第21話
それからは毎日のように5人でお昼ごはんを食べるようになった。
最初の頃は慣れなくて会話が途切れて青っちに助けを求めることが多かったけれど、梅雨が開ける時期になるとだんだんと打ち解けてきていた。
この3人組と自分が打ち解ける日が来るなんて夢にも思っていなくて、舞は時折自分の頬をつねって現実を確認するほどだった。
「そっか、舞はリクのファンなんだ」
芸能人トークになったとき、舞は好きな俳優の名前を出した。
するとそれに反応したのは淳子だった。
淳子もずっと前からリクという俳優のファンだったらしく、部屋にはリクグッズが溢れているらしい。
「淳子の部屋ってすごいんだよ。四面が全部リクのポスターで埋まってるんだから」
「そうそう。それにベッドに寝転んで見上げた時にリクと目が合うように、天井にも貼ってるの」
愛と恵美が交互に教えてくれる。
そこまで熱狂的なリクファンだとは知らずに舞は話を聞く。
「舞もなにかグッズ持ってる?」
「ううん。グッズはないけれどドラマや映画は見逃してないよ」
本当はグッズも欲しいけれどそんな贅沢はできない。
せめてアルバイトでもしていれば話しは別だけれど。
「それなら一度うちの家においでよ! 保管用と観賞用でグッズも2つずつ持ってるから、少しからあげられるし」
「え、いいの!?」
思わず声が大きくなってテンションが上がる。
淳子の家に行くなんて今まで考えたこともなかったけれど、リクグッズがるというのなら行くに決まっている。
現金な自分に苦笑いしながら右側へ視線を向けるといつの間にか青っちがいなくなっていた。
どこへ行ったのかと教室内へ視線を向けると、英介と一緒にお弁当を食べている姿があった。
「舞これ見て、リクの最新映像だよ!」
舞は青っちのことを気にしながらも、淳子のスマホへ視線を向けたのだった。
☆☆☆
「最近一緒にお昼食べないね?」
5時間目の授業が終わった後、舞は青っちの席まで来ていた。
ここ数日間青っちをご飯に誘っても断られている。
ずっと英介と一緒に食べているようなのだ。
「あぁ。もう俺の出番はないかと思って」
青っちは少し気まずそうに答える。
「なにそれ、出番はないってどういうこと?」
少し怒った声色になってしまって、舞は自分の気持を落ち着かせるため深呼吸をした。
「でも、もう俺がいなくてもあの3人と会話ができるだろう?」
穏やかな声でそう言われると、舞は黙り込んでしまった。
青っちの言う通りだった。
青っちがしょっちゅう話題をふってくれていたけれど、今では共通の話題もいくつか見つかり、会話が止まることも少なくなった。
会話が止まったとしても、以前ほど気まずい雰囲気が下りてくることもない。
舞たち4人はもう普通の友人になれていたのだ。
だから青っちは自分から距離を置き始めた。
それでも舞は納得いかなかった。
青っちだって同じ仲間だ。
どうして距離を取らないといけないのかわからなかった。
「青っちだって一緒に食べならいいじゃん」
「それは嬉しい誘いなんだけど、でもダメだよ。英介が1人になる」
そう言われて舞はハッとした。
英介もまたこのクラスでは浮いていて、未だに友人らしい友人を作ることはできていない。
「そ、それなら英介も一緒に……」
そこまで言った時、英介が唇に人差し指を当てて言葉を遮った。
「わかるだろ舞。俺は誤解は解けても見た目で判断されることもある。そんなヤツが近くにいたら、舞にも迷惑がかかる」
「迷惑なんて!」
「それに俺、英介と一緒にいるのが楽しいんだ」
わかってる。
青っちはちゃんと考えて、その上で自分から離れていることを。
英介も1人ではなくなって最近は笑顔が増えてきたと思う。
「もしかして舞。俺のこと好きすぎてずっと一緒にいたいとか?」
冗談めかしてそう言われた瞬間、顔がボッと熱くなった。
火が出てしまいそうになるほど熱い顔を青っちからそむけて「バカじゃないの!?」と吐き捨てて教室から逃げ出してしまったのだった。
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