ep.22 私を空中都市に連れてって
『――そんな事が。どおりで、N3の姿を最近見かけないと思ったんだ。
それと、富沢の側近を務めていた、あの若いダークエルフの姿も… きっとその子が、富沢商会にとって何か不利になるようなヘマを犯し、始末されたのかもな。
N3は単純に、AIがシンギュラリティに目覚め、反逆に走ったところを破壊されたか』
この小説、ジャンルは「異世界ファンタジー」のはずなのに、いまマニーが電話の向こうから話している内容は、思いっきりSF。
AI… シンギュラリティ… うっ、頭が。
なんてふざけている場合ではない。
さっきまで熊がいたのだから。
森の奥、上流の川のほとりでマイキを解放した僕たちは、あのあとすぐに里へと下りた。
まだ祭は続いている。
そんな中、アゲハは自身のガラケーを持ち、マニーに電話で今日までの事を話していた。
ところでマニーはいつ、ここアガーレールへ帰ってくるのだろう?
『考えられるのは、フェブシティで開催している生け花大会だよ。あそこでは最近、富沢商会による
「生け花大会?」
と、アゲハが気になる語句を
そういえば、あの破壊されたN3の口からも、それっぽい話が出ていた様な気がする…!
『あぁ。そこで優勝した人だけ、富沢との面会権が与えられるらしい。いっそ俺が出場して、会場に潜入する事も考えたけど、それだと敵に勇者としての顔が知られてしまうから』
「なら、ここは花の扱いに長けた人達に出場してもらって、優勝を狙うのが無難だね。最近、クリスタルから解放されたばかりのリリーとルカがいるから、2人に相談してみるよ。
万が一落選しても、会場内の様子から何かしらのヒントは得られるはず」
『そうだな。だが油断は禁物だ。富沢は、危険な男だよ。私利私欲のためなら、人を簡単に
「そこもなんとかするよ。グリフォンを捕まえて手懐けるなり、幾らでも方法はあるから」
『…無理はしないように。俺はもう少ししたらそっちへ帰還する。詳しい話はまた後で!』
そういって、マニーとの通話はそこで切電された。
なにせソーラーパネル式の携帯端末である。すぐにバッテリーは切れるし、そんなに長いこと通話ができないのは難点だといえよう。
記録のための「メール」という手段を使う描写がないのは、ソーラーパネル式だとデータが吹っ飛ぶからかな?
「…どうしたの?」
アゲハがふと、振り向いて声をかけた先はマイキ。
マイキはなお、獣人の姿で、自身のケモ耳を指でつまみながら、困った顔をしている。
「戻らない」
「え?」
「おかしい…! ケモ耳が、元に戻らないんだ! しっぽも、何もかも!!」
あー、そういうこと。
て、いや本人からしたら結構深刻な問題だぞソレ!?
つまり、マイキさんはこの世界で長いこと閉じ込められていたからか知らないけど、本来の「人間」の姿に戻りきれなくなっているってこと!? でも… もふもふ美女てぇてぇ。
「陛下! そちらにいらしたのですね!! 大変です! 平地にクマが!!」
今度はこれまた聞き捨てならない報告だ。
ハーフリング数人が、「ソースラビット」という、この世界ならではのウサギみたいな顔したシカを引き連れ、アゲハの元へ駆けつけてきたのだ。
その様子だと、とても祭を楽しめる雰囲気ではないのだろう。広場は大盛り上がりだけど。
「クマ?」
アゲハは反芻した。ヒナも、サリイシュも、再び警戒の表情を浮かべた。
「はい! 恐らく、けさ山から降りた熊の家族と同一のものたちです! まさか、平地に現れるだなんて…」
「住民にケガはない?」
「はい。幸いにもすぐに気づいてくれた方がいたので、みな無事に避難しました」
「そうか。良かった。その熊の家族は、まだ平地にいるんだね?」
「まだいますね… あ、それと!」
そういって、1人が何かを思い出したように
「その中の親熊の背中に、皆様が持っているのと同じ、クリスタルのアクセサリーが毛に絡まるようにひっ付いていたんです! 本人は、気づいていないのかもしれませんが…」
マジか! ここへきて、またもクリスタルチャームの発見だ!
だけど、まさかの熊の体毛に絡まっているという… 急に入手難易度が跳ね上がったぞ。
「ウソ!? じゃあ、マイキさんのチャームが見つかった場所に住んでいた熊たちと、同じ子たちなのかもしれない…!」
と、ヒナが悲壮の表情を浮かべ、自身の口元に両手を当てがった。
それもそうだろう。相手は、あの肉食動物の熊だ。並の人間が到底戦える相手ではない。
「それってもしかして… そのチャームって、付属のロゴはどんな形をしていた?」
そこへ、マイキも何か察したのだろうか。
彼女は鋭い目で、ハーフリングたちにそう質問した。答えは、
「えーと、ちょっとそこまでは見ていないけど…」
「え? 僕みたよー。なんかね、火がボゥー! って上がっている様な形してたー」
だった。子供ハーフリングが、そういってヒントをくれたのだ。
「火…? 炎のロゴ…… キャミだ!」
マイキはハッとした表情を浮かべた。
そうか。たとえクリスタルチャームに封印されても周りの状況は「魅える」から、マイキも一時期、キャミのチャームが同じ熊家族に囚われている所を見たのかもしれない。
そして、今その名が挙がった「キャミ」といえば、7体もいる召喚獣の使い手!
そうだよ、その中からユニコーン召喚できるんじゃん!
そいつ虹の橋を渡れるぞ!! 空中都市にいける!!! 生け花大会だぁ!!!
「わかった! ありがとうみんな。なんとか策を練るから、それまではこの広場にいて。祭の大音量がある限り、熊は近寄らないからね。
アキラたち! ちょっと、こっちへ」
アゲハはコクリと頷き、続いて僕たちを王宮の手前へと手招きした。
これから作戦会議、といったところか。
サリバとイシュタは熊が怖いのだろう、再び鈴を出しては、怯えている様子だったが。
祭が終わってからの、里に下りている熊の暴走は怖いぞ。
だから、ここは事が大きくなる前に、女王率いる僕たち異世界人でなんとかしなければ。
しかも、その熊たちのうちの1頭には、チャームがついているのだ。それを無事に取り上げるには、一体どうしたらよいものか。
「私に、考えがある」
そういいだしたのはマイキであった。
どうやら彼女、熊の弱点かなにかを知っているらしい。長年、チャームの奥で熊の生態を見てきた経験と勘が、ここで働くのかな…?
(つづく)
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