フェイク

工事帽

フェイク

 ある週末。定食屋の片隅で男女二人が食事をしていた。

 レストランでもカフェでもない、定食屋と呼ぶに相応しい、些か古い作りのその店は四人掛けのテーブルが数個とカウンター席があるだけのこじんまりとした店だった。

 気取らない店らしく、男女二人の服装も普段着でありデート用の着飾った姿ではない。他の客も普段着の姿ばかり、なのに一人だけ着飾った妙な恰好をしているのは繁華街が近いからか。


 BGM代わりのテレビからニュースが流れる中、客たちは無言で食事をし、食後のお茶を飲みながら暫しの会話を交わす。

 男女二人もそうだった。


 その風向きが変わったのは、女の「テレビで言ってた」という発言からだった。

 食事を終えてからお茶を飲んでの一休み。会計に向かうまでの数分間。そんな場面での会話なんて雑談以外の何物でもない。

 だがそんな数分後には忘れる言葉が、男の心のささくれに突き刺さったらしい。


「テレビのニュースなんて嘘だらけじゃないか。数日前にもインタビューを歪めたって告発されてただろ」

「……」


 それから男はどれだけテレビが信用ならないか滔々と語る。それに比べてSNSなら専門家の言葉を直接目に出来るのだと続ける。


「でもあなたの言う専門家ってこの前炎上してたじゃない。ニセ科学だって」

「……」


 それから女はどれだけSNSが信用ならないか滔々と語る。自称専門家の何が信用出来るのかと、そんなどこかの誰かより組織のほうがよっぽど信用出来ると続ける。


 二人の言い合いはエスカレートしていく。

 椅子から腰を浮かせ、身を乗り出しての言い合い。

 そしてあわや暴力沙汰かというところで、一人の男が割り込んできた。

 その男は薄い布を体に巻き付ける民族衣装のような出で立ちでありながら、その布には金糸を縫ってあるのか男が動くたびにキラキラと光る。


 男は両腕を高く掲げ、全身でYの字を表しながらこう騙った。


「争いは何も生まないさ。さあ僕が話を聞こうじゃないか。『神』であるこの僕が!」


 店の中には鈍い音と高い音が続けざまに鳴り、言い合っていた男女は店を後にする。


「豆腐のから揚げお待ち」


 派手な服の男は床から起き上がり、カウンターの席に座った。

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