ep.2 知る人ぞ知る奇跡「虹色蝶」

 ん? なんか嫌な予感がするぞ??


 つまり、この世界は「人間」という種族が魔法使いカーストの上位で、人間でありながら魔法が使えないのは、もしかしたら家徳的に「恥」なのかもしれない!

 このままだとマズい。ここは、なんとしても僕が微塵も魔法が使えないヤツだなんて思われないよう、何か生み出さないと! そうだ、虹色蝶!!


 「ま、まさかぁ! お、俺も一応使えるますよぉ。こ、この通り」

 ♪~


 ダメだこりゃ。緊張しすぎて、口調がおかしくなってやがる。

 だけど、この世界でも虹色蝶を片手でフェードインさせる事は出来た! よし、これで目の前にいる先住民2人を納得させる事はできたはず…


 「「虹色蝶!?」」


 ふぇ!? なんか、目キラキラされながら驚かれたんだけど!?

 いや、寧ろこの反応は良い方なのか。てゆうか、虹色蝶が視認出来て、何なのかを分かっている様子だから、もしかしてこの人たち何か知っているんじゃ?


 「ウソでしょう!? あの女王様と勇者様しか出せないとされている魔法を…!」

 「奇跡だ。もしや、あなた様は女王様のご親族かなにか?」


 2人とも、熱くて触れないからか、サツマイモを浮遊させながらのこの驚きよう。

 しかし、とんでもない情報が飛び交ってきた。女王様と、勇者様って…


 「え? いや、えーと。その前に訊きたいんだけど、この国の女王様ってどちらさん?」


 疑惑が、確信へと変わる。

 僕の知る限り、たぶんその女王様と勇者様は… ううん。今はまだ何も言わないでおこう。


 「「あっ」」

 すると、サリバとイシュタは揃って気まずそうな表情を浮かべた。

 もしかして、僕みたいなのが女王様のことを「どちらさん?」なんて言ったもんだから、今度こそ無礼なやつだと思われたんじゃ…

 「あれ? もしかして、この辺の人じゃないのか」

 「通りで、見かけない顔だと思った。でも、すごいじゃなーい! そんな奇跡と呼べる虹色蝶を、他にも生み出せる人がいたなんて。きっと、こうして出会えたのも何かの縁ね」

 「はぁ」と僕が拍子抜けしてしまうくらい、サリバは大喜びだ。

 ちなみに、虹色蝶はすでにフェードアウトしてある。彼女はこう続けた。

 「説明してあげる。ここ、アガーレール王国の女王様は、あそこの丘の上の森にある王宮で暮らしていて、この国の文明を発展させた凄いお方なの!

 このサツマイモも、女王様が最初に見つけ、その名を国に広めた栄養食なんだよ?」




 あー、なるほどね。


 つまり、サツマイモの名づけ親はこの国の女王様で、しかもその人の正体は僕と同じ、日本からきた“転生者”だと。

 いや、ここは転移と呼ぶべきか? それとも召喚? トラベラー? …むう分からん!




 ところで、この星にあるこの国って「アガーレール」という名前なのか。

 独特な響きだな。異世界人の僕が言うのも何だけど、何かこう、由来でもあるのかな?


 「その女王様に、会って話がしたい」

 僕は意を決して、王宮まで案内してもらおうと懇願した。

 ここから目視で見えるくらい近い距離だ。2人は驚きざまに目を見開いた。


 「あー。いきなりこんな失礼な事をいうのは承知の上だけど、俺、多分その女王様の事を知っているかもしれない。そこまでの行き先というか、案内してもらえるかな?」


 すると、先にお互いを見合わせる男女2人。


 そして、すぐに同じタイミングで僕へと視線を戻した。2人は肩をすくめた。


 「いいよ。食べ歩きながらでも、今から一緒に王宮まで寄ってく?」

 ――え?

 「うん。それに、早く食べないと冷めちゃうしね。こっちだ」

 はえー!? 意外とあっさりOK! ノリ軽っ!!

 僕がこの展開に内心驚いている間にも、サリバが先にその丘の方向へと歩き出した。

 イシュタもそれに続き、さっそく彼らの後をついていく事に。




 ――――――――――




 「王宮って、そんな軽いノリで行ける所なの? 部外者には厳しいイメージがあるけど」


 なんて言って、雑木林の間を歩きながら芋を食べる僕。

 うん。味はまさしくサツマイモ。甘くておいしい。


 すると同伴しているサリバが、困り笑顔でその件についても説明した。

 「女王様は、そんな器量の狭いお方じゃないよ? 基本的に誰でもウェルカムだし、同じ人間という種族ならなおさら! 国民を大切に思っていて、しかもお喋りが大好きな方で」


 あー、わかりますわかります。

 その性格はやはり“彼女”だったか。僕が予想した通りの女王様だったわ。




 「はい。もう着いちゃった」


 そういって辿り着いたのは、日本の城を彷彿とさせる、森の中の宮殿。


 正門の前には、美しい西洋風の噴水や、四阿あずまやなどが設置されている。

 2人の自宅である一軒家から、歩いて10分くらいの場所だ。


 気が付けば、もう日が暮れそうであった。

 そうか。この世界は時の流れというか、太陽が動くのが早いからなぁ。


(つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る