190 採集場所

「ポーションの材料を自分で採ってくる……だって?」


「はい、そうです。もちろんお店で買うよりは手間がかかってしまいますが、その代わりに安く済ますこともできますよ」


「それはそのとおりだろうけどさ。……仮にだよ? 仮に材料を集めることができたとしても、今はポーション需要が高まってるみたいだし、ポーションを作ってくれる薬師さんを確保するのも大変なんじゃないかな」


「あら、おじさまったら。違いますよ? 材料を採ってきたら、もちろん自分で作るのです♪」


 伊勢崎さんは当然と言わんばかりに、ウインクをしながら人差し指をピンと立てた。なんとも自信満々である。


「ああ、なるほど。伊勢崎さんってポーションを作ったことがあったんだね。それなら心配いらないな」


「いいえ、私は作ったことはありません」


「……えっ?」


「ありませんけど、多分できると思います。だっておじさまも知ってのとおり、私はお料理が得意ですからね!」


 むふんと胸を張る伊勢崎さん。たしかに伊勢崎さんが大家さんに仕込まれた料理の腕は相当なものだけど――


「へー、料理とポーション作りってそんなに似てるんだ。めちゃラッキーじゃん。よかったねーセンパイ!」


 などと気安く言ったのは相原である。しかし料理の技術でポーションが作れるのなら、世界中のコックさんがみんなポーション職人だと思うよ。


 なによりポーションを作れる人材は薬師の中でも錬金術を修めたひと握りのエリートであり、それがポーションがお高い要因のひとつである。――という話をレジーラから聞いているのだ。


 とはいえ俺も専門外であることは間違いない。ここは無闇に否定はせず、異世界側の人間の意見を聞くべきだろう。


「あの、レヴィーリア様――」


「まあっ! ポーションもちょちょいのちょいで作ってしまわれるのですね! さすがはお姉さま! すごいですわっ!」


 俺が尋ねるより早く、レヴィーリア様が興奮気味に声を上げ、さすがですわさすがお姉さまですわと連呼した。どうやらレヴィーリア様は伊勢崎さんの主張を手放しで信頼しているようだ。この様子ではあまり彼女の意見は参考にならない気がする。


 というか、似たようなセリフを普段からよく聞かされているような気がするんだけど……。まあそれはともかく、もう少し現実的な意見を聞いてみたいところだ。


 レヴィーリア様を諦めた俺は、彼女の背後に立つホリーに視線を送ってみた。――のだが、すぐさま目をらされてしまった。


 どうやらホリーはノーコメントという立場らしい。ちなみにコリンはよくわからないみたいで、ただただニコニコしているよ。


 なるほど、とにかく今この場に俺の味方はひとりもいないことはよくわかった。


 料理の腕でポーション作成はどう考えてもおかしい気がするけれど、ここは空気を読んで無理やり納得することにしよう。それが俺がアラサーになるまでにつちかった処世術である。


「そ、そうかい、わかったよ。まあ仮に作れなかったとしても金策自体そこまで急ぐものでもないし、薬師さんの手が空くまで待っててもいい。材料を集めることに損はないよね」


「もうっ、作れますって言っているのに。おじさまのいじわる!」


 ぷうと頬を膨らます伊勢崎さんに苦笑しつつ、俺は話を進める。


「あはは、ごめんよ。……それでポーションの材料ってどの辺に生えているのかな?」


「このグランダの周辺の森にも生えていますよ。私も以前はこの町に住んでいたことがありますし、薬草の群生地くらいなら案内できると思います」


 するとそこでレヴィーリア様が口を挟んだ。


「お言葉ですがお姉さま? わたくし冒険者ギルドから様々な情報を伝えて聞いているのですが、最近は薬草の採集依頼がとても多いそうですの。ポーションの需要が増えれば原材料の需要も増えるのは当然のことですし、きっとこの町周辺の群生地はすでにソペソペ草も生えていないような状況かと思われますわ」


 ソペソペ草ってのはペンペン草みたいなモノなのだろうか。それはともかく、すぐさま伊勢崎さんが言葉を返す。


「それじゃあ領都はどうかしら? 領都の近くの森にも生えていると聞いたことがあるし、おじさまなら【次元転移テレポート】で跳べるから距離は関係ないわ」


「わたくしたちが思っている以上に、儲け話というのはあっという間に拡散されるものですわ。きっと今頃は領都でも同じように大勢の冒険者が薬草採集に取り組んでいるものかと存じます」


「だったら――あっ」


 伊勢崎さんがなにかに気づいたように目を見開いた。


「うん? 伊勢崎さん、どうかした?」


「い、いえっ、なんでもありませんっ! それならやっぱりグランダで! 私はグランダの生活が長いです。きっと私の知っている群生地には冒険者が知らない場所もあるでしょう、あるに決まってます。よし! そこに決まりですね!」


 早口でまくしたてる伊勢崎さん。その勢いに押されてうなずきそうになったその時、レヴィーリア様が得意げに腕を組みつつドヤ顔で言った。


「うふふっ、お姉さま? それよりも、もっといい場所がありますわ!」


「えっ、それはどこ――」


「ああっ、おじさま! 外のお庭に小鳥が集まってます! とてもかわいいですよ! 見に行きましょう! ほらっほらっ」


 なにやら窓の外を指差す伊勢崎さんだが、レヴィーリア様は得意げな顔を崩さず高らかに言い放った。


「それは、魔石鉱山の周辺ですわっ!!」


「ぬうううううううううううううん!!」


 レヴィーリア様の発言に、伊勢崎さんはなぜか頭を抱えてうめいたのだった。

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