110 レヴィーリア宣言
伊勢崎さんたちがコスメショップに入ってしばらく経った。
彼女たちは店内を見回りながら好みのコスメを探したり、それらをテスターで試してみたりと楽しそうに微笑んでいる。
それを少し離れた場所から眺めている俺の方は、店員さんに不審者を見るような目で見られているけれど、伊勢崎さんとレヴィーリア様が楽しめているなら本望だよ。うん、本当に……。
そうして店員さんに通報されないかハラハラしながら見守ること十数分――思ったよりも早く彼女たちが店から出てきてくれた。その手にはコスメがたくさん入った紙袋。
どうやら伊勢崎さんが、レヴィーリア様に似合いそうなものを見繕ってプレゼントしたようだ。
なかなかお高そうなお店だったのに、さすが黒いカード持ちは太っ腹だね。重蔵氏にお肉を売ることだけが収入源の俺には、そこまでの甲斐性はないのでちょっぴり羨ましい。
それからさらにショッピングモール内を散策。結局のところ買い物をしたのはコスメショップだけだったけれど、レヴィーリア様は大好きなお姉さまとの異世界観光にご満悦の様子。
そうしてショッピングモールを堪能し、外に出た頃にはそれなりの時間が経っていた。こちらと異世界の時間の流れは違うので、あまりゆっくりもしていられない。
俺たちはいつもの路地裏に戻ると、『
◇◇◇
大家さんから外で食事を取らないようにと言われていたのだが、伊勢崎邸では大家さんが夕食を用意して待っていてくれていた。観光時間は二時間足らずだというのにさすがは大家さん、見事な手際である。
その献立は『刺し身』『寿司』『てんぷら』といった、いかにも外国人観光客が好きそうなイメージのある和食フルコース。まあレヴィーリア様は外国人というか異世界人なんだけどね。
それでも大家さんの狙いは外れていなかったらしく、レヴィーリア様はどの料理も驚きと称賛の言葉を口にしながらモリモリと食べていたよ。
食事の席には俺も混ぜてもらい、俺たちは大家さんの絶品料理に舌鼓を打ちつつ食事を終え――ついにレヴィーリア様が異世界に戻る時間がやってきた。
「日本観光はいかがでしたか? レヴィーリア様」
戻る準備を整えた後、俺が問いかける。レヴィーリア様は俺たちに向き直ると、丁寧に頭を下げて淑女の礼で応えた。
「まずはわたくしのわがままを聞いてくださった皆様に最大の感謝を。この度は本当にありがとう存じました。こちらの世界の洗練された装飾や嗜好品の数々、そして魔力を使わないカガクという技術……とても刺激的で素晴らしいと感じましたわ。……しかし――」
そこでレヴィーリア様は拳を握り込む。
「このような学ぶべきこと多い世界にもかかわらず、この地に住まう人々には善良な方もいれば、お姉さまに気安く声をかけるような愚かな者までいる。これは大変
話しながらレヴィーリア様の額にビキビキと青筋が浮かぶ。どうやら内心かなり腹に据えかねていたようだ。ちょっと怖い。
「――ですが! ですが、わたくしはそれを知り、どこか安心をしてしまいましたの。このような素晴らしい世界であっても、人そのものはわたくしの世界となんら変わらないのだと」
そこでレヴィーリア様はむんと胸を張って宣言する。
「芸術も技術もすべて人が作り出していくものです。人が変わらないのであれば、わたくしの世界でも素晴らしい物を作り出すことができるはず。そのためにもわたくしは姉の妨害を華麗に蹴散らし、紛争を華々しく終わらせ、グランダを民が安心して芸術と技術を高められる町にしてみせますわ! オーッホッホッホ! オーホッホッホッホ!」
頬に手を当て、高笑いをするレヴィーリア様。こちらに転移するまでは少しストレスを溜め込んでいたようにも見えたのだけど、どうやら執務のモチベーションになったようでなによりだよ。
そんな様子を見て大家さんがニヤリと笑う。
「その意気さプリンセス、がんばるこった。そして疲れたらいつでもウチに来るんだね。今度はまた別の料理でもてなしてあげるよ」
「まあ……! ありがとう存じますわ、ババア!」
満足げに大家さんがうなずき、俺と伊勢崎さんの頬がヒクッとひきつる。
当初は『ハルナお婆さま』と呼んでいたレヴィーリア様だが、大家さんが『長ったらしいしアタシなんかババアでいいよ』と言ったのを聞き取ったらしく、ババアと呼ぶようになってしまった。
おそらくレヴィーリア様はババアを愛称かなにかだと思ってるだろうなあ……。相変わらず言葉は通じていないはずなんだけどね。双方ともに気に入っているようなので、無粋なツッコミは諦めている。
そうして別れを済ませ、俺たちは玄関先へと移動。大家さんに見守られながら『
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