第32話

普段よりも増えた通話料とメッセージ量に、本当に暇をしているのだろうということが伺えた。



そのタイミングでスマホがメッセージが届いたことを知らせた。



「お、噂をすればなんとやら」



愛が横から茶化してくる。



確認してみるとたしかにそれは青っちからのメッセージだった。



《青っち:明日の夕方には全部の検査結果が出るらしい。異常がなければ退院だ!》



沢山の絵文字とともに送られてきたその文章に舞の頬は自然とゆるんだ。



青っちが戻ってくる!



《舞:じゃあ、明日迎えに行くね!》



舞は心を踊らせて、そう返事をしたのだった。


☆☆☆


次の日の授業はほとんど身に入らなかった。



放課後には青っちに会いに行くことができる。



青っちの両親も病院にいるだろうから、しっかりと挨拶をしなきゃいけない。



朝から緊張と嬉しさで勉強なんてできるわけがなかった。



そして待ちに待った放課後がやってきた。



舞は恵美たちに挨拶をしてすぐに教室から飛び出した。



もうすぐ青っちに会えると思うと靴を履き替えることだってもどかしい。



病院までは大通りに走っているバスに乗って行く予定にしている。



バスに揺られていると青っちとの思い出が蘇ってきて、自然と口元が緩んでしまう。



青っちのお父さんは遊園地のチケットを沢山もらったと言っていた。



青っちの退院祝いに、もう1度2人でバスに揺られて行ってみてもいいかもしれない。



そんなことを考えていたのだった。


☆☆☆


それから30分後。



舞の目の前には医師がいて、横には青っちの両親がいた。



病院へやってきた舞はちょうど病気の説明を受けに行く両親と鉢合わせをして、緊張しながらも挨拶をした。



そして一緒にこの部屋に通されたのだ。



突然ご両親と一緒に医師の説明を聞くことになった舞は緊張したけれど、青っちの病気については知っておきたかった。



そして告げられた病名は……「透明病です」まだ若い医師が伏し目がちにそう言った。



「透明病? なんですかそれは」



青っちの両親は透明病という名前を初めて聞くようで、まばたきを繰り返している。



「単純に言えば、どんどん体が透明化していく病気です。悪くなれば完全に消えて見えなくなってしまう」



「そんな病気があるんですか?」



にわかには信じられないようで、青っちの母親が首をかしげた。



「はい。透明になるにつれて体力が落ちていき、寝たきりになることもあります。ですがこれは日頃から運動やリハビリを行うことで改善されることがわかっています」



舞はぼんやりと医師の説明を聞いていた。



透明病は1億人に1人がかかる難病で、まだ日本では発症例がない。



つまり青っちが1人目になるみたいだ。



海外では研究が進んでいるけれど、今のところ透明化を止めるために有効な薬はないということ。



青っちは退院することなく、このまま入院して治療とリハビリ入ることが説明されている。



そんな中でも舞は呆然としたまま、医師の声はどこか遠くから聞こえてきているような気がしていた。



透明病。



1億人に1人の難病。



青っちが、透明病……。


☆☆☆


いつ、どうやって家に戻ってきたのか覚えていなかった。



とても1人でバスに乗ることはできなかっただろうから、青っちの両親が車で送ってくれたのかもしれない。



「私、ちゃんとお礼を言ってないかも」



家まで送り届けてもらえたのにそれは無礼だ。



そんなことよりももっと大切なことがあるのに、舞の頭の中で最初にひっかかったのはそのことだった。



人間、あまりにショックなことがあると、そこから逃げて別のことを考えたくなるのかもしれない。



それから舞はフラフラと立ち上がり、ようやく着替えを始めた。



制服のままでずっと座り込んでいたから、スカートはシワだらけだ。



「夕飯、作らないと」



それに洗濯物も干しっぱなしだ。



お風呂は洗ったんだっけ?



必死で日常に戻ろうとするが、うまく行かない。



玄関の鍵が開けるられる音を聞いて、鍵だけはちゃんと閉めたのだと思い当たった。

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