ep.15 姐さんを、掘り起こします!
「これって… 岩塩と、鉄鉱石じゃないか! あの山岳の地層から採掘したの?」
ルカを解放し、僕の手に失われた魔法が戻ってきてすぐに、アゲハとマリアが何やら
アゲハが時たま手に取るのは、チョークで番号が書かれた石。マリアのドヤ顔が眩しい。
「驚いたな。てっきり、あそこは嵐と落雷が凄いから活火山だと思っていたんだけど」
「ううん、寧ろ逆だね。あそこは現実のヒマラヤ山脈みたいに、プレート同士がぶつかり合って隆起した場所なんだよ。事実、あのデカいスライムを倒してから嵐は収まったしね」
「ふむ。嵐の原因はソイツだったかもしれないのか… 分かった。でかしたよマリア! これで、この大陸の地質学の研究がまた一歩前進する! アキラもありがとう」
なんて、ちょっとインテリな会話をしている女子2人。
僕とルカ、そしてサリイシュの4人はそんな理系の話を耳にしながら、今はとある広大な花畑へと目を向けていた。
アガーレール王国の領土の一部ではあるけど、丸太の柵に囲まれたその奥は、ほぼ手づかずの場所。思いっきり駆け抜けていきたくなるような広大さを誇るが… 僕は質問した。
「なぜ、これだけ大きい土地なのに、立ち入りが禁止されているんだ?」
すると、サリイシュが僅かに怪訝な表情を浮かべながら、言葉を選ぶようにこう話した。
「この花畑は、昔から『家を建てると呪われるからダメ』って言われている場所なの」
「へ?」
「理由はよく分からないけど、多分これだけキレイな花畑だから、手をつけちゃいけないよって事なのかもしれないのね。私たちの両親も、何度も口酸っぱくして言ってきたんだ」
「あのころか。懐かしいなぁ。確かにこの花畑の奥にはこう、不思議な力というか、誰かの祖先が眠っているらしいオーラを感じるんだ。きっと、これも神の思し召しなのだろう」
「…そのオーラって、正確にはどの辺りから感じ取れますか?」
と、ここで訊いてきたのがルカだ。
確かに、2人のその証言にはかなり引っかかる部分がある。イシュタが指をさした。
「あそこに。少しだけ、地面が剥げて盛り上がっている場所から感じるんだ」
と、少し怯えたような表情でいう。
その間に、ルカはアゲハへと視線を向け、アイコンタクトで何かを訴えていた。アゲハがその意味を察したのか、コクリと頷いているが…
「ただ、さっきも言ったように何かこう、掘っちゃいけないようなものが埋まっている気がするから…」と、イシュタが言い続けたその時。
「にんにん!」
――え?
シュルシュルシュル~!
「「えぇぇぇぇぇー!!?」」
なんと! イシュタの説明途中なのに、ルカが突然忍者のポーズで唱え、その「盛り上がった場所」から大きな百合の花たちを発芽させたではないか!
それらは地面を割る様に伸びていき、土を振るい落としているような挙動さえ感じられた。そのうちの、花弁の中から顔を覗かせたのは…
「え!? チャーム!!?」
という僕の叫び通り、まさかのクリスタルチャームの浮上であった。
「え、ウソ!? そんな所にチャーム埋まってたの!!?」
と、後から展開に気づき駆けつけてきたマリアも、目を大きくする。
ルカは“にんにん”のポーズを終えた。
彼の目が、少しだけ鋭い。
まさかとは思ったが、この土地で古くから(?)伝わっているとされている「呪いのオーラ」の正体が、クリスタルチャームから発するオーラだったなんて。
僕もサリイシュも、開いた口がふさがらなかった。
「やはり。お二方の証言からして、花畑にリリー姐さんのチャームが埋まっていると思ったんですよ。でも、どうして土の中なんかに…」
ルカがそう不服そうに言っている間にも、アゲハがここで、背中から半透明状の大きなアゲハ蝶の翼を生やした。
ヒラヒラ~♪
と、ホバーボードに乗っているかの様に低空飛行だが、丸太の柵を軽々と飛び越え、チャームが掘り出された場所へと降り立ったアゲハ。
チャームを手に取り、再びその場から飛び立つと、すぐに僕たちの所へ戻ってきた。
すとっ。
「このチャームも解放しよう。サリバ、イシュタ、できそう?」
アゲハがそういって降り立ち、翼をフェードアウトさせた。2人は「うん」と頷いた。
「今日だけで2つもチャームが見つかるなんて、凄い収穫じゃなーい!」
「うん。人はたくさんいた方がいいからね。やろう、サリバ」
そういって、再びおまじないの体勢に入った2人。
さっきルカを解放したばかりなのに、まだおまじないを唱える力があるのか。と、僕は陰で感心したものだ。
ルカは現地の百合を遠隔で消して、静かに見守る。マリアも、その瞬間を見入った。
サリイシュのおまじない。チャームが再び眩しく発光した。
チャームから、ルカの時と同じように虹色の光が輝く。そして…
ドーン!
大きな光は轟音とともに、空へと飛び出し、孤を描いて近くへと落下していった。
スライム状の光が落下した周囲から、ルカ同様、大きな百合の花が咲き乱れる。
だが、それはルカのカサブランカとは違い、次第に真っ黒な百合へと変わっていた。
そして…
すとっ
百合の中で動いていた光が、1人のぱっつん前髪の女性として実体化した。
彼女は解放されて早々、目元を隠す様に、頭の帽子を深く被る。
百合の花のロゴがあしらわれた、クリスタルチャームの持ち主。リリーであった。
「姐さん!」
ルカが、真っ先にリリーの元へ駆け寄る。
僕はというと、なぜリリーが顔を隠す様な仕草を見せているのか、少し疑問だったが。
「す、すみません。折角の対面なのに… その。久々の太陽の光が、ちょっと眩しくて」
そういうリリーが、照れ臭そうに困ったような笑顔を覗かせたのであった。
【クリスタルの魂を全解放まで、残り 22 個】
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