185 次の金策
しばらくしてキャパオーバー状態から回復した相原に、俺と伊勢崎さんは異世界についてひと通りの説明をした。
事故後に異世界に転移した伊勢崎さんが、大聖女として活躍した話。そして暗殺された話。
暗殺の話を聞いたときには、相原は涙ぐみながら伊勢崎さんを気遣っていた。当の伊勢崎さんは以前俺にも言ったとおり、まったく気にしていない様子だったけどね。
それから俺が時空魔法に目覚めて異世界を行き来できるようになり、レヴィーリア様と知り合っていろいろと手助けをした話――
などなど、さすがに長い話になったので、食事を楽しみながらゆっくりと相原に語ってやった。高級料亭の刺し身やお吸い物に炊き込みご飯、大変美味でした。
そうしてすべてを聞き終わった相原は、はあ~~と長い息を吐き、熱いお茶をズズズとひと飲み。悟りきったような目をしながらぼんやりとつぶやいた。
「なんかもー魔法より、異世界の話の方がヤバみがすごいんすけど……。もしかしてセンパイと聖奈ちゃんでウチをからかったりは……してないっぽいかー。そっかーマジなのかー……」
俺たちの曇りなき
「ここまできて冗談を言っても仕方ないだろ? ぜんぶ本当の話だ。それで……どうだ相原。これで満足したか?」
その問いかけに相原は俺を真正面に見据え、ぺこりと頭を下げた。
「ういっす、めちゃ満足だし、お話してくれて感謝感激です。てかテンパってて後回しになってたけど、ナンパから助けてくれたのもマジであざます」
「まあそれは気にするな。俺もなんだかんだであの手の連中の対処は慣れてきてるし」
「その通りです。おじさまがあのような連中に遅れを取ることなんてあり得ませんからっ!」
そう言ってふんすと胸を張る伊勢崎さん。俺も異世界に行くまではチンピラに絡まれることなんてなかったんだけどな。それが不思議なもんだよ。
……というか、改めて思い返すと俺じゃなくてほぼ伊勢崎さんが絡まれてたような気が――いや、深く考えるのはよそう。
「とにかく、異世界じゃチンピラに絡まれるのも野盗に遭うのも魔物に襲われるのも日常茶飯事だよ。向こうはそういう世界だからな」
「えぇ……そんなにエンカウントするんすか。異世界めちゃくちゃヤバいじゃないすか。したらウチ……異世界を見学したいなーなんて思ってたんすけど……さすがにそれは無理っぽいですかねー? ……チラッ、チラッ」
物欲しそうな顔で俺を何度もチラ見する相原。
俺はてっきり相原のことだから連れてけ連れてけと大騒ぎするかとばかり思っていたんだけれど、意外なことにアピールは控えめだ。
おそらくナンパ集団から助け、言われるがままに疑問にも答えた俺に、これ以上の要求するのは
「いいぞ。今度の買い出しのときに異世界に連れて行ってやるよ」
「は? マジっすかセンパイ!?」
自分から尋ねておきながら、相原は信じられないものを見るような目を俺に向ける。
「なんだ、不服か? 本当は行きたくないっていうなら別にそれでいいけど」
「行く行く行く行きます! 絶対に行きますって! てかセンパイのことだし、クソ面倒くさがられると思ったんですけど! え、なんで連れて行ってくれるんすか!?」
「ん? そりゃあ、まあ、アレだ……」
「――へえ、なるほど。松永君は莉緒に何かやってほしいことがあるんだね?」
俺が言葉を濁していると、大家さんが刺し身に箸を伸ばしながら面白そうにニヤリと笑った。どうやら大家さんには俺の意図はお見通しらしい。
「そういうことです。さすがにタダってワケにはいかないですからね」
「えっ、センパイ!? ウチに何を要求する気なんすか……? もしかしてウチのカ、カラダとか……!?」
顔を赤くしながら自分の身体をぎゅっと抱きしめる相原。それを見て伊勢崎さんが軽いため息をつく。
「莉緒さん? おじさまはそのような対価は求めません。それは莉緒さんだってわかっているでしょう? ……あっ、でもそういうおじさまも素敵かも……」
「なんで聖奈ちゃんがもじもじしてんのさ……。てかわかってるって、いちおーお約束をやってみただけだよん。んでセンパイ、ウチは何をすればいいんすか?」
「ああ、お前には俺が異世界から仕入れた商品を、VIP病棟でタダで配ってきてほしいんだよ」
相原は重蔵氏のお見舞いでVIP病棟によく通うので、他の入院患者とも交流があると重蔵氏から聞いている。
VIPのご老人たちとは仲が良く、ちょっとしたアイドルなんだぞと孫自慢されたのだ。
「VIP病棟に住んでるオジジとかオババに? そんなのめちゃ楽だしヨユーだし、そんなんでいいんすかってカンジなんですけど……。センパイって、ジーチャンに肉を売る以外の金策を探し中って話でしたよね? これがその金策っていうならタダで配ってたら稼げないっすよ」
「いいんだよ、最初はタダで。そのうち大金を払っても手に入れたくなるからな」
「えっ、なんすかソレ! そのやり口……ヤバいクスリとかじゃないっすよね!? さすがにソレはダメっすよ? ウチも犯罪には手を染めたくないというか、センパイが悪の道に進むというならウチは身を
「アホか、ヤバいクスリなわけないだろ。……あ、いや。……ある意味ではヤバいのか……?」
俺が首をひねっていると、伊勢崎さんが「あっ」と声を上げ両手のひらを合わせた。
「ということは、おじさま。もしかして
「そうだよ、
「なるほど……。たしかにVIP病棟にはうってつけですね。さすがはおじさまです!」
「ちょっとちょっとー! なに二人だけで通じ合ってるんすか! ウチも混ぜてくださいよー!」
俺はやいやい騒ぎだした相原に、さっさと答えを言ってやることにする。
「……ポーションだよ。俺は異世界のポーションをお金持ちのご老人に売ろうと思ってるんだ」
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