第14話

「そうだよ、用事。だからちょっと付き合ってね?」



淳子は可愛らしく小首を傾げてそう言うと、舞の腕を痛いほどに掴んだ。



思わず顔をしかめて淳子を見る。



背の低い淳子は見下ろす形になるけれど、全く動じていない様子で微笑んでくる。



「どこに行くの?」



舞は視線を恵美へ戻して聞いた。



恵美は淳子と同じように微笑んで「公園」と、短く返事をしたのだった。


☆☆☆


学校の近くには小さな公園がある。



とても小さな公園で、あるのは錆びついた滑り台だけ。



管理者がいないようで、基本的に小さな子は立ち入り禁止になっている。



滑り台だって、いつ崩れてもおかしくないくらいに朽ちてしまっているし、腰の高さまでの雑草が生えていた。



誰も寄り付かない公園に連れて来られた舞は、後から愛に押されて膝をついてしまった。



水はけの悪い公園の地面は随分が多く、ドロリとしている。



手足についた泥に顔をしかめつつ、3人を見上げる。



淳子も恵美も、もう笑ってはいなかった。



まるで憎い者を目の前にしているように睨みつけてくる。



「あんたの王子様、さっさと帰ったみたいだね」



恵美の言葉に一瞬舞はとまどう。



王子様とは一体誰のことなのか、思い当たるのに時間がかかってしまった。



しかし数秒後には青っちのことだと理解できた。



「別にそんな関係じゃないから」



「2人で遊園地に行くのに?」



愛に聞かれて「それは……」と、口ごもる。



確かにあれを目撃されたら勘違いしてもおかしくない。



青っちもデートだと言っていたし。



なにも言えなくなっていると恵美が一歩前に踏み出してきた。



なにかされる前に立ち上がろうとしたが、地面がぬかるんでいて咄嗟には立てない。



その間に恵美が舞の体を地面に押さえつけてきたのだ。



地面に膝をついていた舞は背中を押さえられて、まるで土下座をするような体制になった。



体がくの字に曲がって呼吸が苦しくなる。



「なにするの!?」



悲鳴をあげても声がくぐもって遠くまでは届かない。



更に愛と淳子の2人が背中にのしかかってきた。



3人分の体重を支えることなんてできない。



舞は完全に地面に突っ伏すような形になってしまった。



その上から恵美が馬乗りになってくる。



少しでも顔を地面から遠ざけるために首をあげていたけれど、愛が両手で押さえつけてきた。



舞の顔はぬかるんだ土に埋もれてしまう。



「彼氏が強いからって、あんまり調子に乗るなよ?」



背中側から恵美の声が聞こえてくる。



舞は必死にもがくけれど、3人の体はびくともしない。



そうしている間に愛の手の力が抜けて、勢いよく空気を吸い込んだ。



泥臭さが鼻腔を刺激して、情けなさに涙が出た。



顔は泥だらけ、制服も泥だらけ。



その上3人の笑い声が聞こえてくる。



私がなにか悪いことした!?



そんな疑問を投げつけたかったが、声は涙で濡れてまともな発音にもならなかった。



「青木を使って反撃してきたら、これくらいじゃおかないから」



恵美は舞の体から立ち上がると、泥だらけの舞の前にしゃがみこんだ。



そしてその顔を拳で殴りつけたのだ。



衝撃を受けた舞はうめき声をあげて転がる。



痛みが駆け抜けて口の中には血の味が広がる。



油断していたから、口の中を切ってしまったのだ。



悶える舞を残して、3人は公園から立ち去っていったのだった。

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