第34話

それから舞は全く知らない透明病について調べまくった。



まずは身近にあるスマホで。



それから市立図書館で本を借りて。



透明病は医師の言っていた通りの難病で、記事や本を探し出すのも大変な作業になった。



そしてそれを読み込んで理解するまでにはもっともっと時間がかかる。



それでも舞は諦めなかった。



放課後になると真っ先に病院へ向かい、青っちと一緒に運動をした。



病院の中庭には大きな広場があり、そこには上体を反らせたり腕立て伏せができる器具が置かれている。



もちろん、医師に許可をもらってから、それらを2人で行った。



透明病は1億人に1人がかかる病気で、まだまだ解明されていないことも多い。



日本の発症者は青っちが第一号となってしまい、そのことで青っちは冗談で「俺ってすげーじゃん」と笑っていた。



ある日舞はネットで病気について調べていると、とある動画ブログにたどり着いた。



それは透明病を患った患者が気の向いたときだけアップロードしている動画で、国はアメリカになっていた。



長い金髪が病院の窓から差し込む太陽の光にキラキラと輝いてとても綺麗。



それが舞の第一印象だった。



彼女の名前はアマンダと言うらしく、年齢は青っちと同じ17歳。



透明病を発症して2週間目だと言う。



アマンダも動画の中で毎日筋肉トレーニングをしていて、弱っていく体をどうにか保とうとしている。



それでも筋力は落ちていくようで、前にできていたトレーニングが今はできなくなったと伝えていた。



「2週間で、そんなに変わるんだ」



舞は毎日アマンダの動画が更新されていないか確認して、その病気の進行具合をメモしていた。



本には悪化していく度合いには個人差がると書いてあり、具体的にはよくわからないままだったのだ。



だから、性別は違えど同じ17歳のアマンダの動画日記は参考になった。



『今日はあちこち透けていて、あまり起き上がることもできないの』



アマンダはそう言って、額に汗を浮かべながら透けている体を撮影した。



右腕。



ウエスト。



左の太もも。



それらが透けて、ベッドシーツが見えてしまっている。



『みんなお願い。私の顔を覚えていてね』



アマンダのその願いは、舞の胸に痛かった。


☆☆☆


「青っち、今日も来たよ」



元気な声をかけながら病室へ入ったとき、青っちはベッドの上で苦しんでいた。



足首から下がすべて透けている。



それに気がついた舞はすぐにかけより、ナースコールを押した。



「青っち大丈夫? 苦しい?」



「舞……」



青っちは薄く目を開けて舞の姿を確認すると、痛いほどに手を握りしめてきた。



舞は文句も言わずに握り返す。



入院してすぐの頃はこんな風に苦しんでいる姿に出くわすことはなかった。



丸1日透けること無く過ごしていた日もあるくらいだ。



だけど最近はそうじゃなくなってきている。



舞がお見舞いに来たときに苦しむ回数は増えていたし、それ以外のときにも透けている時間があるそうだ。



必然的に運動する時間は減らすしかなくなっていた。



中庭で行っていた運動も、今では院内のリハビリ施設を利用するようになった。



だんだん青っちの体から筋肉が抜け落ちて、小さくなっていく。



それを近くで見ていた舞は泣きそうになったが、絶対に青っちの前では泣かなかった。



青っちは頑張っている。



やれるだけのことはやっているんだから、きっと大丈夫。



自分自身にそう言い聞かせていた。


☆☆☆


青っちが入院して10日が経過した。



もう10日。



だけど、まだ10日だ。



舞がいつもどおり学校へ向かうと教室の中がやけにカラフルだった。



「あ、舞おはよー!」



「今みんなで千羽鶴折ってんの!」



恵美と淳子がそう言って手招きをする。



色とりどりのツルに囲まれた教室内に足を踏み入れた舞は胸が詰まるような思いだった。



クラスメートたち全員が机で黙々とツルを折っている。



「これ、開いてみて」



恵美がオレンジ色のツルを差し出してきた。



「え、開くの?」



せっかく綺麗に折られたツルを開くなんてできなくて、舞はとまどう。



「いいから、早く」



愛に急かされて舞は渋々折り鶴を開いてみた。



そこにはマジックで『早く元気になれ!』と書かれていて、舞は口元を手で覆った。



「もしかして、この折り鶴全部に?」



聞くと、3人組は笑顔で頷いた。



うそ……!



千羽鶴のすべてにみんなからのメッセージ。



こんなの見せられたら、いくら我慢していても涙が溢れだして来てしまう。

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