ep.21 もふもふ美女、解放まつりじゃー!

 「やっほー♪」


 とある方向から、聞き覚えのある女声がした。

 僕の元へ駆けつけてきたのは、手料理を運んでいるハーフリングたちとマリアであった。というか、


 「あれ!? 最近見かけなかったけど、何処へ行ってたんだ?」

 と、僕はマリアの存在を思い出したのである。マリアはニッと微笑んだ。

 「村のみんなと一緒に農作業してたよ~♪ 今日も、こーんなに収穫してきたんだー!」


 いや馴染むの早すぎだろ!


 なんてツッコミもさることながら、僕がアゲハを筆頭に不穏な光景を目にしている間、マリアはいつの間にかここの先住民たちと、仲良くなっていたのである。


 「そりゃあね。一々細かいものを覚えていく必要はないから、適度にのんびり出来ていいよ~♪」

 「スローライフ満喫してんなぁ」



 …太陽の移動は全然スローじゃないけどね。


 ところで、

 「ここって、魚料理はないの?」

 今回の祭開催のきっかけの一人であるヒナが、アゲハと共に用意された席へと座り、テーブル上に置かれた料理を取りながら質問した。

 人魚に変身できる美女から、“共食い”を連想させる怖い質問が出てきたものだ。


 「この国では、海を泳ぐ人もいなければ、釣りをする人もいない。昔は、森の奥の上流にいた魚を釣って食べていたけど、最近はまったく」

 と、アゲハが答える。ヒナは「へぇ」と不思議そうに反応し、更に質問を返した。


 「どうして、最近は食べなくなったの? 環境の変化とか?」


 「まぁ、それもあるね。

 襲撃の時に、森の一部を敵に燃やされてさ。それで、住処すみかを奪われた熊などの猛獣たちが、今度はその川辺に移り住んじゃったんだよ。だから誰も近寄れなくて」


 「…そんな可哀想な事が」


 そういって、ヒナは悲しそうな表情で共感を示した。



 ドーン! ドドーン!



 その間にも、花火は空高く舞い上がり、極彩色の光を放っていた。


 みんな、かなりの酔いが回っている様で、楽しそうに音楽に合わせ踊っている。

 とても、過去に襲撃に遭ったとは思えないような、平和な光景であった。




 ――――――――――




 「おっとっと、そろそろテントへ潜るぞーぃ!」

 「僕もー!」「私もー!」

 「ちょ! そんなギッチギチじゃあ、あっしが入れないじゃないかー!」


 ドワーフ達が少し騒がしくなってきたのは、夜明けが近づいてきてからだ。


 彼らは日光に弱い。だから、屋台もそうだけど日除けのためのテントや草むらなどに隠れ、日中をやり過ごすのである。

 だが、中には出遅れたブーブの様に、そのいずれも日除けできそうにない者が。


 「はっ!」

 「にんにん!」


 シュルシュルシュル~!


 そこで、ルカとリリーの出番だ。

 2人は素材こそ異なるものの、ともに大きな百合のオブジェクトを生み出す事ができる奇跡の使い手。それらを傘くらいの大きさへと生やし、もぎって手渡したのであった。


 「はいどうぞ。これで、日差しから身を守ってください」

 「おー! いいのかね妖精ちゃんたち!? あ、ありがとうございやす~!」


 …おいおい、まだ仲間達のことを「妖精ちゃん」って言ってるのかブーブ。

 まぁいいや。日傘代わりの花を受け取ったことで、他ドワーフ数人も喜んでいるのだから。




 「…あれ!? ねぇイシュタ、あそこに見えるのって…!」


 一方で、サリバが何かに気づいた様子。

 イシュタがその方向へと振り向くと、奥には黒い影が数体――。


 「あれは、河川に住み着いていた熊たちでは!?」

 「うそ! たいへん!! イシュタ、鈴! 襲われる前に早く鈴を出して!!」


 て、どどどどうした!? 2人とも!?

 急に、すももサイズの大きな鈴を腰から取り出して、青ざめた表情を浮かべて… て、クマ!? あの遠くの森の奥で動いている影って、ゆうべ話に出ていた猛獣とやら!?


 「まって2人とも。あの子たち、人を襲う為に里を下りたんじゃないよ」


 と、ここで機転を利かせたのがヒナだ。

 サリイシュの気を落ち着かせ、その走っていく影を目で追う。ヒナはこう答えた。


 「あの子たち、大きな音に耐えきれなくなって、遠い所へ避難したんだよ。あの感じだと、小さいお子さんもいて、一緒に連れていったんだと思う」


 その瞬間、アゲハがハッとなって手槌たづちを打った。

 僕にも、なんとなく原因が分かった。


 「そうか! ゆうべから続いている、この祭の『騒音』だ!

 今年で建国200年を迎え、そこへヒナが『母神様』として参列した。それだけの奇跡が起こり、ここまでの大音量を流す事もなかったから、さすがの熊たちもビックリして逃げていったんだよ。


 という事は、あの上流が…!!」


 そういう事だ。

 縄張りを張っていた熊たちがいなくなった今、祭が行われているうちに、そのかつての釣りスポットへ足を運ぶチャンスである。

 アゲハは背に蝶の翼を生み出し、安全確認のため、川辺までの道を滑空していった。




 「ホントに、熊がいなくなってる…! もう、安全って事だよね?」

 「まだ、動物がいそうなオーラは感じるよ。なんだろう… 犬? オオカミ?」


 と、サリイシュも会話をしながら河川の上流へと辿り着いた。

 ヒト型種族が足を踏み入れている森とは違い、こっちは本当に手づかずの、多種多彩な植物が入り組んだように生い茂っている。こんな神秘的な場所があったとはな。


 「バイカモも咲いているし、ヤマメも泳いでいる。本当にキレイな川だね」

 ヒナもそういって、透き通る清流を眺めながら褒め称えた。

 すると、ここでアゲハが何かを発見した。


 「…光ってる!!」


 光ってる――。その言葉を耳にした僕の脳裏に、「まさか」という予感が走った。


 アゲハが「熊たちが住んでいたと思しき穴」へと向かった先、そこから例の「光るもの」を拾い上げ、僕たちの元へ駆けつけてきたのだ。今だからこそ、できること。


 「みて… チャームだよ。あの熊たちが、住処にこれごと食べ物を貯蓄していたんだ」


 凄い発見だ。アゲハが手に持っているのは、少し泥にまみれたクリスタル。

 しかも、チャームのロゴは8のマークが入った十字架… という事は、中身はあの狼女!


 「わぁ! またチャームが見つかったぁ! これで5人目だよね!? ね!?」

 「うん。母神様が来て下さったことで、盛大なお祭が開かれたおかげだよ」

 「え? あはは… 私、そんな大した事はしてないけどなぁ」

 と、ヒナが照れ臭そうな苦笑いで、サリイシュの言葉に謙遜けんそんする。


 気を取り直して、アゲハの手元に置かれたチャームへと、サリイシュが手をかざした。

 ここからはいつも通り。白から虹色へ、伸びる光がどんどん強くなっていき――。


 ドーン!



 放たれたスライム状の光は、川のほとりの草むらへと落下した。

 そこから大型犬の姿が形作られ、すぐにヒトの姿へと変形し、色をもって実体化する。


 草むらに、乙女座りで解放されたのは僕の予想通り、これまた美人にしてオオカミ…

 じゃなかった、シベリアンハスキーに変身できる能力の持ち主。マイキであった。


 てゆうかマイキさん、地面に倒れる様に実体化したぞ。

 倒れた姿で解放なんて、何げに初めてのパターンだな。

 むしろ、これがクリスタルから解放されての仕方だと思うのだが… これまでの仲間達が特殊すぎた。




 「うっ… ここは… 私は、外に出られたのか…?」



 と、マイキが呟きながら、辺りを見渡す。

 中途半端に魔法が乱れ出ているのだろう、ケモ耳と、もふもふの白いしっぽが揺れる獣人の姿で、彼女はゆっくりと立ち上がったのであった――。




 【クリスタルの魂を全解放まで、残り 20 個】

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