ep.13 地獄のようなビチャビチャ戦

 ~アゲハ視点~




 「アゲハ!?」

 「アゲハなのね!? やっと… 会えた」



 視界が、鮮明になった。


 目が覚めたら、アゲハはそこに立っていて、目の前にはひまわり組の2人。


 アゲハにとっては、突然の夢のように感じた。

 いや、一応は「夢」なのか。そう思ったのかもしれない。


 「イングリッド… ミネルヴァ… ここは、もしや“狭間”?」


 目が覚めて早々場所がここで、困惑したアゲハが一生懸命に考え、導き出した答えだ。

 暑くも寒くもない場所で、足の裏の違和感に気づく。

 見たら、今のアゲハは裸足に白いワンピース姿。いわゆる「寝巻き」の姿であった。


 「あぁ。ここは天国と地獄の狭間。一度は神の跡取り候補の最有力だったから、もう知っているとは思うが、“あの世”の一端だ。久しぶりだな、アゲハ」

 「…うん。久しぶり」

 「あなた、セリナに会ってきたんでしょ? 彼から私達の話は何かきかされた? あなたが今いる異世界について、どうなっているのか教えてほしいの」

 「あぁ。それなら――」



 アゲハは内心、なぜ自分がここへ辿り着けたのかが疑問だったが、ここはずひまわり組に自分が見てきた異世界のアレコレや、今日までの出来事を説明しておく。

 そしてそれに合わせて、ひまわり組からも一通り、上界で起こっている問題を聞いた。


 そうとなれば、次にアゲハが依頼するのは、プロローグと同様の流れであった。


 「礼治兄さんに会わせてほしい」



 アゲハの視線は、少しばかり鋭かった。


 ここでミネルヴァが、あの時と同様、手をかざした先に地獄へのトンネルを生成する。


 「ここを通って」



 アゲハは何もいわず、灼熱地獄へと続くトンネルの奥へと、進んでいった。




 ――――――――――




 「兄さん!」




 アゲハが地獄の魔王、礼治に会うのは、トンネルを潜ってからわりとすぐであった。


 元々、玉座から近い位置にトンネルが形成されたのだ。

 辺り一帯マグマだらけで狭い足場とはいえ、礼治の性格上、普段は何処にいるのかアゲハには分かるのだろう。そこはさすが、同じ血を引く家族というだけあるか。



 「――アゲハ」



 礼治が声に気づき、振り向いた瞬間には、アゲハは礼治に飛びつくように抱擁ほうようしていた。


 アゲハが、涙を堪えながら、礼治の胸中に顔をうずめている。

 礼治は、それを静かに受け止めていた。




 2人は、実はイトコ同士だ。


 地獄の魔王と、異世界の女王。

 何げにすごい組み合わせだが、身分はどうあれ、今日までイトコとこうして会えなかった事が、どれだけアゲハにとって苦痛だったか。




 「アキラに、会ってきたんだな?」


 しばらくして、抱擁を解いたアゲハに、礼治がそうきいた。

 アゲハは涙をぬぐったあと、「うん」と頷き、今日までの出来事を話していく。




 「――『アガーレール』、というんだな…? その国は」


 アゲハからの説明が終わり、礼治が最初に発した疑問だ。

 アゲハはそれも「うん」と頷き、その国名になった由来をこう話す。


 「建国前に、私が虹色蝶を先住民にお披露目した時だよ。その時に皆がお祭りを楽しむ要領で、手を挙げながら『アガーレール!』『アガーレール!』って言葉を発したんだ。

 だから、一概にはコミュニケーションの一環とはいえ、まだ言語が確立していない時代でその言葉があがるのは、何か深い意味があるんじゃないかと思い、せめて国名として残すべきだと思ったんだよ。一国の君主としてね」



 へぇ、そんな理由があったのか!? アガーレールの名の由来って。

 傍から見れば、まるで「アガれる!」みたいなパリピな言い回しというか、ダジャレともとれる内容だけど、そんな先住民たちの伝統(?)を残そうと考えたアゲハ。流石である。



 「なるほど。アゲハらしい名付けだな」


 と、礼治はアゲハの考えを否定することなく、簡単な相槌を打った。

 少し、哀愁の漂う目付きに変わったのが気がかりだが、それにアゲハが気づいたのか、

 「どうかしたの?」

 ときいた。だが礼治はすぐに首を横に振り、

 「いや、別に」

 と答えただけであった。


 「そう… という事だから、礼治兄さん。いつになるかは分からないけど、必ず先代魔王たちCMY… あの“3きょうだい”を、1人でも早く解放するから、そうしたら兄さんも来てくれるよね? アガーレールに」


 アゲハはそう懇願した。目が、今にもいとこに来てほしいとばかりうれいている。


 「あぁ。約束する」


 礼治はそういって、静かに頷いた。

 その意思が確認できてホッとしたのか、アゲハが自身の横髪をかき分けるようにし、

 「それじゃ。起きて次の公務をしないとだから、また後で」

 といい、その場を後にしたのであった。


 礼治は、アゲハが元の狭間までのトンネルを潜る瞬間を、静かに見つめていた。




 ――あれ? 私、アクセサリーをアガーレールで外してから寝たのかなぁ。


 と、アゲハはその時、髪をかき分けたはずみで自身の耳、そして両手首にピンクの宝石アクセサリーがついていない事に気がついた。

 だけど、それらはきっとこちらへは転送されず、自分がアガーレールに置いていったのだろうと首を傾げ、すぐ何事もなかったかのように帰還したのであった。




 ――――――――――




 ドーン! ドーン!


 僕とマリアがいるのは、豪雨と強風が吹き荒れる山岳地帯。

 傘なんて役に立たないし、ずぶ濡れは最早当たり前。なんだけどそれくらいは想定の範囲内で、ある程度の雷耐性がついて戦闘Lv.3に上がった僕にとっては、どうって事ない最初のミッションに思えた。


 だが、それとは別の問題がある。

 この山岳地帯、ほぼ手づかずだからか、帯電スライムがウジャウジャいるのだ。


 「うらぁ!!」

 バーン! ビシャア!!


 マリアが、チアさながらアクロバティックな移動をし、山頂までの行く手を阻むスライムを豪快に蹴り飛ばした。

 それでもスライムは全身が液体なので、変幻自在。

 マリアのキックの風圧で一時はべちゃべちゃに崩れても、すぐに元の姿に戻った。


 「なぁ!? これ、戦う意味あるの!?」

 「邪魔だから退けてるだけだよ! 倒すためじゃない!」


 なんて叫ぶマリアと横並びで、僕は山頂へと近づいていく。

 その山頂には… 確かに、雷光とは明らかに違う光がチカチカと輝いていた。が、



 ドーン!

 「グワアアアア!!」

 

 でた。

 山頂に宝がある系ダンジョンあるある、山の守護者的なデカい中ボス登場!


 デカいといっても、スライムを十何体も煉り合せた様な、黄色いぷるぷるのヒト型モンスターだが… て、いやあれは結構な大きさだな!? 僕たちの5倍くらいあるぞ!?


(つづく)

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