第一部 ―カナリアイエローの下剋上―
ep.1 異世界にサツマイモなんてあるか!
目を瞑った先には、光の速度で動いている様な、走馬灯。
緑と、茶色の、模様が見えてきた。
緑の方が、ハッキリしている。
緑の正体が… 木々であると分かる。
その木々が、どんどんこちらへと近づいている?
僕は… 落下している!?
「おわっ!」
ファサ! ドン! パラパラパラ。
いてててて…
まだ、打ち所が悪くなくて済んだけど、一体どれくらいの高さから落ちたんだ? 僕は。
僕の落下地点は、木々に挟まれた葉っぱのクッション。
地球のそれと同じ様な、水と光合成で成長するそれによって、助けられたものだ。
ケガはないけど、ちょっと、お尻が痛い。
あの神様2人、随分と手荒な事をしてくれるなぁ。
まぁ、写真の解像度も下がる様な遠い星へのワープだから、スポーン地点が多少ズレても仕方がないか。僕はそう考え、立ち上がろうとするが…
「あれ? ねぇイシュタ! ここに人がいるよ!!」
今の声は、なんだ?
女の子? 声質からして、地球基準でいう中高生くらいだろうか。
「え! 嘘だろうサリバ!? 本当にいるの!?」
今度は、少し中性的な、だけどちゃんと男性だと分かる声が響いてきた。
女性の友達かな? 少し口調がナヨナヨしているのが、気になるところではあるが。
彼らが驚きざまに言っているのは、間違いなく僕のこと。
まぁ、それもそうだろう。
まさか、空から白い頭髪の男が降ってくるなんて、誰も思わないだろうからね。
はて。これからそれを、どう説明したらいいんだ? 先住民に詰め寄られた場合は。
「ホラ、いたいた! ねぇお兄さん、大丈夫?」
僕が葉っぱクッションから抜けだす前に、かけつけた男女2人と目が合った。
両方とも、身長は地球基準で165cmくらいあるかな?
男性はまだしも、女性でその背丈は中々の大柄だ。でも、顔はどこか幼い。
少年少女、だろうか? 金と紫のグラデーションヘアの女性と、黒髪ロングの男性。
「手、貸しますよ? さぁ」
次に男性の方が、僕へと手を差し伸べた。
僕はお言葉に甘え、彼らの手を取って無事、立ち上がったのであった。
大自然に囲まれた平原。
近くには、紫色の屋根が特徴的なアジアンテイストの一軒家。
更には、平原にシカ? それともウサギ? な、良く分からない中型の生き物までいる。
外観としては、僕が元きた世界で暮らしてきた地球とほぼ同じだし、気温も空気もちょうど良いけど、やはり異世界というだけあって少し変わり種な部分が見受けられた。
西洋ファンタジーっぽいのに、どこかオリエンタルというか… あれ?
――太陽が動くの、早くない?
僕は新たな違和感に気が付いた。空を見上げた。
この星の自転が早いのか、時の流れでそう見えるだけなのかは不明だが、太陽の動きが地球のそれより早い気が… いや。“気がする”のではない。早いんだ!
「どうかしたの?」
女性が、不思議そうに僕の横顔をまじまじと見つめていた。
僕はハッとなった。
「あ、いや。ちょっと、時間が経つのが早いなぁって」
僕は自身の後頭部をかく。女性はニッコリと微笑んだ。
「そう? 私達にとっては、普通だけどね。その様子だと怪我はなさそう」
「あー!!」
て、びっくりしたぁ! 急に男性の方が、何かを思い出したように顔面蒼白になった。
僕たちは揃って振り向く。男性はすぐさま紫色の屋根の一軒家へと走り出した。
「時間経過で思い出した! サツマイモ焼いたままだったんだ! あのままだと焦げてしまう! ちょっとそこで待ってて!」
ん? サツマイモ?
サツマって、確か現実世界だと日本の薩摩地方が発祥の芋だから、サツマイモっていうんじゃなかったっけ?
なのに、この異世界で「サツマイモ」!? え、どういうこと!?
「あー、ごめんなさいね。実はさっき、家でサツマイモを焼いていた所だったの。遅くなったけど初めまして。あなたの名前は?」
そうだった。この世界のアレコレについ気を取られてしまって、今回が初対面だというのに無礼をかいてしまった。
僕は気を取り直し、改めて挨拶を交わした。
「セリナ。芹名アキラです、よろしく」
「よろしくね。私はサリバ。さっき家に向かったのがイシュタ。私達は幼馴染なんだ」
へぇ。サリバと、イシュタか。あの一軒家は彼女たちの自宅だと。
という事は、口ぶりからして、彼女達はこの星の“先住民”という解釈でいいのかな?
「おまたせ! ギリギリ焦がさずに済んだ。ちょうど良く焼けたよ」
そこへ、イシュタと名乗る男性が戻ってきた。
その両手には、サツマイモと名付けられた紫色の焼き芋が… 少し浮いてる!?
「熱いから気を付けて。お兄さんも、良かったらどうぞ」
え。初対面なのに、いいのかな? もらっちゃって。
てゆうか、手の平から芋を浮遊させてくるなんて、一体誰が予想したよ!? つまり、
「あぁ、どうも。あの… それって、魔法か何かで浮かせてます?」
なんて、芋を受け取りながら何故か礼儀口調で、イシュタに質問してしまう僕。
2人とも、僕の質問に疑問符を浮かべた。
「なにって、『魔法』よ? 私たち人間は、魔力がとても高い種族で知られているの」
「その様子だと、もしかしてあなたは魔法が…」
(つづく)
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