ep.3 たった一人で、異世界の旅へ!

 「礼治さん。その… お久しぶりです。さっき、ひまわり組から事情をきいて、それで」


 正直、「久しぶり」なんて実感は湧かないけど、ここは空気を読んで説明する僕。

 すると礼治は穏やかな視線で、

 「そうか」

 といって見つめた。とても魔王を務めているとは思えないような、哀愁が漂っている。

 「ここへ来たという事は、俺に話しておきたい事があって来たんだろう? ひまわり組の2人から、何を訊かされたのか、詳しく説明してくれるか?」

 そういわれたので、ここは僕が、言われたままの事をかくかくしかじか伝えていった。




 「――なるほど。それでアキラはその世界へ、皆を探しにいくと」


 「はい。アゲハ達が… 仲間達が生きていると聞いたので、現地で会えるなら会って話がしたいんです。その前に、せめて礼治さんに顔を出さなきゃと思って」


 ダメだ。あの日までずっと一緒だった仲間達へ会いに行くだけなのに、緊張している。

 きっと、初の試みだから不安なのだろう。ミネルヴァ曰く、神の力で肉体を作れるというが、そちらへのトリップ直後に“何かあったら”と思うと心配だ。


 「怖いのか?」


 礼治から出た返事だ。

 ぶっちゃけそうなんだけど、僕はそれでも気丈に振る舞った。

 「もちろん、向こうへ着いた瞬間に、猛獣に襲われるんじゃないかとか、そういう不安はあります。どういう所か、分からないし。でも、俺には皆から受け継いだこの力が…」




 といいかけて、僕は絶句した。


 おかしい。

 咄嗟に両手の平で器を作る様な仕草で、そこから魔法を生み出そうとしたのに。


 ♪~

 生み出せたのは、青色基調の虹色蝶だけが、キレイな音を奏でヒラヒラ。


 他に、火も水も出そうとしたけど、ぜんぜん出てこない。

 あれ? なんで!?



 「アキラ。今のお前からは、虹色蝶とオーガの身体能力しか、感じられないのだが」


 礼治から聞かされた、衝撃の新事実。

 まさか… あれだけ沢山の魔法が使えていたのに、今の僕は、力を失っている!?


 「くっ! ふんっ…!」

 僕は咄嗟に、試し打ちの要領で、他の魔法も生み出す呪文を心の中で唱えた。

 だけど、何も変化がない。出てくるのは、虹色の蝶々だけ。

 そんな、バカな。


 「アキラ」――と、名を呼ぶ礼治の視線が、少しだけ、鋭くなったような気がする。


 「あの… 礼治さん。俺、今の状態であの世界にいったら」

 更に、この先の旅が怖くなった。

 うっかりだった。自分は、てっきり皆の能力をコピーした状態で行けると思っていたから。

 「さっき、自分で言っただろう? 『彼らと、現地で会えるなら会って話がしたい』と」


 「…はい」


 「ひまわり組が教えてくれたように、この地獄に、彼らの魂は召喚されていない。なら、みんな生きている。たとえそれが、各々おのおのが所有しているそのクリスタルチャームに封印された形であっても――。

 それは、見方を変えれば、クリスタルごと破壊されていないという証拠でもある。それだけ、今からアキラがいく世界の治安は、極端な戦争や災害に発展していないのだろう」


 礼治のその説明には、妙に腑に落ちた。

 そう、信じていいんだよな…? もし、その異世界とやらがとても人間の住めない所ならば、クリスタルチャームも今頃、無事では済まされないはずだもんな? たぶん。


 「彼らを信じるんだ、芹名アキラ。きっとお前が持っていた能力の殆どは、それらのクリスタルチャームに、仲間の魂ごと吸い込まれてしまった可能性がある」

 「!!」

 「その星で、チャームが見つかったら、そこから仲間達の魂の解放に移る。そうすれば、今回のトラブルに発展した原因が分かるかもしれないし、アキラの能力も徐々に戻るかもしれないだろう――。いけるか?」


 礼治は、僕にその「異世界」へ行くかどうかの、最終確認を行った。

 僕は… 正直、ちょっと怖いけど、何もしないよりは吉と捉え「はい」と頷く。




 「礼治さんは、その世界には、行かないんですか?」


 最後に、僕は元のトンネルをくぐって狭間へ戻る前に、礼治に質問した。

 こんな野暮な事を訊いても、無意味なのは分かっている。答えは案の定だった。


 「無理だ。この地獄を統括できるのが、今は俺以外に誰もいない」


 …ひまわり組と同じ、上界の担当で固定か。

 ダメ元で予想はしてたけど、まぁ仕方がない。僕は1人で、異世界へいく覚悟を決めた。



 「ただし、条件がある」



 まさかの、礼治からの一案だ。

 僕は驚きざまに再び足を止め、礼治へと振り向いた。彼は、僕から背を向けたまま。


 「先代魔王を務めた“あの3人”をここへ連れてこい。そうすれば、俺も動ける」




 あの3人… 知ってる。


 シアン、マゼンタ、カナリアイエロー。――という名の“3きょうだい”。

 CMYだ。


 僕たち神様の集まりの中でも、特段、強力な魔法や特殊能力を持ったボス的存在。


 礼治が就任する前は、信号機トリオの、その3きょうだいが交代で魔王職をしていた。

 今じゃ、礼治1人の力と比べれば、彼らは三羽カラスの様な存在…

 なんて言ったら本人達にブッ殺されそうだけど、確かに彼らを呼べば、一時的な上界の職務代理は可能なはず!


 僕は「その手があったか」とばかり、一気に先の不安が解消された。


 礼治さんのアドバイスは、かなり的を射ている。なら、ここは仲間達を信じるのみ。




 「はい!」




 僕はそう深く頷き、トンネルの先の狭間へと戻っていった。




 先行きは、不安だけど、ここは唯一の生還者として、仲間達を解放したい。


 目覚めて早々、とんでもない依頼をされたけど、それが仲間達の為なら、僕は戦う。


 上界で寝ている間の「夢」として、僕はその星――アガーレールの旅へ出る事になった!




 【クリスタルの魂を全解放まで、残り 25 個】


(第一部へつづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る