気のせいだろうか……?
まばたきひとつしない伊勢崎さんは、俺の手を握ってない方の手を挙手するようにスッと真上に挙げた。
その間にもスカーレットバードのくちばしが刻一刻とマリステルの背に迫ってきている。
「まだよ。まだ、まだ……。まだ――今っ!!」
不意に伊勢崎さんが手を振り下ろし、言葉を
「――【
ピシャアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
その瞬間、俺たちの目の前が真っ白に染まり、耳をつんざく雷鳴が辺り一面に轟いたのだった。
――後書き――
『ご近所JK伊勢崎さんは異世界帰りの大聖女2』8月17日、本日発売です!
近況ノートに2巻の詳細を記載しました。
今回もえいひ先生の素敵イラストはもちろん、僕の方でも追加エピソードをがんばりましたので、WEB版を読んだ方でも楽しめる内容となっております!
https://kakuyomu.jp/users/fukami040/news/16818093083082243355
続刊のためにもぜひお買い求めくださいませ!よろしくお願いします!!!!!
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