ep.6 みどりのおてんば娘、爆誕。

 「のわあああ~… な、なにすんじゃあああこの若者がああ!」


 ピカーン


 「うっ…! 太陽!! あっし、太陽が苦手なんだ!! 隠れないと! 畜生ちくしょうぉぉ!」




 日の出が訪れた。


 それによって、ブーブは森に姿を現す事が出来なくなり、ひとまず洞穴へと身を伏せる。

 そうか。ドワーフ族は確か、太陽の光を浴びると石化しちゃう種族なんだっけ。


 「この卑怯者ー!! あっしが陽を浴びれないタイミングで、大切な宝物を奪いにくるとは泥棒もいいところだぞ!! あっしはこの森では顔が利くんだ!! 仲間を呼んで、今すぐにでもお前をメッタメタのけちょんけちょんにしてやるー!!」


 なに、仲間を呼ぶなんてそんな事… できるのか?

 だって、結局のところこの日中で、ドワーフ達は外には出られないんじゃ?

 いや。今でなくても、夜に仲間を連れて報復は十分にあり得る。さて、どうしたものか。


 「ブーブさん、落ち着いて。これには、ちょっとしたわけが」

 アゲハが、そういって洞穴の前へと歩み寄った。ブーブは身を伏せながら叫んだ。

 「陛下、お願いです!! あやつが持っているのは、いざという時に売って金にするよう、今は亡きお師匠から譲られたものなのです!! あれがないと、あっしはー!!」


 ハイ嘘乙。

 売って金にするのは本当かもしれないが、そんなに生活が苦しいなら飲みにいくなよ。


 「やっぱり、そうなのね――。この、妙に心をくすぐる感じ、ブーブさんじゃなくてアクセサリーからオーラが放たれていたんだ」


 ここで、サリバとイシュタが僕の方へと歩き出した。

 僕も、洞穴の近くまで歩み寄る。


 …いま、ほんの少しクリスタルが光った?


 「たしかそれ、『クリスタルチャーム』っていうんだろう? その中から、確かに人の魂というか、特殊な力を感じるよ。その、ビリビリするような感じ?」

 と、イシュタも神妙な面持ちで、僕が持つクリスタルチャームを見つめる。


 そして、僕が感じた異変は、より確実なものとなった。

 クリスタルが、ふわっと光ったのだ!

 それも、サリバとイシュタが近づくにつれて、どんどん明るくなってきている!


 そのころ。

「まさか、住民が隠し持っていたなんて、予想外だよ。こりゃ他のチャームも『金目のもの』として、他所の街まで流通してしまっている可能性があるな。あとで巡回しなきゃ」

 と、アゲハが苦そうな表情で顎をしゃくっている。


 視点は僕の方へと戻して、

「凄い光ってる… ねぇ。これ、このあとどうするの?」

 サリバがそういいながら、イシュタと共に暖を取るように、チャームに手をかざした。

 僕は先住民の男女2人に、こう告げた。


「クリスタルに封印された魂を、解放するんだよ。そうすれば、中からきっと俺の仲間が飛び出してくるんだ。チャームは雷のロゴだから… 多分、みどりのおてんば娘が出てくる」


 男女2人の「?」という表情は置いておいて。さて、どうする?

 このまま僕が眠って、クリスタルチャームごと上界に転送し、ひまわり組に渡すか?

 それとも…


 「サリバ。昔やった『おまじない』、かけてみようか?」

 「あ。うん、それいいかも! 樹木の中に引き籠っていた妖精さんを、昔そのおまじないで外に飛び立たせてあげたんだよね!? なつかしいなー」

 「うん。そのおまじないが、このクリスタルにも効けばいいんだけど」


 驚いた。

 なんとこの2人が、今からその「おまじない」とやらをかけて、クリスタルチャームに封じられた魂を解放してみるというのだ!

 しかしそんな事が、上界の神様ではなく、この異世界の先住民にもできるのか?


 僕は両手にチャームを置いたまま、2人が目を瞑り、祈る姿を見つめた。

 アゲハも、自身の呼吸を整えるように、その始終を見守る。




 クリスタルの光が、更に強くなった。


 その光はやがて、白から、虹色へと分離していく!


 そしてさらにレーザーの様な光線を放ち、勢いよく空へと放たれた!




 ドーン!



 「「うわぁ!」」


 サリバとイシュタは、その突然の轟音ごうおんと地響きにビックリし、祈りのポーズを止めた。

 そりゃそうだ。僕だって、この展開には驚いたのだから。

 アゲハも、空へ飛びあがった光の行く先を、目で追っていく。


 クリスタルから放出された光は、孤を描くように近くへと落下した。


 その光は、スライムの様にゆらめいていて、僅かな電流をまといながら形作られていく。


 そして、ちょっとしたダンスを交えるように…

 実体化した「それ」は、コミカルな着地のポーズで、僕たちの前へと現れたのであった。



 「じゃじゃーん♪」


 魂が解放されて早々、満面の笑み。僕と同じ濃灰色のブレザー姿。

 予想してた通り、緑のウェーブヘアに琥珀色の瞳、垂れ目、そしてかなりの巨乳!


 彼女こそ、封印元だった雷のチャームの持ち主。マリア・ヴェガであった。



 「よっと。わぁ、すごい所にきちゃったみたいだね… あ! アゲハやっほー!」


 目が覚めたらこんな突然の異世界で、怖くないのだろうか?

 そんなマリアが辺りを見渡した先、前方にいるアゲハの方へ、真っ先に駆け寄っていった。




 サリバとイシュタは、揃って口をポカンと開けたまま。


 洞穴に身を潜めているブーブも、鼻の下を伸ばす様に、マリアを見入っている。


 僕も、「あれ? ここはもう少し『ここはどこ? 私は誰?』的な反応がくるかと思ってたのだが」と言わんばかり、冷や汗をかいてしまった。


 いや、でもいいんだ!

 これで、やっと1人目の仲間の魂を解放できたのだから!


 すごいぞサリイシュ!

 君たちの力で、僕の大切な仲間を解放できるのだと知って、安心したよ。

 ありがとう!




 【クリスタルの魂を全解放まで、残り 24 個】

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