第20話
しかし隣の青っちはすでにお弁当箱を広げて豪快にご飯を頬張ってしまっている。
青っちをひとり残して行くわけにはいかなくて、舞は渋々お弁当箱を広げた。
朝も忙しい橋本家では、舞が自分の分と母親の分のお弁当つくっている。
と言っても前の晩の残り物と、冷凍食品だ。
「舞はいつも自分で弁当をつくってるんだ」
なにを思ったのか青っちが恵美たちへ向けてそう言った。
何言ってんの!
恵美たちが舞のお弁当ん興味を持つわけがない。
そう思っていたが「へぇ、すごいじゃん」と、恵美の声が聞こえてきて、舞はご飯を喉につまらせそうになってしまった。
まさかそんな反応をしてもらえるとは思っていなかった。
「恵美も手作りだよ。将来料理研究家になりたいんだって」
会話に入ってきたのは淳子だ。
淳子は自分のしてきたことを忘れてしまったかのように、満面の笑みをこちらへ向けている。
「そ、そうなんだ」
「うん。そういえば舞の家って母子家庭だっけ? じゃあ舞も料理できるんじゃないの?」
ぶっきらぼうだけれど会話を続ける恵美に、舞は「う、うん。少しだけど」と、ぎこちなく答える。
「2人共すごいじゃん。私なんてやっと目玉焼き作れるくらいだよ」
大きな声で笑いながら言ったのは愛だ。
こちらもついこの前青っちのデマを流したとは思えない態度だ。
3人の態度にとまどいながらも舞は会話を続ける。
青っちは時折相槌をうち、会話が途切れると話題を振ってくれる。
そのおかげで舞たち4人はどうにか気まずくならずに済んだのだった。
☆☆☆
「青っち!」
お弁当を片手に自分の席へ向かう青っちを呼び止めた。
「なに?」
「き、今日はありがとう」
教室内でお礼を言うのは少し照れくさかったけれど、本当に嬉しかった。
今まで舞にとってあの3人組は驚異だった。
顔を合わせればなにを言われるか、なにをされるかわからなくて、とにかく怖かった。
それが青っちのおかげで普通の会話ができたのだ。
青っちがこの学校に来るまではとても考えられないことだった。
青っちは白い歯をのぞかせてニッと笑うと「お安いごよう」と、胸を叩いて見せたのだった。
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