112 おもてなし2
俺をベッドに押し倒したホリーは、そのまま俺に乗りかかり顔を寄せて耳元でささやく。
「……今だけは、私の主人はマツナガ様です。どうぞご自由にお楽しみくださいませ」
「ちょっ、ホリーさん!? 何をしてるんですか!」
「あっ……下半身もお清めしたほうがよろしかったでしょうか? ですがどうかお気にならさず、そのまま私をお汚しになってください。そのほうがきっとマツナガ様も楽しめますでしょう……?」
「いやいや、そうじゃなくて! これはもてなしの限度を超えていますよね!?」
「いいえ、これもご奉仕の
そう言ってホリーは体を起こすと、自分の胸にそっと手を添えた。俺の目に飛び込んできたのは、黒い下着が映える白い肌としなやかで引き締まった肉体。訓練や護衛でできたものだろうか、いくつかの古傷も見えた。
「傷だらけで色気もなく、殿方からするとお見苦しい身体かと思います……ですが頑丈なことだけは私の取り柄です。どのような無茶な遊びをしていただいても構いませんよ?」
いえいえ、あなたは十分に魅力的です――と反射的に答えそうになるのを、グッとこらえて声を出す。
「と、とにかく離れて……!」
これはアカン。これはよろしくない。
異世界の常識には詳しくないけれど、レヴィーリア様に気に入られただけの行商人である俺に、これはどう考えても過剰な接待である。そしてそんな甘い話には
俺はふわりと覆いかぶさってくるホリーを押しのけようとするのだが、彼女は俺の腕をまるで柳のように柔軟に受け流し、さらに俺の身体に絡みついてくる。
さすがは護衛がお仕事なだけあって、運動神経が俺とは段違い――なんて感心している場合じゃない。
ホリーは俺の腰にまたがったまま俺の内股をやさしくさすり、妖艶な笑みを浮かべた。
「ふふっ、なにを怖がっておられるのですか? もちろんイセザキ様に口外することはございません。それに私をお気に召されたのなら、今後もご奉仕させていただきます。ですからどうぞ私をかわいがってくださいませ……」
そうして再び俺に顔を寄せるホリー。柔肌の温かさと肌触り、ふわりと漂ってくる濃厚な女性の匂い――
そんな久方ぶりの感覚に、もうこの際好き勝手にやっちゃってもいいんじゃないか、そしてなにか面倒を押し付けられそうになったら地球に逃げてしまえばいいのでは?
――なんてことを一瞬考えたりもしたが、ホリーが口にしたからだろうか、ふと伊勢崎さんの顔が脳裏に浮かんだ。
そうだ。俺は伊勢崎さんの保護者として、彼女のお手本……に無職の俺はならないとは思うけど、せめて俺の格好の悪いところは見せたくないし、後ろめたいことはしたくない。
「異空壁っ……!」
俺はなんとか理性を振り絞り、ホリーめがけて異空壁を展開した。これで彼女を押し返すのだ。
だが突如現れた異空壁を前にして、ホリーは驚きに目を見開いたものの、するりと流れるように身体を回り込ませてあっさりと異空壁から逃れてしまう。
「あら、マツナガ様。不思議な魔法をお使いになるのですね。今のはアースドラゴンを倒したお力と関係があるのでしょうか……?」
余裕の笑みを崩さないホリー。不意打ちすらも
さすがにその辺のチンピラと同じようにはいかない。平面の異空壁を単純に動かすだけでは、ホリーの動きを封じられないだろう。
それなら――糸。糸ならばどうだろうか? 糸を巻き付かせてやれば、ホリーといえども逃れることは難しいのではないだろうか。
俺は目の前に展開されていた異空壁をまとめ上げて異空間に戻すと、今度は糸のように細く、長く、長く、長く――ひたすらに引き伸ばしてみた。
そうして出来上がったのは一本の黒い糸――異空糸だ。俺はさっそくそれをホリーの腕にまとわりつかせる。
「こ、これは……!?」
今度は異空壁ほど簡単にはいかないらしい。目の前で不自然にクネクネと動く異空糸を前にして、やっかいそうに身体をひねるホリー。
あくまで俺の身体からは離れずに、上半身だけを動かして逃れようとする姿にはプロ意識すら感じる。だが――
「くっ……!」
絡みつこうとする異空糸に追い詰められ、ホリーは鋭い手刀を振り下ろした。異空糸を断ち切ろうとしたのだろう。しかし異空糸が切れることはなく、逆にその隙を狙って異空糸はついに彼女の右手首を絡め取る。
「ああっ……!」
さらには同じように左手首も絡め取り、両手首を縛り上げた後は上へと吊り上げる。そうしてようやくホリーが俺の身体から離れたのだった。
だが強制的に体を起こされはしたものの、それでもまだホリーは自由な下半身を動かして異空糸から逃れようともがいている。
この人はすごい運動神経だしな。いちおう念のため――
俺はさらに異空糸を作り出し、ホリーの全身を異空糸でがんじがらめに固定した。夢中になって縛った結果、なぜか亀甲縛りみたいになっているけれど、これはまあ許してほしい。
身動きの取れないまま強制的にベッドの上に立たされたホリーは、唯一自由になる首を動かして自分の状態に確認。そして薄っすらと笑みを浮かべた。
「あら……屈服させた上で強引に迫るのがお好みでしたか? もちろん構いませんよ。どうぞ私をお好きなように
もちろんそういうつもりじゃないのだが、それならせめて悔しそうな表情をしながら「くっ、殺せ!」くらいは言ってもらいたい。メイド騎士は悪くないと思う。……と、そんなことを考えている場合じゃなかった。
「違います。とにかく冷静になって――」
「それともやはり、私よりも妹のほうが好みでしょうか。先程もお気に入りのご様子でしたし……。そういうことでしたら、いずれ妹にもご奉仕をさせていただくことをお約束します。ですから今夜はどうか私にマツナガ様の劣情をぶつけていただければ――」
「なんでそういう話になるんですか!」
たしかにコリンは可愛らしいと言ったけど、そのまんまの意味だよ!
「とにかくですね、そもそもホリーさんはどういうつもりでこんなことを? 俺に何かやらせたいことがあるんでしょう? そのくらいはわかります」
いそいそと上着を着込みながら俺が尋ねる。その様子にようやく諦めがついたのか、縛られたままホリーががっくりと肩を落とした。
「人が良さそうな方ですし、先にお手をつけていただければ
「理由を話してくれますよね?」
「承知いたしました。すべてお話しいたします。……マツナガ様に、レヴィーリア様を助けていただきたいのです」
そうしてホリーはぽつぽつと語り始めた。下着姿のままで。
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