ep.14 仄かに甘いショタの香り
「まずい! くるよ!!」
マリアが警戒した。
ボススライムは僕たちの姿に気づいたのか、ゆっくり片手を空高く振り上げる。
僕とマリアはその場から離れた。するとすぐに、
ドーン!!
ボススライムの腕が、拳が、豪快に僕たちのいた所へ振り落とされた。
それはとてつもない
「うあぁぁっ!」
うそだろみどり!? いや、マリア! 結構飛ばされたけど、大丈夫なのか!?
しかも、その先は9合目で少しポッカリと空いているカルデラみたいな所!
「くっ…!」
マリアはすぐに意識を取り戻し、空中で着地の体勢を取った。
だけど、そのカルデラっぽい所へ降りた瞬間には、落下の衝撃で地面が少し抉れるはず。
ダン!
マリアは持ち前の身体能力を活かし、力強く地面へと着地した!
両足に、かなりの負荷がかかる。
その影響が地面にも表れ、クレーターを成す様に、半径4m四方の円形へと抉れた。
「あのヤロウ…!」
着地の負荷で、少しだけ両足を痛めたらしいマリアが、そういってボススライムを睨んだ。
ふと、マリアは自分が着地した地面へと見やる。
抉れた円形からは、ピンク色の岩が大きくむき出しになっていた。そこから削れた大きな石を1つ手に取ると、それは岩塩であった。
ジュルジュル~! ジュルル~!
ちょうど、近くにいたスライムたちが、マリアから後ずさりする様に離れる仕草を見せた。
変幻自在だからか、さっきはあれだけ強気だったスライムたちが、今はなぜか怯えている。
マリアは疑問符を浮かべながらも、手に持っていた岩塩を1つ投げつけた。
ひょい。ぴちゃん!
「ピギャアァァァァァ…!」
投げた岩塩は、見事にスライムの1体へとクリーンヒット。
すると、体内に無理やり岩塩が取り込まれたスライムは金切りの悲鳴をあげ、しゅわしゅわと蒸気を発しながら、溶けて消えていったのである。
スライムたちは、その惨劇を間近で見た恐怖からか、一斉にマリアの元から退散した。
「…」
マリアは真顔で、山頂にいるボススライムへと目を向けた。
僕はその頃、ボスの物理攻撃から逃れるのに必死で、電光石火を用いては動き回っていた。
なんとか、敵の目を逸らしている隙に、頂上へ辿り着きたいのだが…
ボススライムは一瞬、マリアへと腕を振り上げたが、すぐに僕がいる方向へと転換した。
「はっ。そういう事か」
マリアは不敵な笑みを浮かべた。
何か、いいアイデアが思い浮かんだらしい。すぐさま僕のいる方向へと叫んだ。
「セリナ! そいつを私がいる所まで、虹色蝶で誘導するんだ!!」
「え、誘導!? なんで!!?」
「そいつの弱点が分かったんだよ! いいからこっちへ連れてきな! 私が最後に崖ですっ転ばせてやる!!」
マリアがそういうのだ。ここは仲間を信じて従うが吉。
強風に煽られながらも、僕は意を決し、両手を上げて唱えた。
「蝶よ! いっぱい羽ばたけ!!」
♪~!
僕の両手から、大量の虹色の蝶がキラキラした音を奏で、フェードインした。
蝶の大群は、ボススライムと同じ位の巨人を形成する。
小学校で読んだ童話の如く、まるで小魚の群れが連携を取り合い、大きな魚に見たてるというアレだ。すると、ボススライムはまんまとその後をノシノシついていった。
「くらえー!!」
ザシュ!!
カルデラからぴょんぴょん登ってきたマリアが、崖まで誘導されたボススライムの「足」にあたる部位を攻撃した!
強力な電流とともに、ボスの足が切断される!
ボスは身を震わせながらカルデラへと倒れた。
ドーン!
ジュワー!
ボススライムが、苦しそうな
そして、みるみるうちにスライムの体が溶け、そのまま岩へ染み込むように消えていった。
僕は虹色蝶を唱えるのを止め、蝶の群れをフェードアウトさせた。
天気が、少しずつ回復してきた。
僕もマリアも、ボスが落下し、溶けていった現場を見下ろしながら、息を切らしている。
終わったんだな―― と。こうして、僕たちは山頂の守護者を倒したのであった。
「はぁ、はぁ… くたばったか。まさか『溶ける』なんてね」
「ホントにね。でも、これで分かったよ。スライムたちの弱点は『塩』。あの地層に埋まっていた岩塩に体が触れると、浸透圧で溶けちゃうんだよ」
「浸透圧って、なるでナメクジみたいだな… よし! 山頂にある光をゲットして帰ろう」
僕はそういって、今は亡きボススライムが守っていた山頂へと歩いた。
山頂から光っていた“それ”は、ちょっとだけ尖った岩の先に、ブレスレットの輪で括られる様に引っかかっていたのだ。僕たちは歓喜した。
「チャームだ! アゲハの予想が的中した!」
「これで2本目だね。なるほど、これを今まで何人もの人が手に入れようと挑戦して、さっきまでの悪天候やモンスターにやられちゃったのかぁ。通りで証拠が残らないわけだよ」
うん。マリアの言う通りだと思う。
サリイシュ曰く、これだけ特殊なオーラを
僕は、岩肌に引っかかっているそのチャームを解き、持ち帰るために懐へとしまった。
――――――――――
「ご苦労だった! ありがとう2人とも。やはり、光の正体はチャームだったんだね」
あのあと、僕たちはサリイシュの自宅前へと戻り、そこで先住民達となにやら話していたアゲハと合流した。
早速、現地で手に入れたチャームを――マリアはなぜか幾つもの石を――提示する。
アゲハは感謝の意を示した。サリバとイシュタも、チャームの光に興味津々である。
「わぁ! あの時と同じように光ってるよ!」
「だけど、あの時のビリビリは感じないな。どちらかというと… 甘い花の香り?」
と、イシュタが静かに鼻をスンスンさせた。
さすが、魂の息吹の使いとだけあって鋭い。本のチャームの先入観に捉われない着眼点だ。
「とにかく、今は一緒に魂を解放させてあげようよイシュタ! あんな危険な嵐の中に、200年ものあいだ封印されていたらしいし!」
「え? うん」
サリバに
そしてサリバとともに、あの時と同じ「おまじない」を唱えた。
チャームが、どんどん光を帯びて、白から虹色へと伸びて分散していく。
僕はチャームを置いた手の平をグッと構えた。そして…!
ドーン!!
「「おー」」
サリバとイシュタの反応通り、チャームから強烈な光線が空へ放出された。
最初は同じ展開に怯んだ先住民達だけど、流石に2回目ともなると、慣れてきたようで。
ドン! シュルシュルシュル~!
光が孤を描いて落下した場所に、大きな百合の花が数房、白い光を纏って地面から伸びる。
その房の間から、光の大元となるスライム状の物体が、やがて人の形を成していった。
光は収まり、その中から1人の少年が、ストっと静かに降り立つ形で登場した。
封印されていた仲間。本のロゴのクリスタルチャームの持ち主―― ルカであった。
「よっと。みなさん、お久しぶりです。そちらのお二方ははじめまして」
ルカはあの時と変わらない、小柄で華奢だけど、大人びた礼儀正しい一面を見せてくれた。
アゲハ達は安堵したものだ。僕はチャームを持ち、それをルカへと返したのであった――。
(つづく)
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