33 若返り
キラキラの光に包まれ、大家さんは気持ちよさそうに目を細める。
「ふぁあああぁぁぁぁぁぁ……。なんだいこりゃあ、身体がポカポカしてめっちゃ気持ちいいじゃーん……」
「ふふっ、それだけですか? お婆様」
得意げな伊勢崎さんの問いかけに、大家さんは眉を上げながら注意深く自分の身体を見回す。
「ふむ、言われてみると、なんだか身体が軽くなったよーな?」
それを聞き、にこりと微笑む伊勢崎さん。そして引き続き光に包まれたままの大家さんは、自分の手のひらを見て驚きの声を上げた。
「マジか! 手のシワが減っていってるじゃん!?」
「えっ!? ストップ、ストーーーーップ!」
手のひらを見て驚く大家さんと、なぜか一緒に驚いて魔法を止める伊勢崎さん。
しゃがみ込んだ伊勢崎さんは、まじまじと大家さんを見つめて首をかしげた。
「見るからにシワが減りましたわね……。確かに今のは若返りの魔法なのですが、そこまで劇的に効果はないはずなんです。……お婆様、ご気分はどうですか?」
「へー。若返りの魔法だって? どっこせっと」
大家さんは立ち上がると、ぐっぐっと身体を左右に動かしたり屈伸したりと機敏な動きを見せた。
「おっ、イイネ! 三年くらい若返ってるカンジがするよ」
「そんなに細かく分かるモノなんですか?」
俺の問いかけに大家さんは当然とばかりに頷く。
「こちとら常日頃から老いと戦っているからね。それくらい測れないようじゃあ、イケてる老婆なんてやってらんないよ」
「まあ正確な年数はともかく、私の想定以上に若返ったのは確かなようです。これまでは私が精一杯やっても、一年分くらい若返ったあたりで魔力が尽きたのですが――」
伊勢崎さんはハッとした表情を浮かべ、俺に振り返る。
「すみません、おじさま! 私はおじさまから魔力をいただいているというのに、それをすっかり失念しておりました! 身体がだるいとか、息が苦しいとかございませんか!? 本当に申し訳ございませんっ!」
オロオロと泣きそうな顔で話しかける伊勢崎さんだが、俺の体調にはなんの変化もない。
たしかに魔法を使ったときに魔力が吸われたのは感じたけれど、気にするほどではないんだよな。
「別に大丈夫だよ?」
「本当にですか? かなり膨大な魔力を消費したと思うのですけど」
「うん。平気だから気にしないでいいよ」
「そ、そうですか、よかったです! ですが……」
ほっとした表情を浮かべたのもつかの間、伊勢崎さんは顎に手をあてながら考え込む。
だがなんにせよ、今のが若返りの魔法ならすごいと思う。たしかにこれなら異世界ステイが長引いても大丈夫だ。
そしてせっかくだからもう少し試してみたい。
「大家さん、俺の魔力はまだまだ平気ですし、もうちょっと若返りの魔法を受けておきます?」
だが大家さんは首を横に振った。
「いや、いいよ。これ以上若くなったらその気もないのにモテちまう。そうなるとあの世で爺さんがヤキモチを焼いちまうからね」
ヒヒッと笑って答える大家さん。まあ本人がそういうのならしかたないか。それにあまり若返らせすぎるとさすがに周辺でも騒ぎになりかねないし、これくらいでちょうどいいのかもしれない。
「そうですか、わかりました。……ところで伊勢崎さん、もしかしてこの魔法って、定期的に受けていたら永遠に生きられたりするの?」
だとすればかなりヤバい魔法だと思う。不老不死は人類の永遠のテーマみたいなところがあるからな。俺の問いかけに、考え込んでいた伊勢崎さんが顔を上げた。
「いえ、老いは魔法で癒せても、魂の劣化は防げません。私が聞いた話によると、かつて聖女を幽閉し『
「二百歳かあ……それでも十分凄いけど。……そういえば伊勢崎さんがこの魔法を使えるのって、もしかしてお貴族様に『
「いえ、幽閉の話を聞いていただけに、私は人前では使いませんでした。ただ……」
「ただ?」
「私の幼少期の頃ですが、エミールおばさんは私の実の両親よりもかなりお歳を召してましたの。今亡くなられては自分が路頭に迷うと思った私は、その一念で『
「そ、そうなんだ」
若返り魔法と聞くと、どこか陰謀めいたものを感じたりするけれど、このエピソードは微笑ましいというかちゃっかりしているというか。
「あっ、そうだ。それなら俺にも『
「それはぜっっったいにお断りしますわ」
なぜか満面の笑みで答える伊勢崎さん。笑顔なんだけど、目だけは笑っていなくてすごく怖い。
ああ、うん。俺も別に若さに固執はしていないけどね。でもそんなに怖い顔しなくてもいいじゃないか……。
「ところで、おじさま?」
「ハッ、ハイ」
「おじさまの魔力量、一度しっかり測っておいたほうがいいかもしれませんわ。おじさまがすごいのは当然なのですが、どれほどのお力を秘めているのかを認識することは大事ですから」
うーむ。たしかにその辺は後回しにしていた自覚はあるんだよね。俺は伊勢崎さんに頷いて返したのだった。
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