53 コンビニショッピング
マンションを下りた俺は、駐輪場からママチャリを取ってきた。
今回はショッピングモールでのんびりと買い物をしているヒマはない。目的地はここから最寄りのコンビニなので、車よりもママチャリの方が早いと思う。まあ俺はペーパードライバーで車は持ってないけど。
俺がママチャリに乗りながら伊勢崎さんのそばに寄せると、伊勢崎さんが後ろの荷台に乗ってきた。
「飛ばすよ、しっかり掴まって」
「わ、わかりました!」
その声と共に後ろから柔らかくてダイナマイトな物がむにゅんと背中に密着した。普段の俺なら少しは照れるところだが、今はそんな余裕はない。
JKとの二人乗り自転車。たしかに俺もかつて高校生の頃は、そういうシーンにロマンや憧れを抱いていたものだよ。
しかし大人になった今となっては、自転車二人乗りをおまわりさんに見つからないかどうかの方が気になって仕方がない。
俺は慎重かつ大胆に自転車のペダルを漕いで――約三分ほどで俺たちは最寄りのコンビニに到着した。かなりの好タイムである。
すかさずママチャリを置き、急いで店へと向かう俺たち。
「いらっしゃせー」
気の抜けた店員の声を聞きながらコンビニに入ると、俺は食料品コーナーへと向かった。
今回の俺のターゲットは食料品だ。
もちろんショッピングモールで食料は買い込んでいたものの、旅も三日が過ぎるとインスタントラーメンやハンバーガーだけでは飽きがきていた。
それにラーメンやハンバーガーを食べた後、馬車の中にじっとしているというのは……そろそろお腹のお肉が気になる年頃なのだ。ちなみに伊勢崎さんは何を食べても太らないという。
俺はサラダや春雨スープにゼリー飲料といったヘルシーっぽい商品を買い込むことで心の安寧を保ちつつ、その他バラエティ豊かなコンビニ食品もカゴの中へと入れていく。
もちろん冒険者のみなさんに大好評のコーラの補充も忘れない。コーラのおかげでずいぶん仲良くなれたからね。
そうして俺はどっさりとカゴ二つ分の食料品を抱えてレジへと向かった。
レジで先に会計をしていたのは伊勢崎さんだ。
若い男の店員は会計が終わった後も伊勢崎さんをぼーっと見送り、それからハッと俺の姿に気づき、慌ててレジを打ち始める。
何度か一緒に買物をしたことがあるのだけれど、その度に行われる、もはや見慣れた光景だった。
レジを済ませて店外に出ると、伊勢崎さんが待ってくれていた。彼女の荷物は俺よりも少なく、コンビニ袋二つだけだ。
それでも俺の分と合わせれば、とてもママチャリのカゴには入りきれない。俺たちは建物の陰に隠れると、二人分の買い物を異空間に入れておくことにした。
自分の分の収納が終わり、伊勢崎さんの荷物を預かる。その時にちらっと見えたのは化粧品。
あまり買ったものをじろじろ見るのはよくないけれど、ついつい言葉が先に出た。
「あれ? 伊勢崎さんって化粧はしないんじゃなかったっけ」
今どきのJKはメイクも常識なんてニュースを見たことがあるけれど、なにかの拍子で伊勢崎さんはほとんどやっていないと聞いたことがある。しかし伊勢崎さんは軽く首を横に振った。
「いえ、これはレヴィの分ですわ。あの子が使ってるお化粧品を見せてもらったんですけど、なんだかお肌に悪そうで……。それでこっちを使ってもらえたらなって」
そう言って伊勢崎さんは心配そうに眉を下げた。
なんとかレヴィーリア様のことを遠ざけようとしていた伊勢崎さんだけど、やっぱりレヴィーリア様のことは気になるみたいだ。
たとえ正体を明かせなくても、かつて仲が良かった二人のようになってくれれば――などと密かに思っていた俺だけど、どうやらそれも現実味を帯びてきたようでなによりだよ。
そうしてほっこりした気分を味わった後は、必死にママチャリで爆走してマンションへと戻った。
出しっぱなしだった蛇口を締めて、再び大急ぎで着替え。
着替えた後はすぐに『
異世界の大岩の陰に戻ってきた俺たちは、ぐったりとしながらも夜空を見上げる。空にはまだ太陽は昇っておらず、どうやら想定時間内に帰れたようだった。
それにしても強行軍の買い出しは疲れた……。ママチャリを漕いでいた俺はもちろん、大急ぎの買い物と着替えで伊勢崎さんもヘトヘトだ。
俺は伊勢崎さんと途中で別れると、焚き火の元へと戻った。
そしてぐったりと疲れた俺を見て、寝ずの番の冒険者が声をかけてくる。
「おっ、おう。ずいぶん長かったな。それに俺は夜目も利く方なんだけどよ、奥さんもフラフラだったじゃねえか。あんた見かけによらず激しいんだな……」
なぜか尊敬の眼差しの冒険者。
「ええ、まあそんなところです……」
俺は曖昧に返事をしつつ寝袋の中に疲れた体を横たえると、それから早朝まで束の間の睡眠をとるのだった。
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