第24話

昨日の告白は青っちからじゃなかった。



ベランダでお弁当お食べた後、それを3人に伝えると、3人は同じように大きなため息を吐き出し、そして勘違いするようなことをした青っちを攻めた。



「ほんと、人の恋応援してどうすんだって感じ」



淳子が頬を膨らませて腕組みをして、怒りを顕にする。



「青っちだって絶対舞のことが好きだって」



励ましてくれるのは愛だ。



そして恵美は呆れた顔でまたため息を吐き出した。



「あんたたち見てると、まどろっこしくてなんないわ」



「それってどういう意味?」



首を傾げて聞くと恵美はまたため息を吐き出した。



返事をする気はないようだ。



とにかく昨日の告白はただの勘違いだった。



舞は少しでも期待してしまった自分が恥ずかしくて、立てた膝に顔をうずめたのだった。


☆☆☆


昨日のように誰かに呼び止められることもなく教室を出て、昇降口へ向かう。



英介との関係は以前と変わらず、気にしていたほどぎこちない様子にはなっていなくて安心した。



けれど少し気になったのは青っちの方だった。



英介から告白の結果について聞いたのか、朝の挨拶のときからずっとぎこちなかった。



舞から話しかけても一言二言会話を交わしただけで逃げてしまう。



その様子を思い出して舞はため息を吐き出した。



なんだか青っちと距離ができてしまった気がして仕方がない。



好きだと気がついてまだそんなに時間も立っていないのに、舞にとって想定外の出来事だった。



これから先うまくいくことがあるんだろうか。



そんなことを考えながら昇降口へ到着したとき、青っちがそこにいることに気がついた。



「青っち、なにしてるの?」



舞はできるだけ自然に声をかけた。



「舞を待ってたんだ」



青っちはまだぎこちない様子で、舞から視線をそらしつつ言う。



青っちは英介の友達だから、友達がフラれたことでなにか言いたいことがあるのかもしれない。



「そっか。一緒に帰る?」



聞きながら靴を履き返ると、青っちは素直に頷いたのだった。



青っちと肩と並べて歩くのは初めてではないのに、妙に緊張してしまう。



青っちへの気持ちに気がついたこと、英介を振ってしまったことなど、色々な気持ちが溢れてきて、青っちの顔を見ることができない。



2人は無言で帰路を歩く。



それほど長くはない道のりだ。



舞は勇気を出して青っちへ視線を向けた。



「話ってなに?」



聞くと、青っちは軽く体を震わせて舞を見た。



その目は少しだけ潤んでいるように見えた。



「英介から聞いた。断ったんだって?」



「うん」



「どうして?」



「好きな人がいるから」



そう言って青っちの表情を盗み見る。



しかし、青っちはそれに対して反応を見せなかった。



もう少し食いついてくれると思っていた舞は、ガッカリした気分になり、前に向き直る。



「少し休憩して行こうか」



そう言った視線の先には小さな公園がある。



あの日3人組に踏みつけにされた場所だ。



よりによってあの公園かと思ったが、青っちはなにか余裕のない表情を浮かべているので、舞は頷いた。



小さなベンチに2人で座ると少し窮屈なくらいだ。



青っちと自分の肩が完全に触れ合っていて、温もりにドキドキしてしまう。



「ここの公園、相変わらず雑草がすごいね」



雑草は更に背を伸ばしていて、歩くのもやっとだ。



「こんなところでごめん」



青っちはようやく思い出したように言った。



「ううん。大丈夫。 それより青っちも大丈夫? さっきから険しい顔してるけど」



「俺は大丈夫だよ」



青っちはそう言うと居住まいを正して舞の方へ体を向けた。



狭いベンチの上だから、今度は膝がぶつかり合う。



青っちはそれを少し気にしながらも真っ直ぐに舞を見つめた。



「舞の好きな人って、誰?」



まさかここに来てその質問をされるとは思っていなかったので、舞は一気に赤面してしまった。



耳まで熱くて、つい視線をそらせてしまう。



「それは、えっと……」



「もしそれが俺だったら」



「え?」



舞は驚いて顔を上げる。



青っちの顔は舞に負けないくらいに赤く染まっていた。



「付き合ってほしい」



青っちの声が緊張で震えた。



だけどそれはまっすぐに舞に届き、鼓膜を震わせることになった。



「わ、私でいいの?」



思わず聞き返す。



それがどういう意味なのか理解した青っちが大きく目を見開いた。



「俺は舞がいい。舞のことが好きだ」

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