ep.3 僕の恋人は、女王陛下でした。

 「で、ここから中に入ればいいの? 門番とか、誰もいなさそうだけど」

 僕がそういうと、イシュタが正門を指さした。

 よく見ると、扉の横に、どこかで見た事があるような黒い四角形の物がついている。

 「それなら、その扉の横に付いているインターホンを鳴らせば、きっと女王様がロックを解除してくれるよ。今はそのぅ、勇者様が、敵陣への潜入調査で遠方に出ちゃってるから」


 インターホン!!

 しかも「ロックを解除」なんて言葉、もろ現代じゃねーか!!


 マジかよ、流石にここまできたら、言い逃れはできないだろう。

 こんなにバンバン証拠が出てきておいて、これで女王様が実は「転生者」ではなく、この星の先住民でした~! なんて言われたらもうワケが分からないぞ。



 あ。

 よく考えたら、ここの人達と言語が通じている時点で気づくべきだったわ。




 「――だね。うん、了解… うん。フェデュートが大人しい今のうちに、その『富沢』ってやつをどうにかしないとだね… あ! ちょっとまって?」




 王宮の上階、バルコニーから、聞き覚えのある女声がした。

 しかも、誰かと電話している?


 その人は、下の門前にいる僕たちの姿を見て、急いでバルコニーを後にした。


 僕はドキッとした。

 少しだけ、見たかった顔が見られた。

 間違いない。その人も僕を見て、すぐさま門へと顔を出しに向かったのだ。


 インターホンを押しにいくより、早かった。


 大きな扉が、ゆっくりこちらへ開く。


 僕は今にも泣きそうだ。

 そこから、遂に会いたかった仲間の1人がやってきた。


 「アキラ!」




 「――アゲハ」


 そうだ。

 彼女こそ、夢の世界ではいつも一緒だった、清水あげ

 小柄で、赤毛で、強くて優しい人。僕の大好きな人。


 僕とアゲハは、門前と噴水をバックに、抱擁ハグを交わした。


 「アキラ…! 久しぶり。元気にしてたんだね」


 アゲハが、嬉し涙を流しているのが、よく分かる。

 僕も嬉しかった。

 ここでは、からどれほどの年月が経っているか分からないけど、僕が知っている通りのアゲハで安心した。少し高価そうな和服を着用している以外、何も変わってないようだ。


 暫くの抱擁を終えた後、僕はアゲハを見つめながら、今回の経緯を話した。

 「心配をかけさせて、ごめん… 俺、なんでか知らないけど、ひまわり組から、あの日を境に3年も眠りについていたってきいたんだ」

 「え? 3年??」

 「うん。だからその間に、アゲハに淋しい思いをさせたんじゃないかって」

 『あれ!? おーいアゲハ! 今の声って、もしかしてアキラか!?』


 あ。そういえば先のバルコニーのシーンで気になってたんだけど、アゲハはそこで誰かと電話をしていたよな?

 今の音声は… 携帯端末から? 保留にせず繋がったまま??

 僕がその音声の鳴った方を見ると、それは黒いガラパゴス携帯であった。


 て、ガラケーかよ!!

 スマートフォンより一世代前のアイテムじゃないか!!

 しかも今の声って、


 「マニュエル!?」


 そう。その声の主も、僕はよく覚えている。


 桜吹雪満獲まぬえる。通称マニー。

 僕が夢の世界で、何度もくじけそうになった時、よくサポートしてくれたのが彼だった。

 在籍校の人気者で、文武両道の頼れる先輩だ。僕は今度こそ涙が溢れそうになった。


 『やっぱり、アキラだったか! 久しぶりだな。今までどこで何をしていたんだよ?』


 アゲハが手に持っているそのガラケーから、スピーカーをONにし、マニーの声が僕にもハッキリ聞こえる様にしてくれた。

 僕は申し訳なさと同時に、マニーにも事の経緯を話そうと思った。

 「ごめん。俺、どうやら眠らされていたみたいで…」

 『眠らされた?』

 すると、ここでアゲハの表情が変わった。アゲハは、夕陽を見つめていう。

 「もう日が暮れる。悪いマニー、続きはまた今度」

 


 そういって、このあとマニーの返事が返ってくることはなかった。

 ガラケーの画面を見ると、真っ暗になっている―― もしや充電切れか?


 「ごめんアキラ。この世界で流通しているガラケーはソーラーパネル式だから、屋外の日中でしか使えないんだよ。マニーも私も、この通り無事だから安心して」

 「え? そうなんだ。不思議な機能だな… わかった」

 「あ」




 …アゲハが、陽の沈んだ山をバックに僕へと振り向いた途端、何かに気づいたらしい。

 少し、表情が引きつっている?

 僕は、その視線の先である後ろへと振り向いた。そこには、




 「あわわ… あわわわわわ…!」


 サリバが、真っ赤に染めた顔を隠すように、自身の両手で口元を抑え、

 イシュタは、オバケでも見たかのように目を大きくし、石のように固まっていた。


 「じょ、女王様が…! 男の人を前に、あんなに喜んでいられるなんて…!!」

 「ま、まさか! じょじょ、女王様が、今まで独身を貫いていた理由って!!」


 バタンッ!


 「え? ちょっと、イシュタ!?」


 サリバの声かけも叶わず、イシュタはベニヤ板のように、そのまま仰向けに倒れた。

 あまりに衝撃的な光景だったのか、ショックで失神したようだ。


 「えー」


 そんな? そんなに衝撃的だったか?? 僕とアゲハが抱擁する姿。


 てゆうか、もしかしてこの男女2人、結構ウブなのかな。

 思えば、体格のわりには「幼さ」というか、どこか垢抜けてない感じがするし。もしかして、彼らはまだ「恋愛」というものを知らないのでは?

 なんて憶測は、今はやめておこう。さて、こうなるとアゲハが心配だ。


 「やっば」


 と、アゲハはとてもこの国の女王とは思えないようなラフな口調で、自身のこめかみを搔いていた。今日の事が国中の噂になるのを、危惧しているのだろうか。

 僕は、ただ戸惑うばかり。何を、どうすればいいのか、全然分からなかった。


 それでも時間は残酷で、空はあっという間に、月光に照らされる夜へと変わった――。




 【クリスタルの魂を全解放まで、残り 25 個】

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