第25話

ずっと欲しかったその言葉。



好きな人からの告白に舞は目の奥がジンッと熱くなるのを感じた。



そのままポロリと涙がこぼれおちる。



「ご、ごめん俺、変なこと言って!」



慌てる青っちに舞は手を振って「大丈夫。嬉し泣きだから」と、答えた。



「舞、嬉しい?」



「うん。すっごく嬉しい」



そう言うと同時に、勢いよく青っちに抱きついていた。



どうせ誰も見ていないし、見られて困ることもでないと開き直る。



「舞は俺のことが好き?」



「うん。大好きだよ」



青っちの大きな腕が舞の背中に回る。



ギュッと抱きしめられると少し苦しいくらいだったけれど、それ以上に心地いい。



「舞、大好きだ」



「うん。私も青っちが好き」



何度も口に出して確かめ合う。



そしてようやく身を離した時青っちの顔が目の前にあった。


なんども見慣れたその顔に、ドクンッと心臓が大きく跳ねる。



それでも舞はゆっくりと目を閉じてみた。



その意味を理解した青っちは舞の薄い唇に自分の唇を近づけた。



☆☆☆


初めてキスを交わしたその日はなかなか眠りにつくことができなかった。



胸の中が幸せに満たされて苦しくて、母親に言えないことをしてしまったというかすかな罪悪感もくすぶる。



布団に潜って何度もそのときのことを思い出しては、枕に顔をうずめて黄色い声を上げる。



そうして気がつくと、窓の外はうっすら明るくなって来ていたのだった。


☆☆☆


翌日もボーっとしてしまって気がついたC組の教室の前に立っていた。



こんなにぼんやりしていてはいけないと思ってみても、どうしても夢見心地になってしまう。



「おはよう舞」



後から声をかけられて振り向くと青っちが立っていて、舞の心臓はドクンッと大きく跳ねた。



一瞬にして昨日のキスを思い出してしまう。



「お、おはよう」



挨拶すらもぎこちなくなってしまい、意識した青っちが顔を赤く染めた。



つられるようにして赤くなり、うつむく舞。



「ちょっと、そんなところに立ってたら教室に入れないじゃん」



恵美の文句を言う声が聞こえてきて2人は慌ててドアの前から身を離した。



「お、おはよう恵美」



「はいはい。朝からイチャイチャしないでね、暑苦しいから」



恵美はパタパタと手で仰ぎながら2人の間を割るようにして教室へ入ってきた。



その後に淳子と愛も続き、2人はニマニマとした笑みを舞たちへ向けている。



「で? 告白はどっちから?」



一旦通り過ぎた恵美がわざと途中で立ち止まり、そう質問をしてきた。



「こ、告白って、な、なにが!?」



青っちの声が裏返る。



「2人共バレバレだよ~? 朝っぱらから顔真っ赤にしてドアの前で突っ立ってるんだから!」



淳子に言われて舞と青っちは互いに顔を見合わせた。



確かに、2人共まだ顔は真っ赤だ。



「そ、そんなことないし」



と否定してみても完全に遅い。



舞は恵美に肩を抱かれて「さぁ、詳しい話を聞かせてもらおうか?」と、刑事ドラマさながらに事情聴取を行われたのだった。

116 / 178


☆☆☆


3人のパワーに根負けして昨日の出来事をすべて話してしまったその日の放課後、帰る準備をしていると青っちが席に近づいてきた。



「今日、これから時間ある?」



顔を赤らめながら聞いてくる青っちを見ていると、舞まで自然と赤面してしまう。



こんなんじゃみんなにバレても仕方がない。



現に2人のやりとりを見ていたクラスメートの大半が、すでに2人の関係を知っていた。



「う、うん。夕飯の準備があるから、少しだけど」



「そ、そっか。じゃあ一時間だけ俺に付き合ってくれない?」



「い、いいよ。どこに行くの?」



「駅前に美味しいケーキ屋さんがあるんだって。舞、甘いもの好きだろ?」



「うん。好き」



最初はぎこちなくて噛みまくっていたけれど、次第に自然な会話に戻っていく。



いつもどおり、友達の頃と変わらない雰囲気になってきて舞はホッと胸をなでおろした。



あまり意識しすぎていると息が詰まってしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る