193 マリステルとの再会

後書きにお知らせがあります。

――


 よろめいて壁に手をついたマリステルだが、なぜか俺を見て訳知り顔でにんまりと笑みを浮かべた。


「ふうん、なるほどお~。マツナガったら、久々に私に会って照れちゃったのね……?」


「いや、そんなことは全然――」


 やりすぎたとは思ったけれど、もちろん照れているわけではない。しかしマリステルは俺の話をさえぎり、さらに笑みを深くする。


「むふっ、そういうことなら許してあげる。とりあえず出すもの出してスッキリしちゃいましょ? そうすればマツナガもすぐに落ち着くわん。……あっ、ヒゲの人、ちょっと部屋から出ていってくれる? 私はいいけどマツナガが気にするかもだし」


「マ、マリステル殿、そうは申されましても……!」


 言葉を詰まらせながら、俺とマリステルの間で視線を行き来させるヒゲ隊長。


 その困り果てたヒゲ顔を見るに、普段からマリステルの扱いに苦労しているのだろう。なんだか申し訳ない。


 するとそこで俺の視界に銀髪の後ろ姿が入り込んできた。伊勢崎さんだ。伊勢崎さんはマリステルを真正面に見据えながら怒りに満ちた声で言い放つ。


「マリステル……。あなた、また痛い目に遭わなければわからないのかしら?」


「あらっ!? なんだイセザキもいたのね。ちょうどよかった、あんたに言いたいことがあったのよお!」


 伊勢崎さんの登場に驚いて目を見開くマリステル。どうやら俺しか目に映っていなかったようで、伊勢崎さんに気づいていなかったらしい。


「……言いたいこと?」


「そうよう! ねえイセザキ、あんた本当に――あ、あっ……」


 硬い声で返した伊勢崎さんに、なぜかマリステルは言葉に詰まりながら身体を震わせる。その様子に伊勢崎さんが眉をひそめて警戒した次の瞬間――


「――ありがとうっ!!」


「うぎゃあっ!」


 感謝の言葉と共にマリステルは伊勢崎さんをぎゅうっと抱きしめ、抱きつかれた伊勢崎さんがあられもない悲鳴を上げた。えっ、どういうこと!?


「ちょっ、やめ、離れて、離れなさい!」


「いやよお! これは感謝の気持ちなのよお! ほら、首輪も反応してないでしょ? 私の素直な気持ち、ありがたく受け取りなさいな。仕方ないわね、特別にキスくらいなら許してあげるわ、ん~~♡」


「くっ、このっ、やったら殺す! 絶対に殺す! 私の初めては――うぎぎぎぎぎぎぎ~!」


 唇を押し付けようとするマリステルを、両腕でなんとかふんばりながら押しとどめる伊勢崎さん。


 顔を真っ赤にして全力を振り絞っている伊勢崎さんだが、彼女の身体能力が残念なのは周知の事実。


 このままでは本当に唇を奪われてしまいそうだ。一見じゃれあって微笑ましくも見えるが、さすがに不同意わいせつは見過ごせない。


「はいはい、そこまで。少し落ち着いて」


 俺は異空糸をマリステルの胴と腕に絡ませ、伊勢崎さんから引き剥がしてやった。


「はあ、はあ、ひい、はあ~~~~。あ、ありがとうございます旦那様。……それで、マリステル。あなた一体どういうつもり!?」


 乱れた髪を整えながら、汗だくの伊勢崎さんが気味の悪いものを見るような目をマリステルに向ける。


 しかし逆にマリステルは今まで見せたことのないような満面の笑みを浮かべて言った。


「だってえ~、イセザキ、あんたなんでしょお? あの砦に『魔要塞マリステル』と名付けてくれたのは」


「そ、そうよ! 言っておくけど変更は絶対にしないから。ここまで名前が知れ渡ったら、もう寝返ることなんて絶対に無理よ。せいぜいあの要塞で身を粉にして働くことね」


 腕を組み、フンッと居丈高いたけだかに言い放つ伊勢崎さん。だかマリステルは気にする様子もなく、素直にうんうんっとうなずく。


「働く働く、働くわあ! だって私の名前がついてるのよう!? これってもう私のおうちみたいなものじゃない! ずうっと根無し草みたいな生活していたけれど、これで私も地に足をつけた生活ができるのよ! 本当にありがとねえイセザキ!」


 どうやらマリステルは要塞に自分の名前が付けられたことを思いのほか気に入ってしまったようだ。宿を借りていたつもりが自分の名前が入った表札が付いていた――みたいなものだろうか。


 死霊術は魔族からも評判もよくないという話は聞いていたし、もしかするとマリステルは思っていた以上に孤独な身の上だったのかもしれない。


「ぐっ、ぐぬっ……。そ、そうね! それならせいぜいしっかりと働きなさいっ!」


 腕を組んだまま伊勢崎さんがぷいっと顔を逸らす。


 伊勢崎さん的にはほぼ嫌がらせだったのに、ここまで好意的に受け取られるのは想定外だったのだろう。顔をこわばらせながらも上から物申すのが精一杯の抵抗のようだ。


「だからしっかりやるって言ってるでしょお、しつこいわねえ。って、まあいいわ。ところであんたたち今日は何しに来たのよう? 私の要塞に遊びにきたっていうなら歓迎するわよん」


 すっかり我が家きどりで俺たちを招待するマリステル。たしかに要塞の様子も見に行きたいが、先にやりたいことがある。


「いや、実は魔石鉱山の辺りに薬草を採りに行く予定でして」


「ふうん、薬草? たしかにあの辺って、そういうのがたくさん生えていたわねえ~」


 楽しそうに肩を揺らしながらマリステルがつぶやく。ああ、この流れは――


「そういうこと! だからあなたに構っている暇はないの。ささ、旦那様。今すぐ行きましょう?」


 察した伊勢崎さんが俺の手を引き、そそくさと扉に向かおうとした。だが俺のもう片方の手をマリステルがむんずと掴む。


「待ちなさい。そういうことなら私が案内してあげるわよん」


「結構です。私と旦那様の二人で探すわ」


「一口で魔石鉱山周辺っていっても、あの辺ってすっごく広いわよお? だから魔力の匂いを感じることができる私がいたほうが、絶対にお得なんだから。それともイセザキ、あんたは大切な旦那様に無駄足を踏ませたいのかしら?」


「ぐ、ぐぬぬ……!」


 悔しそうに歯噛みする伊勢崎さんだが、たしかに薬草を探して延々とうろつくのは避けたいところだ。ここまで見ていた様子では伊勢崎さんとマリステルの間で、以前のように殺し合いまで発展することはなさそうだし――


「そういうことなら、マリステルさんに案内をお願いしていいですか?」


「もっちろん! それじゃさっそく行きましょうか。ルンルルン♪」


「マリステル! あなた旦那様に近づきすぎです!」


「いいじゃない減るものじゃなし。ふふっ、死体探し以外でお外を出歩くのも久しぶりだわ~」


 そうしてマリステルに手を引っ張られ、俺たちは部屋に外に出て――


「あ、あの。補給物資を……」


 ヒゲ隊長の一言で、すっかり忘れていた補給物資の件を思い出したのだった。


――後書き――


お待たせしました!


『ご近所JK伊勢崎さんは異世界帰りの大聖女』2巻が今年の8月17日(もう来月ですね!)に発売されます!


これもご購入いただいた読者の皆様方の応援あっての賜物です。本当にありがとうございます\(^o^)/


今回もえいひ先生の素敵イラストはもちろん、僕の方でも追加エピソードをがんばりました。WEB版を読んだ方でも楽しめる内容ですので、ぜひともご購入よろしくお願いいたします!


さらにもう一点! コミカライズ情報も解禁となりました!


『月刊コミック電撃大王』にて今年の秋頃に連載スタートとなります!


漫画を書いてくださるのは春乃えり先生です!

実は先月の電撃大王でもちらっと告知されていたので、ご存知の方もおられるかもしれませんね。


今後も情報解禁のお許しが出次第、いろいろと告知してまいりますのでよろしくお願いします!


書籍2巻の表紙については近況ノートに公開しましたので、ぜひこちらもご覧になってくださいませ\(^o^)/


https://kakuyomu.jp/users/fukami040/news/16818093080863816799


それでは今後とも『ご近所JK伊勢崎さんは異世界帰りの大聖女~そして俺は彼女専用の魔力供給おじさんとして、突如目覚めた時空魔法で地球と異世界を駆け巡る~』をよろしくお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る