第22話

☆☆☆


『俺のこと好きすぎてずっと一緒にいたいとか?』



それは半分図星だった。



いつの間にか、いやきっと青っちと再開したあの日から、舞は青っちに惹かれていた。



男らしくなって再開した青っちは強くて優しくて、まるで太陽のような存在だった。



青っちがいなければ舞は未だにイジメられ続けていたかもしれない。



教室から逃げてトイレに駆け込んだ舞は冷たい水で少し乱暴に顔を洗った。



それでも赤い顔はなかなか収まってくれない。



「私は青っちのことが好き?」



鏡の中の自分へ向けてそう質問すると、当然だというように頷き返された。



もちろん、自問自答したに過ぎない。



だけどそうして確認することで、舞はようやく自分の中での青っちの存在の大きさに気がつくことができたのだった。


☆☆☆


私は青っちのことが好き。



その気持を理解した日から舞はいつでも視界の端に青っちがいた。



つい目で追いかけてしまう。



ついフラフラと近づいて行ってしまいそうになる。



それはすべて無意識の行動で、我に返って赤面してしまうことが何度もあった。



「舞、告白はしないの?」



そんな時にそんなことを聞いてきたのは恵美だった。



いつもどおり4人でベランダに出てお弁当を食べているときのことだった。



あまりに自然に質問されたので、舞は自分がなにを聞かれたのかわからなかったくらいだ。



「こく……はく?」



目を見開き、まるでロボットのようにカクカクと首を曲げて質問し返す。



「そうだよ。青っちに」



続けて愛に言われて思わず口の中のご飯を吹き出してしまいそうになった。



一瞬で顔が熱くなる。



「な、なな、なんで? 告白って。え? どうして?」



今までにない慌てっぷりに3人の笑い声が響く。



「どうしてって、バレバレじゃん」



恵美が余裕の表情で言った。



「バレバレって、そんな……本当に?」



最後には観念してそう聞いた。



まさか自分の気持ちがバレていたんなて思っていなくて、舞は恥ずかしさにうつむいてしまった。



耳まで真っ赤だ。



「舞にとって青っちは王子様だもんね」



淳子が夢見る乙女のように目を輝かせ、両手を胸の前で組んで言った。



確かにそのとおりなんだけれど、なんとも答えようがなかった。



ただただ、恥ずかしくてうつむいている。



「私達応援するよ? あんたには悪いことしたって思ってるし」



恵美の言葉に舞は顔をあげた。



恵美の表情は真剣だ。



「本当に?」



「この期に及んで嘘なんてつかないでしょ。舞はもう友達なんだし」



恵美は少し照れくさそうに頬をかいて言う。



他の2人も頷いてくれた。



友達……。



友達がいて、大好きな人がいて。



それは舞の理想的な学生生活だった。



「あ、ありがとう……」



舞はぎこちなくそう言ったのだった。


☆☆☆


その日の放課後、舞は青っちに呼ばれて教室内にとどまっていた。



理由は聞かされないまま『少し待っていてほしい』と言われたのだ。



それを聞いた舞は心臓が飛び出しそうなほど緊張した。



昼間に告白の話をしたばかりで、妙な期待をしてしまう。



3人は舞へ向けて『頑張れ!』とだけ言って、先に帰ってしまった。



告白場面を見られていていいのなら、残ると言われたけれど、舞が断ったのだ。



でもまさか青っちの方からこんな風に声をかけてくれるとは思ってもいなかった。



誰もいなくなった教室で青っちを待っている間、心臓はこわれてしまうんじゃないかと思うほど早鐘を打っていた。



そして「待たせてごめん」と言う声が聞こえたとき、舞は勢いよく振り向いた。



「英介?」



その声は女性っぽく、とても青っちとは似ても似つかないものだった。



英介はもじもじとした様子で教室内に入ってくる。



「どうしたの英介? 青っちは?」



廊下から顔を出して見てもどこにも青っちの姿はない。



自分をここへ残るように伝えたのは青っちなのに、どうしたんだろう?



「青木君には先に帰ってもらった」



「え? どういうこと?」



視線を英介に戻して舞は首をかしげる。



「舞を呼んでほしいって頼んだの、僕なんだ」



その時舞は事情をすべて飲みこんだ。



自分に用事があったのは青っちではなかったのだ。



落胆しそうになる気持ちをどうにか押し込めて、目の前の英介を見つめる。



英介はまっすぐに舞を見つめることができず、キョロキョロと視線をさまよわせている。



その様子だけで英介がこれから何を言おうとしているのかわかってしまった。



それでなくてもこの状況だ。



誰でも感づくことだろう。



「あのさ、僕……」



英介が勇気を振り絞って言葉を紡ぐ。



舞は黙って、真剣にその言葉に耳を傾けた。



「本当に、ずっと舞のことが好きなんだ」



舞は大きく息を吸い込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る